重なる二人 エスリル→ルー
生みの親であるマスターが姿を消して千と数百年。
ようやく心の整理がつき出した頃、私はマスターの軌跡を辿る事で、この空虚感を埋めようとしました。
しかし、その追蹤する行動自体が容易ではなかったのです。
よく考えれば分かる事だったのかもしれません。
何故なら年月が経ち過ぎてしまい、マスターを辿る手掛かりなどは風化していたのです。痕跡はおろか、思い出の場所達も古代遺跡などと言われているものがほとんどでした。
言い訳をすれば茫然自失になってしまい、私の生まれた家であるマスターの研究室に閉じこもって、休眠状態になっていた事もあり、それ程の時間が経っていたとは思ってもいなかったのです。
これは計算外でした。
ちょっと抜けている所はマスター譲りですかね。テヘッ☆
なんて冗談を一人で繰り広げながら旅を始めたのでした。
外に出てみると世界は大分様変わりをしていて、荒野だった土地は緑でいっぱいになっていたり、壊滅した都市には新しい都が作られていたりと、人々の暮らしもとても平穏なもので、大戦が起きた時代とは大違いです。
それでも、魔物の存在はありました。
魔物がいればギルドもあるのです。その依頼の中には遺跡の調査などもあるはずですし、情報集めには打って付けですね。
勿論、すぐに登録を済ませて依頼を漁りました。ソロで活動するのも良かったのですが、もっと効率良く情報を集める為、時にはパーティーを組んで依頼を受けた時もあります。人数制限がある内容のものもありますから必然でしょう。
そうする内に、私達パーティーの評価がぐんぐんと上がりました。高ランクになればなるほど、危険も大きくなりますが私には関係ありません。戦闘で腰から上下に両断されてもすぐに再生させて、得意の光魔法で蹴散らしてやりました。
しかしその道中、懐かしい場所が古代遺跡となり驚いていたのも束の間、私自身も古代の遺産などと呼ばれ、あの手この手と様々な方々に追い回されたのです。
最初の内は対話からの接触でしたが、次第に殺伐となり襲撃が後を絶ちません。ですから、他人や動物などに姿を変えてバレないように行動をする羽目になりました。
でも、私が人工スライムであると気付くなんて不思議です。一体何故でしょうか?
全く見当もつきません。
特にしつこく面倒だったのは、魔王信者の方々です。
その方々が言うには、私の存在が魔王を蘇らせる為に必要との事でした。
私、大人気ですね。
まぁ、一々相手をするのも面倒です。途中からは冒険者とのパーティーも抜けて、人との接触を避けるようにしました。人に見られなければ情報も流れませんからね。
こうしてしばらく、道無き道を使って旅を続けましたが、とうとう刺客が放った魔物に襲われて、絶体絶命の状況を迎えました。
魔法が効かないなんて反則です。
流石に今回は駄目だと思い始めていた時、不思議な少年に出会いました。
少年は、自分の命が危ないというのにたった一度の縁で、私を助けようとしたのです。
自らを顧みず、その恩の大小など関係なく義を通す。
そう、あの方もそうでした。
名状し難い何かが重なり私は少年から目が離せませんでした。
そして、結果として私は救われました。
同時に、この少年なら空虚感を埋めてくれるーー直感に従い、少年に付いて行こうと決めたのです。
まぁ、正直に話すとただ単に面白そうだと思ったことも理由にはありますが……
とにかく、力押しで少年に従事する事が出来、新しいマスターと一緒にミロンガルブ学園での生活が始まったのです。
それから数日が経ち、王都へ行く事となりました。
お尋ね者である私の報告も兼ねているので、当然マスターに同行しています。
そこで問題が発生しました。
突如スタンピードが発生したというのです。
遭遇する確率は極めて低く、この時代にも冒険者ギルドなどがありますし、魔物はある程度間引きされているはずなのですが、やはりマスターという方は問題を引き寄せるのでしょうか?今度統計を取っておきましょう。
幸い、スタンピードが発生した場所と王都は距離もありますし、安全な場所に避難する事は可能でしょう。ですがなんと、日頃から荒事を避けたいと言っていたにも関わらず、マスターも討伐に参加すると言うのです。
本当にマスターというのは行動が読めません。当然止めようとしましたが、こうゆう時は何を言っても無駄でしょう……
だから、戦闘が始まる前にスタンピードの危険性についてと私の側を離れない事を念押ししました。
なのにーー
「フラグ回収、でしたっけ……そんな所まで似ているとは……」
討伐隊最終ラインのほぼ中央で奮闘していたのですが、マスターが消えてしまいました。
私が生まれてから二度目の事です。昔の事が頭をよぎります。またいなくなってしまう。
冷静を保っている感じでいますが、内心ではあたふたと右往左往している自分がいます。それはもうおちゃらけ無しでバタバタです。
そもそも、あんなにも念を押したのに姿を消してしまうなんて信じられません。私を頼ると、だから離れる事はないとーー自分で言い出した事ですよ?なのにそれを意図も簡単に覆すなんてこんな早さで実現出来る人が何処にいるのでしょうか?マスター以外にいないでしょう。いや、お一方知っていますね。あの方とおんなじです。本当にどこまで似ているのだか……
それはさておき早くマスターを探さなければなりません。
そう思い駆け出そうとしましたが急に気配を感じました。
人、ですか?
