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 少し明るいグレイアッシュの髪を強く靡かせながら、リルテは慣れない騎乗に、ルーの腰に回した腕も動かせないくらい四苦八苦し、面白いくらい強張った顔のまま街道を進んでいた。

 マスター大好きメイドさんがこの顔を見れないのは非常に残念であるが、それも仕方がない。

 なにせ移動スピードが速く、隊列を乱さない様について行くのでやっとの状態なのだ。

 馬はそれぞれ流石によく鍛えられた馬で、重い鎧を着用した兵士を難なく乗せて走っているのだが、手綱を握る者の力量に大きな差が出ており、数える程しか騎乗した事のないルーが、日々訓練を積んでいる騎士や魔法士にその技術や経験が及ぶ筈もなく、馬と呼吸を合わせてコントロールする事や、馬上でのバランスを保つ為の筋力の使い方など、心身共に負担が掛かっている。

 そしてリルテの表情であるが、これは本来であれば騎乗に慣れていないものが後ろに乗る事はかなり疲労する。

 馬というのは後ろ脚に力が大きくかかり、上下の動きが激しく辛いのだがそうも言っていられないほど緊急なのだ。

 だから、今回の事で学園に戻ったら絶対に騎乗を学ぼうと切に思うのだった。

 そんな決意を胸に抱いたリルテを含み、二列縦隊を組んで移動を続ける先行隊の一行は、目的地に向け順調に進軍を続ける。

 フローレンス砦に近付くにつれ、長閑な風景が多く見られるようになり、田畑なども多く、通り過ぎた町も王都へ向かうまでに通ってきたものと比較すると、どちらかと言えば村という方が近いくらいだ。

 ゆったりと時が流れている風景や、どこか暖かな雰囲気があり、それらを眺めながらリルテはフレットとマイラのいる故郷が重なるようだった。

 学園に入学して両親たちのいる村を少し離れただけだが、改めて思う。

 この世界に転生し、自身の存在という形がリルテの中で曖昧になっていたが、生まれてからずっと過ごしたあの家のある場所が、今の自分自身を構成する一部になっており、それを失ってしまう事に耐えられるのだろうかと。

 そしてこの気持ちは、今まで通り過ぎてきた町や村の人も同じではないかと考えて、その人達の大切な場所を守るべく、スタンピードを絶対に抑えなければならないと再度意気込むのだった。


 今まで避けようとしていた危険な場所に自らが赴く理由を明確にしたリルテを含む、アムエナ達先行隊は途中、数回の短い休憩を挟みながらフローレンス砦へ到着した。

 強行進軍で休まずに早く目的地に到着するのもいいのだが、休憩もとらず無理を続けてでは十分な魔素の回復も出来ない。

 これから向かう戦場に、万全な体調で挑まなければ成功の確率も下がり元も子もない。

 魔法士がいるのだから、砦に早く到着してから回復魔法を使えばいいと思われそうだが、そもそも小隊とは言え、それ程の人数を回復させられる魔素量を持つものがいない。

 宮廷魔法士団長はいわずもがな、魔素量計測装置の上限であるアムエナや、その装置を壊してしまうほど魔素量を保有するリルテが特殊なだけなのだ。


 砦は戦闘用に作られた簡易的な詰所をリルテが思い浮かべていたのだが、木造ではなく石造でしっかりと建てられており国境線を守るに相応しく、3棟の兵舎と4棟の倉庫が見える。

 しかし、見た目こそ大きいが現在では兵士はそれほど詰めておらず、大軍を退ける戦力には到底及ばない。それほどに、大戦前後の時代とは違い、戦闘になる事がないのである。

 砦内に入ると、見張り台からの報告で分かっていたのであろう、白髪混じりの茶色い短い毛を立たせ、顔に刻まれた皺に貫禄を漂わせた一人の兵士が、到着した先行隊を出迎えた。


「お待ちしておりました、アムエナ様」


 仮面で顔が分からないはずだが、迷いなく挨拶をしてきた。

 そんな男にアムエナは柔らかな笑みを向けた後、直ぐに真剣な顔に戻り答える。


「久しいですね、ガーフォール。募る話もあるのですが、時間が惜しいので直ぐにここで状況報告をお願いします」

「ハッ!かしこまりました。偵察隊によると、スタンピードの群れは脅威レベル4(キャトル)以下の魔物で構成され、進行方向をほぼ同じとし、ある程度固まって真っ直ぐこちらに向かっておりますが、まだ森を抜けた魔物はおりません。しかし、四半刻もしない内に最前線が森を出て来る見込みです」


 続けて砦の兵士と冒険者の人数及び戦力を聞いた後、アムエナは呟いた。


「真っ直ぐ、ですか……」


 スタンピードが発生する原因はいくつかあるが、大抵は原因である場所などを中心として四方に分散することが多い。だが、報告の内容からアムエナは追われるような魔物の行動から強大な脅威が何かを目指して移動しており、その直線の延長上には王都ラベルがあることから最悪の事態を想定する。


「こちらに向かってくる範囲はどれほどですか?」

「約15キロと確認しております」


 それは付近の冒険者なども含めた現状の戦力でカバーできるものを超えている。

 少なくとも防衛ラインを抜けてしまう魔物は多いだろうが、今は数を減らし時間を稼ぐ事が目的である。


「ありがとう、であればロヴェル森林を抜けてすぐの開けた平地で迎え撃ちましょう。高ランクの冒険者と一部の砦の兵は私達と作戦を行いますので、ガーフォールは残りの兵で砦の死守を。あなたほどの統率力があれば大丈夫でしょう。(うしろ)は任せましたよ」

「御意に」


 フローレンス砦近辺の地形は、森との間に見晴らしの良い広い平地が広がっており、西側には砦から少し離れているが、見張り台から確認出来る場所に川幅の広いブランディレス川が流れている。

 森では視界が限られてしまうのでこの平地でスタンピードを迎え、撃ち漏らしを少なくする事と機動力の向上を図るのだ。


「では皆に作戦を伝えます」


 そう言い、アムエナがそれぞれにテンポ良く指示を飛ばしていく。

 陣形はアムエナ、シスミナと数名の魔法士隊を突出し前に置き、右翼左翼を少し後方に置いた丁度逆鶴翼の陣を展開させる。

 被害を最小限に食い止める為、街道を直進させなければいいので、中央で姉妹の分隊が高威力の魔法を打ち込み、ある程度魔物を分散させ、右翼左翼の騎士団と魔法士及び冒険者達の混合チームで迎撃する作戦だ。

 因みにレラルとジュールは戦力のバランスを考慮し、逆の位置を取り、リルテは最後尾で戦況を見て遊撃に回る。

 そして全ての指示を終えたアムエナが、今一度ここにいるもの達を見回した後、大きく息を吸い空気を溜めて後ろまで聞こえるように声を響かせた。


「ここからは文字通り死闘となるでしょう。ですが民の為、一丸となってこのスタンピードを必ず食い止めるのです!女神の微笑みがあなた方に。アレッ!アレッ!マーシュッ!!」

『アヴォズ、オーダッ! !』


 偶然なのか存在する宗教全て、最上位の神は女神とされており、祈願の文句となっている。アムエナの激励と命令に兵士達が割れんばかりの声で答え、隊は動き出した。


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初短編を投稿してますので、 是非そちらも宜しくお願います!!

【タイトル】

白銀のエクリプス
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