目がくらんだわけではないです!
「マスター、始まりましたね。規模的にシスミナ様達の攻撃魔法でしょう」
討伐隊の最後尾からでも確認できる、オルタンシアバードの尾のような真っ直ぐ立ち上る煙を見ながら、スタンピードの移動による砂埃の範疇を超え、魔物の攻撃にしても広範囲の事象にルーは、この国の最強魔法士姉妹の魔法効果と断定した。
「あれが学園長達の魔法なの?やっぱりすごいなー」
前世で見た、火山の噴煙を思わせる自然災害級の威力に、ほえーと口を開けながら眺めているリルテを、子供の成長を見る為なら常識をも踏み越える親バカの如く、少年に使えるメイドさんは手綱を握っている事もあり多少無理のある態勢になりながら、後ろにいるリルテの無垢で可愛らしいその表情に齧り付いていた。
しかも脳内で再生を繰り返す為、どうやっているのか分からないほどの速さでいろいろな角度から記憶に焼き付けている。その動きは、さすが希少種の人工スライム。人体構造の枠など考えていない。
戦場にいる状況も忘れて堪能していたルーだが、その様子に気付いたリルテが目を向けると、羽目を外し過ぎたのを誤魔化すようにコホンとひとつ咳払いした後、真面目な声色で注意を促す。
「マスター、ある程度の魔物は一対一であれば大丈夫でしょうが、スタンピードでは複数の魔物を相手にしなければならないので何が起こるか分かりません。くれぐれも私から離れないで下さい」
ルーが懸念している事は尤で、数の暴力とは強力である。
そして、脅威レベル4のオルトロスという自分の力量よりも格上の敵に、本格的な実戦もないまま退ける事が出来たが、内容は辛勝でありこれから災害を相手に挑むには当然、心許ない。
長く生きて来た経験からも予測不能の事態は必ず起こる。その時は命令に背いてでも主人を連れて戦線を離脱する為、手の届く範囲にいてほしいという彼女の願いでもあった。もう大切な人を失いたくない、その想いから来る言葉でもあったのだが、それを聞いたリルテはコテンと首を傾げている。
「うん?僕は戦闘経験も浅いし、ルーさんが頼りだからね」
魔法が使えるようになったり良く斬れる剣などの新しい力を得たとしても、過信など持たず自分の未熟さは痛感している。なので当然、ルーがサポートをしてくれると思っていて逆に一人で戦う考えは毛頭なく、本当に危なくなったら助けてほしいと軽く答えたつもりだった。
「是非もっと頼って下さい!今すぐこの胸に飛び込んで頂いても構いませんよ!寧ろ私が取り込みたいです!」
「頼ると甘えるは違うよ!というか取り込まれたら溶解するんじゃないかな!?」
食い気味で迫って来たメイドさんに、リルテが思うスライム像である体内の酸で消化するイメージが頭に浮かび、手でストップを作った。
この世界のスライムが、吸収の形を取らなかったとしても、その体液で身体を包まれれば窒息死は必至である。
とにかく、マスターに頼りにされて俄然やる気を出したメイドさんは、きっとこの戦いにおいて大活躍をするだろう。その気持ちの上がり方は前線で奮闘する何処かの妹と似ているのだから。
そうこうしているうちにも、騎士と冒険者達があげる鬨の声や魔物の咆哮が近付いている。
肩の力を抜くのはいいが気を引き締めなければ、いくら前の部隊が脅威の高い魔物から優先的に討伐しているからといっても魔物は動物とは違い、それぞれに固有のスキルを宿しているから強いのだ。
「マスター、来ます!」
最初に姿を現したのは頭から一対の小さな角を生やした鼠が数体、リルテ達の前方にいる部隊の足元を抜け出て来た。
この小型の魔物はラッシュラットといい、素早さを生かした体当たりが攻撃手段であるが、農夫でも倒せるほどの強さである。
故郷でも討伐したことのある魔物だったので、反射的に普段とは違う突きの構えではなく中段で構え、水平に剣を走らせた。
点の攻撃よりこの方が確実に損傷を与える事が出来るので、経験から切り替えることが出来たのだ。
血を飛ばし地面を滑るラッシュラット。
首を落とす勢いで斬りつけたが、やはりイネインのようにはいかず首は繋がったままだったが、それでも致命傷を与えている。