白いローブで全身を包んでいて種族までは分かりませんが、少なくとも人族の姿の者がすぐ横に立っていたのです。
決して気を抜いていた訳ではありません。むしろ最大限の警戒を張っていましたが、その間合いの中にいたのに、今の今まで気付かないなんて、本当に突然現れたといった感じです。
危うく心臓が飛び出る所でしたよ。
まぁ、私には無いのですけど。
もしかしてこの事態の中で私を狙った刺客でしょうか?でも突発的に起こるスタンピードに合わせるなんて不可能ですよね?人為的に発生させるには、それこそ魔王級の力量でなければ無理です。
それにしてもこの状況の中、あの猫の仮面は何でしょう?防具にしては頭を覆っている訳ではないので意味がなさそうですし、あれでは視界も狭くなります。
顔が見えず得体が知れない分、なんだか不気味ですね。
するとあちらも私に気がついたのか、ローブから両手を出して身体をこちらに向けました。
咄嗟に身構えましたが、猫仮面は出した両手を左右に振り、続いてジェスチャーで何かを伝えようとしています。ですが全く、伝えようとしている事が分かりません。
ただ必死にジタバタしてます。
もうちょっとゆっくり、分かりやすく動いて欲しいものですね。
うーん、ふむふむ。
ようやく理解出来ました。
「私に対して敵意がないと言う事ですね」
「そうそう!アッ!しゃっべっちゃったぁ!?」
……なんでしょう、急に残念なオーラが見えてしまいました。無意識に強く握りしめた私の手が哀れです。でもその様に思えたのはこの時だけでした。
全身を使った一人芝居の様なジェスチャーにより、フローレンス砦と猫仮面の間にいる状態でそこを動くなと指示を受けました。
そして、クルッと半回転し私に背を向けて、ゴソゴソとした動きを見せた次の瞬間、ローブの下から無数のロトンナッツが飛び出して、目に見えるギリギリ先までの両翼に、新しい最終防衛ラインを引く様に等間隔一直線に並んで空中で止まったのです。
あの大きさの物が大量に、一体どこから出て来たのでしょうか。魔道具だとしたらこの容量は国宝級です。しかも空中で止まっていますよ?
