踏み込んでみます!
ジュールを見つけたリルテは、荷物整理をしていた手を止め立ち上がる。
謁見を終えてから姿を見ていなかったので、離れていた間の情報交換でもしようと、友人の名を呼ぼうとしたが、しかしその行動は躊躇われた。
「マスター、どうされました?エロ本ならここに入れておきましたよ?」
「人のバッグに何入れてるの!?」
「ケモ耳美女特集です」
「わーい!って喜ばないし、内容の話じゃない!」
「ちぇー、善かれと思って入れたのに……」
勿論、エロ本の所為で躊躇した訳ではない。
リルテに注意されて口を尖らせ、セレクトは完璧だったのにと言いながらも、ルーは渋々自分のバッグに本を入れる。
確実に戦闘では役立たない物を普通にしまい込んだが、他にも余計なアイテムが入っていそうで、その中身が気になる所である。
ともあれ、断る毎にネタを挟んでくるメイドさんだが、それはスタンピードに向かうご主人様の緊張を解そうとやったと思いたい。
声を掛けるか迷ったのは、ジュールのすぐ前に二人並んで歩く者がおり、合わせて三人が固まって行動を共にしていた為だ。
例えれば学校の廊下で三、四人のグループで雑談をしながら歩いてくる異性の幼馴染とすれ違った時に、軽い挨拶でも声を掛けづらいような感じに似ている。
それに一緒に歩いている二人も白金のプレートアーマーを着用しており、ジュールを含めて他の兵士達と違い、ワンランク上の装備に見えた。
容姿も髪型も一緒で、双子の様なその二人はミディアムで緩くウェーブがかった金髪を、爽やかなアップバングにしており、目鼻立ちはどことなくジュールに似ているが、より大人の雰囲気が感じられる。
三人は仲良さげに会話をしていたので間を割って声を掛けずらく、目線さえあえばきっかけが出来るのにと思いながら熱い視線を送っていた。
傍から見れば恋する少女のような光景に、相変わらずのメイドさんの悲痛な声が聞こえてきたが当然無視していた。すると、気持ちが通じたのか向こうもリルテに気付きそのイケメングループを抜け出して、片手を挙げこちらに歩いて来る。
そしてリルテもまた、友人に手を振り返す。
グループを抜けても、その大剣を含めて周りからの視線を集めているが、本人はさも慣れたように気にする事なく歩いて来た。
「おう、リルテ達も行くのか?」
「うん、その様子だとジュールも?」
「一応、義務だからな」
「……それってお父さんが騎士団長だから?」
リルテは家の事が関係あるのかと思いそう尋ねる。
階級社会があるのであればこの世界でも俗に言うノブレス・オブリージュというのがあるのだろうと、読書が趣味だった彼は推測した。
ミウドレンとは異なる別の世界で、不完全とはいえ仮にも民主制の国だったので言葉を知っていただけにすぎないのだが、良い意味で使われるのであれば素敵な考え方だと想像ながらに思っていた。
グランウェイン王国は良い国である。少なくともリルテ達はそう感じている。
それは悪徳で権力を振るう者が少なく、貴族の家に生まれた者の道徳観が誇りとしての善行に強く影響し、今の平和に繋がっているのかも知れない。
只それは、その社会に身を置いていなければ分からない事であり、前の社会が染み付いているのかリルテは、貴族制をあまり理解せず日々を過ごしている。
「学園長から聞いたのか……貴族は有事の際に動かないといけないからな」
腕を背中に回し背負っていた大剣のグリップを握りながら僅かに嫌悪感が感じ取れる。
自らの身分を知られたくなかったのか、握る手は貴族という単語の時に、ギリリと締め付けるように強く力を入れたように見えた。
「もしかして王都に来たくなかったのはお家の事が理由?」
早馬の上では舌を噛む可能性が高く会話が出来ない。それに、フローレンス砦に到着しても隊は別になる事が予想されるので、今のうちに聞けることは聞いておこうと先程考えていた事をぶつけてみた。
友達の事を詮索するみたいであまり気が進まなかったがそれでも、言わなかった理由があるのならリルテは知りたかったし、出来るなら力になりたいと思って少し踏み込んだのだった。
「いやまぁ、それもあるんだが他にもあってな、実はーー」
「全員揃ったようなのでこれよりフローレンス砦へ向かいます!」
丁度、アムエナの号令がかかり話の途中で遮られてしまう。
嫌われるのを覚悟しながら勇気を出して聞いたのに、核心に至る部分を聞けずがっくりしたが、しかし意外にも嫌な顔もせずアッサリと答えてくれようとしていたので、リルテは嬉しく思っていた。なので、馬に乗る為一時の別れの挨拶を交わした際、ジュールに曇りのない笑顔を向けてそれぞれが移動したのだが、その愛らしい顔に花の咲くような純真な表情をみた一部の人物は何かを掴まれ、横にいたメイドさんは「マスター、尊い……」と声を漏らしていた。
話の続きは気になるが、この件はスタンピードを無事に収めてから改めて聞く事にし、気持ちを切り替えて馬に乗り出発する。




