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冷静になります!


「やって、しまった……」


 靡く青々とした葉の匂いとともに、小さな呟きが流されていく。

 動物保護をカモフラージュとした欲望に流され、犬のような魔物を追ってロヴェル森林をズンズンと進んで行ったリルテだが、早々に姿を見失う。しかし、それにも関わらず執着心故か、歩みを止めなかった。

 それほどまでにモフニストの性は止められないのだ。

 しかも、その行動力によるスピードの強化で、普段よりも倍の距離を短時間で移動し、森の深部付近まで辿り着いてしまった事に、彼は気付いていない。

 何となく戦場の声や魔法による音は聞こえるのだが、引き返そうにも森に音が反響している所為で、もはや戦場であった平地の方角さえも分からなくなり、戻る事さえ出来なくなっていた。


 つまり、案の定リルテは迷子になっていたのだ。


 そして、冷静になったリルテは現在、ルーに対して放った言動に、忸怩たる思いから地面に突っ伏し項垂れている。


 スタンピードから人々を守りたいと討伐隊に参加したのに、目的を忘れて戦場を離れてしまうなど、これでは逃げ出したと思われても仕方ない。役に立つ以前で、危険を承知で決断した思いなのに、それを実行していない自分を責めていた。

 とにかく急いで戦線に復帰しようと、何か方法はないかと考えを巡らせるも未だ打開案は出ていない。


 立ち上がり数分、戦場に戻る手掛かりを探すがやはり何も思い付かず途方に暮れていた時、リルテの心情とは逆に、軽快な鼻歌が聞こえて来る。それは少しずつこちらに近づいて来るようだ。


「♪~~あっ!やっぱりおもしろいコがいるノ!エルフじゃないよね?人間、なのかな?ほぉー、それにしても感じた通りすごい量の魔素が身体から漏れてるノ!」

「うぇっ!?誰かいるの?」


 人の気配はないのにどこからともなく声が響き、リルテは驚きの声を上げた。

 キョロキョロと辺りを見回しても声の主は見当たらず、警戒のレベルを上げて携えた剣の柄に手を掛けながら、必死に姿を探している。


「ーーッ!まさか気付いたノ!?」

「やっぱりいる!どこ!」

「落ちついて落ちついて!別に襲ったりしないノッ!」

「じゃあ姿を見せてよ!」

「直ぐ横にいるんだけれど……もしかして声しか聞こえないノ?」

「えっ、そんなに近くにいるの!?声は聞こえるんだけど……?」


 先ほどから何者か確かめようと、スキルアナライズを発動しているのだが、それでも姿を捉えることは出来ない。

 もしかすると、その目に映らなければ、スキルの効果が出ないのかもしれないとリルテは考察しつつ、柔らかくそよ風の様な声だけが耳に届くのであった。


「でもそっか、声だけでも分かるんだ!アムを手伝いに来たらダブルスーパーレアなコに出会えたノ!」

「ガチャ的表現っ!?」


 剣から手を離して両手でシャワッと指摘を入れるリルテ。聞き慣れた単語に警戒は解けたらしく、某音頭のパパンが○ンばりにキレがあった。


「それにしてもこんな所に一人でいるなんて……君、迷子なノ?」

「……うん、自業自得だけどね」


 相手の顔が見えないので何んとなく斜め上を向きつつ、自嘲気味に笑い答える。


「そっかー……よし!それじゃあ何千年かぶりに会えた私たちの隣人だし、それに驚かせちゃったから詫び石の代わりに少し力を貸してあげるノ」

「やっぱりソシャゲの発想っ!絶対ミウドレン生まれじゃないでしょ!」

「オカシな事を言うコなノ、高濃度の魔素石を渡すのは私たちの間では普通のことなノ」

「そうなの?」


 この世界に来る前まで、病室から出る事もあまり出来ず、やる事と言えば読書をするかゲームをするだけだった。


 暇つぶし程度でしか遊んでいなかったのであまり詳しくはないが、あの適度なドキドキ感を楽しみの一つにしていた。なので二度もそれらしい用語が出てきた事で、疑いを持って突っ込んではみたもののあっさりと否定され、逆にこれが常識だと言われ確かめる術もないので、素直なリルテは簡単にそれを受け入れるようだ。


 それから、力を付与するからそこを動くなと言われてからすぐに、リルテの身体を白緑色の光が包む。暖かなものが身体の芯に染み込んでいく感覚を覚えたその後、光はゆっくりと消えていく。


「これで風魔法が使いやすくなってるノ。空は飛べないけど、上空に飛び上がるくらいは出来るから遠くまで見渡せるはずなノ。それと今の付与で、魔素が視えるようになってるから、なんとなく私の姿、視えていないかな?」

「ーーッ!すごい!水みたいに揺らめいた人型が浮かんでる!」


 輪郭はハッキリしないが何者かがそこにいるのは分かる。ようやく、その存在を捉える事が出来たリルテは、見当違いだった視線の先を修正させた。

 先ほどまで仮に向けていた目線が思っていたより明後日の方向だったけれど……恥ずかしいとは思わない!誰だって勘が外れることはあるものっ!と心で言い訳をする。


 この時代、魔素を目に写せるものは皆無に等しい。あのシスミナですら魔道具を作って可視化しようとしていたくらい珍しい力を、迷子になっただけで手に入れてしまった。例えれば見えない糸で引き寄せられるかのように。


「うんうん、やっと認識してもらえて嬉しいノ!魔素が視えるとおまけに魔法の幅も広がるノ」

「おぉっ!ありがとう!」


 人型の魔素が点滅するみたいに、拡がったり縮んだりを繰り返し、まるで喜んでいる様にも見える動きをする。しかし、突如その反応が止まり、何かを感じ取ったように人型が細かく揺れを刻む。


「おっとそろそろ行かないと危ないみたいなノ。短い時間だったけど君に会えて良かったノ、またねバイバーイ♪」


 別れを告げるやいなや人型の魔素は弾ける形で霧散した。リルテはすぐに辺りを見渡すも魔素は感じられない。どうやらこの場からは消えてしまった様だ。


「もういなくなっちゃった。名前も聞いていなかったのに……今度また会えたならその時はお返しをしなくちゃ」


 不思議な出会いに現状を忘れていたが、依然として彼は迷子なのである。それを思い出したリルテは早速助言を受けた通り、高い木々よりも上へ飛び上がろうと風魔法を地面に噴射するイメージで発動するべく、魔素に集中しようとした。すると先程までは、木々の障害物で動物の存在を目視出来なかったのだが、森のその先に微かな魔素の塊を捉えた。

 リルテの第六感が告げる。あれは絶対に犬の形であるとーー


 すぐさま戦線復帰モードからモフ二ストモードへ移行。対象に向けて全速で駆け出すのだった。


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初短編を投稿してますので、 是非そちらも宜しくお願います!!

【タイトル】

白銀のエクリプス
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