そうだ学校に行こう!
リルテは前世で蜂に刺されてから、あの羽音を聞くだけで拒否反応が起こり、嫌な汗をかくぐらい苦手だった。その影響で今回無意識のうちに体が反応して気を失ったのだ。
では、生まれてから一度もこのような事が無かったのかといえば、そもそもリルテが生まれた地域には蜂がいない。もちろんこの地域にいないだけで異世界ミウドレンでは貴重で高級品とされているが、国によっては養蜂を行い、蜂蜜が食材として食されている。しかし、地球の蜂とは違い熱帯地域やダンジョンにしか生息しておらず、魔物の蜂も本来ではいない。だから、召喚やテイムされた物に偶々遭遇してしまった可能性が現実的である。とすると誰かがあそこにいたのだろう。現に誰かに助けられ、山の麓にある知り合いの家に運ばれていた。その後、連絡を受けた両親が自宅まで連れ帰って来てくれたのだった。
記憶が戻った事から、やっと落ち着いたリルテは体を起こし、ベッドの上で一旦整理をする事にした。
「思い出したんだから頼まれたことをしないとなー。でもなんか危険な予感がするんだよねー。だって神様に会って転生したら、ラノベとかなら悪い事しか起こらないような気がする………よしっ!とりあえず、ここは地球じゃないんだからまずは身の安全を高めよう。現に死にかけたんだからね。使命みたいに強制的に行動しろとは言われてなかったし、それくらいの時間の猶予があってもいいと思う…神様も怒らないよね?怒らないでほしいなぁ〜」
生前、趣味があまりないリルテだったがラノベは結構読んでいて、特に転生物は大好きだった。主人公の心の声が漏れてしまう作品は多々ある。この独り言もその影響かも知れないと思ってしまうくらいには読んでいたのだ。その物語みたいな体験がまさか自分の身に起こるとは思わなかっただろうがそれでも、魔法が使えるファンタジー世界には胸が踊ったであろう。しかし、これは現実。魔物が日常的にいる世界なのだから、地球より死ぬ可能性が高いのだ。だから慎重になるのは当たり前である。誰だって死にたくはないのだから。
ただ一つ、なぜ今まで神様と会った記憶がなかったのか、その事は引っかかっていたが考えても答えが出る事は無いと判断し、その問題は軽く流す事にした。神様程の、大きな存在が口にした事が果たされなかったのは重要な問題であるが、その事が気にならない程、リルテは転生前からの楽観主義の持ち主であった。
「んーどうしょうかなーそうだっ!学校とかどうだろう?」
身の安全を確たるものにするにはまず、知識を増やす事と実行出来るだけの技術であると安易に考えた結果だった。
まだ子供である為当然であるが、この世界の事を何も知らない。生まれたこの村は辺境の地である為、あまり情報が入って来ない。何が脅威であるか一般的な人々が何をしているかなどの常識が得にくいのだ。
技術に関しては、元冒険者の父フレットが剣の稽古を付けてくれているが、この先何が起こるか分からないので出来るだけ強くなっておきたいと思っていた。そして、魔法の存在だ。この村で魔法を使える者を見た事がなかったのと、フレットの冒険譚でも自身の活躍を中心に語られていた為、魔法使いの話が出てこなかった。記憶を取り戻すまで魔法などとゆうものはないと思っていたが、剣と魔法の世界だと神様が言っていたので魔法も身につけたいとリルテは考えていた。
そこで思い付いたのが今挙げた事が学べるであろう学校である。善は急げ。
リビングに続くドアをリルテはバーンッ!と開け、脈絡もなく大きな声をあげた。
「お父さん、お母さん!僕学校に行きたい!」
リビングにいた両親は驚いて目を大きく見開いたが、目を覚ました息子を確認し安堵の表情を浮かべた。
「リルテ!目が覚めたのね!私が薬草採取を頼んだばかりに危ない目に合わせてごめんね」
「怪我はなく気を失っていただけみたいだったから良かったがしかし、学校の話よりも先にリルテ、何があったんだ?」
勢いに任せて突撃した事を反省し、リルテは事の経緯を話した。もちろん転生の話を抜きにして。だから今回の事を繰り返さないように強くなる為と見聞を広めたい事を理由に学校に通いたいと話した。すると案外二人には快く了承を貰え、淡々と話が進んだ。
だが目指す学園に入学出来るのは12歳からと決まっており、それに学費が必要である。
学齢に達するそれまでは、フレットに剣を学び両親の手伝いをしながら学費を稼ぐ。そして一番重要な、今の自分の能力を確認し、ものにしようと心に決めたのだった。
それと同時にリルテは気付いた。
生前、女だったのになぜ転生後は男なのだろうと。リルテはこてんと首を傾げ、やっぱりこの疑問も解決する事はないだろうと頭の片隅に追いやった。
やはりリルテは、転生前からの楽観主義の持ち主であった。




