思ったよりヤバイかもです!
「はッ!ッと!切り返しが、速くて……反撃出来ないッ」
獲物を前脚で捕らえようと飛び掛かってくるオプスキュリテを、危なげなく回避しながらそんな言葉が漏れる。
学園の図書室で、モフ二ストたる知識を漁った少年の記憶にもない未知の存在なので、様子を伺う為に立ち回っているがこれといった打開策はなく、攻撃に対して後手を踏み続ける状態が続く。
強い振動と激しい音量を轟かせ、足元に小さくはない窪みをいくつも作り、粉々になった倒木が辺りに散らばっている。
野生の本能を剥き出しに、と言うよりも手当たり次第に暴力を振り撒き、まるで自我が制御出来ていないような単調な動きである。だがそれが、破壊力も速さもある攻撃に対して、今もリルテが無傷である要因でもあった。
同様に、小さいルシオガルディアンも損傷は見られない。どちらかと言えば、オプスキュリテはリルテに向けて攻撃をしているようで、只単に巻き込まれている感じだ。
そして、襲い来る荒々しい攻撃を受けてもこの場から逃げる様子を見せず、回避しつつもオプスキュリテに対して絶えず吠え続けている。だがその声音は威嚇や警戒、怯えからくるものではないようだ。
(やっぱり大きさは違うけれど、この子と目の前の魔物には関係がある気がする……)
言葉は分からないが、先程から吠えているのは何かを訴えているように伝わってきた為、リルテはそう感じていた。
そんな事を考える余裕を残し、回避を続けた結果、こちらは最小限の動きで攻撃を躱していたのが功を奏し、大振りな攻撃を続けた向こうの体力も少し削れたのか、ようやく攻撃の手が休まる。
「いまだ!ーーととッ!?」
チャンスとばかりに反撃に転じる為、重心を前に傾けるが、一歩足を出した所で踏み止まった。なぜなら牙を剥き出しにした獰猛な口元に、魔素が集まっているのが分かったからである。
その反応は正しく、オプスキュリテが大きく口を開けると同時に魔素の球が吐き放たれた。
ギリギリのところで、横に跳び転がり回避に成功したリルテの後方では、直線的にみしみしと何本かの木が倒れていく。
「おおぅ……ブレス系も撃てるんだ」
魔物である為、何らかのスキルを持っていると警戒していたが、その中でも上位であるブレス攻撃を目の当たりにして、若干引き気味のリルテ。オルトロスの時よりも負傷していない事から、このまま一人でも対処出来るかもと思っていたけれど、どうやらそうは行かないらしい。脅威レベル4ですら持っていない上位スキルを繰り出したという事は、より脅威レベルが高い可能性が出てきたのだ。それは焦るはずである。とは言え、被弾する事なく続けざまに放たれる攻撃を避け続けている。
リルテとて、この数日は放課後などの空いている時間にジュールとの組手や、ルーとの魔法訓練で戦闘の感性は高くなっているので、隣の小さなルシオガルディアンを心配できる程には難なく回避を続けていた。
オルトロスとの交戦を経て得た教訓は、脅威はいつ何時襲いくるか分からないという事。それに対処するには、ことこの世界では力の強さがその大半を占める。
平和な日常を目指す彼にとって、戦う術を向上させるという対となる行為なのだから、皮肉な結果である。
「森がひらけた!」
その訓練のおかげで、傷を負う事なく交戦を続けていたリルテは、僥倖とばかりに声をあげた。
オプスキュリテの攻撃の影響で、視界を遮る木々が無くなり、辺りが広場化していたのだ。
普通なら遮蔽物が無くなり、攻撃するにしろ逃げるにしても不利に感じるだろうが、先程隙を見て一度、遠距離から打ち込んだ火魔法は効果が見られなかったし、逃げるという手段も保護しようとせっかく追いかけてきたルシオガルディアンが、ここから離れようとしない。だから、オプスキュリテを討伐する為に、まだ試していない近距離からの直接攻撃を試みようと考えた。しかし、素早く攻撃範囲に入るには木々が邪魔であったのだが、それがいま解決したのだ。
予め距離を詰めていたリルテがオプスキュリテに向けて走り出す。
当然の如く、標的に向けて放たれる何度目かのブレス。
地面に着弾し、煙をあげるもそこに彼の姿はない。
敵の攻撃を煙幕として隙を突き、すでにリルテは巨体の懐に入り刺突を繰り出していた。
ようやく攻撃を仕掛けるもその剣は弾かれ、代わりにオプスキュリテから前脚の振り払いを受ける。
辛くも剣で防御は出来たが、そのまま後方に押し返されてしまう。
「纏っている魔素で刃が通らない!」
彼以外では、魔物に触れる前に得体の知れない何かに阻まれて、訳も分からずお手上げ状態であっただろう。でも、今のリルテの眼であればその要因は一目瞭然である。
それに普通の剣で切れないのであれば、それ相応の特殊な剣を使用すればいいだけの事。
斬れ味が良く、岩でも簡単に切断してしまい、魔法ですらその効果を消してしまう剣。
部分的な蜃気楼のような空間の歪みから、左手でイネインを取り出したリルテは、再度オプスキュリテに挑む。