危なげなく残りを倒し切るも、他の魔物が続々と押し寄せて来ていた。
それらを自身の俊敏性を生かして、リルテはテンポ良く葬っていく。自分が出来る範囲で無理はせず、しかし着実にその数を減らせるように。そしてルーも、お得意のレーザー魔法光収束は貫通力が高く味方に誤射の可能性があるので使用していないが、魔法が得意なだけあり状況に応じて火や土魔法を駆使してマスターをサポートしていく。
終わりの見えない群れをひたすらに倒す。
会敵すれば斬り伏せる事を繰り返し、十数体目を倒し終えた時、ある光景にリルテの目は釘付けになる。
眼前をピョンと通り過ぎる気になるものが視界に飛び込んで来たのだ。
それは魔物らしき動物でありながら、スタンピードの進行方向を切るように行動している事から何処か違和感も感じていた。
「ルシオガルディアン?」
危険がないかスキルアナライズを発動させ確認したリルテは、浮かび上がった名前を見て首を傾げる。この戦いでそのスキルを使わなかったのにも関わらずここぞとばかり発動させたのは、決してその犬の様な姿が気になった訳ではない。あくまで安全を確保する為である。
ただ、種族名を見ても教科書では見たことがなく、この毛並みであれば毛を奏でる事に誇りを持ったモフ二ストとしては覚えているはずなのだが記憶にはなかった。
そして何かを探すような動きは、スタンピードにおける他の魔物と比べても違い、二つの点から気になって目で追いかけている内に、犬のような魔物はそのまま森に向かって走り出してしまう。
「あっ!待って!」
自然とリルテは追い掛けていた。
遊撃といえど戦場を離れる事は命令違反だ。軍事裁判であれば裁かれる案件であるが幸いなことに、この国に学生を裁く軍法はない。というか学生が戦場に赴く事自体が稀なのである。
戦場から離脱してしまう事にも気付かず、そのまま少年の姿は森の中に消えていったのだった。
「まだこちらの戦線は破られてはいませんが中型の魔物も増えて来ましたね。……マスター?」
問いかけたルーの声に反応はなく、辺りを見回すもその可愛らしい姿は見えない。まさかこうも簡単に心配事が具現化してしまうとは考えていなかっただろう。
「フラグ回収、でしたっけ……そんな所まで似ているとは……とにかく早くマスターを探し出さなければ……ッ!?」
喧騒たる戦場にそれは動いていた形跡もなく立っていた。
マスターを探しに今まさに駆け出さんとするルーのすぐ横に。
身長はリルテぐらいだが白いローブで全身を包んでいて、体型は分からず性別も判断できない。
そして、何より不気味さを漂わせているのは、肩にかかるくらいの黒髪を覗かせて顔を覆っている猫を象った仮面であり、ルーは無表情の奥で驚きと戸惑いを隠せないでいた。
「いつからそこに……」
動揺の中、咄嗟に絞り出した言葉。もしかすると魔物に気を取られて気付かなかっただけで、ずっとその場にいたのかもしれないという意味も込めて。
しかしスライムは本来、熱感知と気配感知に特化している。なぜなら眼と呼ばれるものはなく、ルーは人間の身体を取っている時、擬似的に作り出しているに過ぎない。普段、空気は読まないが気配を読むのは得意なのだ。
そんなルーでさえ今の今まで気付かないという事は、やはり突然現れたとしか思えず、得体の知れなさに警戒だけを強めるのだった。
皆様、明けましてです。
今年も宜しくお願いします!
ん?もう一週間も経ってるって?新年の挨拶が遅すぎると……そんなはずないでしょ!鏡開きをしたらお正月っていうじゃない!だからまだ三が日も終わってない!えっ?そもそもそんなこといわない?
……すいません、現実逃避してました。
お正月休めなかったもので……
そんなこんなでお待たせしました2019年初投稿です。
最近、思う事があります。いや、薄々は感じていたけど、筆のスピードが上がらない要因はプロットを書いていないのが理由かもしれないと。
プロットは重要って何をみてもそう書いてあるけど、書き方が分からなくて今まで素通りでした。テヘッ☆
そんな反省で始まる新しい年ですが、改めて今年も宜しくお願いします!