前マスターとその知り合い達は物を浮かせたり自らも飛んだりしてましたけど、前マスターがいなくなり旅に出てからはそういった方々は見た事がありません。因みに私は飛べませんが、別に高い所が怖かった訳ではなく、必要性を感じなかっただけです。無理矢理その魔法を覚えさせられようとはしましたが断固として拒否しました。そんな魔法必要ないのです。決して怖かったのではありません。
さてそんな事を思い出しつつ、呆然とその光景を眺めていたのですが次の瞬間、ボボボンッと乾いた空気を響かせてロトンナッツが全て破裂しました。
開戦を告げるシスミナ様達の魔法による音と比較すると遠く及ばない程ですが、もたらした事象はそれに匹敵しています。
大きな瀑布を伴う滝の様に、炎が壁を築き上げ平原に流れ落ち、熱風が辺りを吹き抜け肌を焼く痛さを感じられる程です。
何も無かった平原に突如現れた現象に、討伐隊の防衛ラインを突破してきた魔物達は勢いを殺せず、ほぼ全て飲み込まれてしまいました。全速力で進んでいたのですから無理もない事でしょう。
数秒後、その中を耐えて通過し、私がいる砦側に潜り出たものもいましたが、橙黄色に抱かれた魔物から炎は離れる事なく、やがて身体中に移っていきます。必死に地面を転げ回り消そうとするも付着した炎は消えません。
驚く事に、水性スキルを持つ魔物が全身に水を掛けて消そうとしても、橙黄色は落ちることは無かったのです。
逃れられない事実を目撃して恐ろしさが増しました。
炎の滝は直ぐに流れ切りましたが、直撃を受けていない魔物達もいますが、足元を流れ広がる炎に少し触れただけでも、瞬く間に全身に燃え広がり規模は着々と大きくなり、橙黄色の波の範囲外にいた魔物達も徐々に叫びにならない音を出しつつ、苦しみ悶えて倒れていきます。
燃焼による影響で息が出来ないのでしょう。
酸欠の可能性とイッサンカタンソ中毒によるものだと、確か前マスターに聞いたことがあります。
まぁ、私には肺がないので関係ないのですが、こんな近距離でこの魔法を目の当たりにしていたら、普通の人族であれば死んでましたよ。あの猫仮面はその辺りを考慮していたのか甚だ疑問に思います。
それから平原に居座る炎が落ち着き、立ち歩く魔物が見当たらなくなった頃、私の前方で微動だにしていなかった猫仮面に動きがありました。
両手を空に翳し何やら詠唱をしていた様で、魔法陣が空に大きく展開され、薄っすらと白い雨が降り出してきたのです。
やがて雨脚は強くなり、あれ程こびり付いて落ちなかった平原の橙黄色を簡単に洗い流し、魔物達の死骸だけをそこに残して雨は止みました。
凄惨な場景。灼き焦げる臭いがそれを脳に焼き付ける様に入り込んできます。
所々立ち上る煙を、転々と目で捉えながら周りを見渡すと、進行していたスタンピードの群れも、砦を押し通れる数はいなくなりました。
一連の魔法、その威力に脅威を覚えましたが、どちらにせよスタンピードの進行を食い止められた事に変わりありません。
何者かは分かりませんが、敵対はしたくないものです。
さてどうしましょう、こちらに危害を加えてくる様子はありませんでしたが、対話は可能ですかね?声を出さない様にしてましたから、可能性は低いかも知れませんが……
「うわ゛ぁ、ナパーム弾はダメ、ゼッタイだねぇ。これはもう封印しよぉ」
……声、出してますね。割と普通に。
取り敢えず話しかけてみましょう。
そう思い声を掛けようと猫の仮面を見た時でした。その後ろでこちらに向かい走ってくる影が見えたのです。
ん?あれはマスター?
よく見ると何者かに背負われています!
あまりの可愛さにマスターが暴漢に攫われている!
急いで助けにいかなくては!
猫仮面には色々と聞きたい事もありましたが、今はマスターの方が大事なのでその場を離れました。
結果的に言うと勘違いで恩人を殺す所でしたね。それならそうと早く言ってくれれば良かったのに。
こうして、無事マスターと再会し、現在はその寝顔を見ながら少し明るいグレイアッシュの髪を撫でることで、ようやく安堵する事が出来ました。
さて、明日も早い様なのでバレないように添い寝でマスター成分を補充しましょうか。
そういえば、何か忘れている気もしますが一分一秒も惜しいので今は良しとしましょう。
するりとベッドに潜り込み、私は朝までマスターの温もりを堪能したのでした。
冒険者1「お、おいっ!なんか後ろからすごい音が近づいてこないか!?」
冒険者2「あ?すまんが左耳をやられてて何言ってるか聞こえねぇんだ!」
冒険者1「後ろだ、後ろ!」
冒険者2「ん?後ろを見ろってか?……って!死神の眼をした奴がいーーブヘッ!!ま、待て俺はコイツを砦まで運んでやらなーーボォエッ!!ちょっーーグェベガッ!!」
冒険者1「(あっ、アイツ死ぬわ……だってアレ、絶対死神だ。俺も嬢ちゃんを運んでやらないと駄目なんだ、すまん!俺はお前を忘れない!)」




