スゴくファンキーです!
「その話、悪霊かもしれませんねぇ」
「だぁわぁあっ!!」
ピョコッと、ジュールの肩越しからニルギスが急に現れ、振り返りながら飛び退いた彼は、今度は机に激しく背中を打つけ踠く。
返却期日が、今日になっている植物学と魔法薬学に関する本を、片手に持っている彼女を見るに、借りていた本を返す為、図書室にいた様で偶然知った顔を見つけたので声を掛けに来たみたいだ。
ただ、丁度クロエの話が途中だったので、それが終わるのを待っていたが、話に興味がでてしまい、自然と会話に入ってしまった。
特に驚かせようという意図は無かったニルギスなのだが、イケメンが激痛に踠く結果を生んでしまったのだ。
そんなジュールを横目で見ていたルーは、無表情を崩さず徐ろに口を開く。
「オクビョウッ、キョウチョウッ、コレニチョウショウッ」
「急に韻を踏んだリズミカルな悪口!!」
「……コミカルに腰打ちッ、見事なオチッ」
「続けんのっ!?お前のとこのメイドは自由だなぁオイッ!」
突如始まったディスりに、空かさずツッコンではみたものの、ルーは止まらなかったので、その主人であるリルテに矛先を変えたのだが、
「おぉおースゴくファンキーだね!」
と、すごくいい笑顔でビシッとこちらに親指を立て、それに一拍置いてメイドさんがサムズアップを返していた。
「……そういやお前もだったな」
「ふふっ、いつもこんな感じなのですかぁ?」
「ああ、まぁ大体こんなだ」
割と寮室でもこんな感じのやり取りが行われているのだろう、微笑みながら質問するニルギスに、思い出したようにはぁーとため息をつきながらジュールは答える。
「遊んでないで、そんな事よりニルギスさんの話が気になるっス」
ハイハイっと、リルテ達を会話から押し退けて話を戻すクロエが、空いていた隣の席を彼女に勧め、そこに腰を下ろしたニルギスは霧の化物について再開し始めた。
「えぇっと、これでも一応ルミエール教のシスターですからぁ、偶にレイス鎮静の依頼を受けるんですよぉ、なのでそうではないかなと思いましてぇ」
亡くなった人の魂が、何らかの要因で魔素と結合して生まれるのがレイスである。
発生率は低く、物質化しているとは言え行動的ではない為、危険度もそれ程高くない。
しかし、放置すれば日常生活に影響を与えかねないので、魔素を特殊な魔法で霧散させて魂を解放する事を鎮静という。
ニルギスは、学校の休日には教会へ顔を出しており、魔力に長けているという事もあって、依頼を受ける機会があったのでその考えに至ったようだ。
「そこなんっスけど、遭遇者の証言は全員一致して霧の化け物なんっス。レイスははっきりと人の形をしているので可能性は低いと思うんスよ。それに、レイスの行動範囲は精々ワンブロックぐらいっスけど、出没している範囲は街全体なので、それも否定する理由に入ってるっス」
「学生のくせに、よくそんな事までよく知ってるな」
これ程の情報を手に入れるには、街かギルドで聞き込みを行わなければ集まらないもので、特に遭遇者の証言などは情報の錯綜を防ぐ為、ギルド職員止まりのはずである。
だから、一介の学生が知るところを超えているのは謎の部分であるのだが、本人曰く。
「商人は情報が命ですから当然っス!」
「商人すげーなっ!」
すっかりジュールがいつもの調子を取り戻し、クロエとニルギスが他のレイスの話をし出したそんな中、ぼーっと皆を眺めてるリルテ。彼は四年前にも村で似たような出来事があったのを思い出していた。
あれは、前世の記憶を取り戻し学校へ行く事を決めて、父から剣を学んだり、学費の足しになるように村の仕事をしていた頃だ。
ある月の中頃、緊急集会が開かれ、帰ってきたフレットに日が落ちてからの外出を禁じられた。
そもそも、日が落ちればこの辺りは民家の距離が遠く、明かりはほぼなくなるので、子供が出歩くはずがない。それに魔物除けが施されているとはいえ、万が一という事も有り得るので大人でも外を出歩くものは少ない。それなのに、あえて注意したのには何か理由があっての事だろうが、両親は教えてくれなかった。
理由が気になっていたリルテは昼間、村の人達がよくたむろしている集会場の辺りで、こっそり隠れながらその理由を探る事にした。
結局、何やらそれらしい話はしていたもののはっきりした事は分からなかったが、確かにあの時村の人が話していたのは【霧の化物】という言葉。
その後、夜間の外出禁止令が村全体に解除されたのは約二年後だったーー
「マスター?どうかされましたか?」
「あっ!いや、なんでもないよ!」
ルーに肩を叩かれて我に返ったリルテは、単なる偶然と思い、村の出来事は頭の隅に追いやる。
その記憶が、まさかこの後起こる事件と繋がってしまうとは思いもせずに。




