一緒にいきます!
「砦にはスタンピードを退けられる兵力はない、事態は急を要するな……しかし対策会議を開き、隊を編成するのにも時間がかかってしまう。被害が拡大するのを防ぐにしろ、援軍を送るにしろ、時間を稼ぐため早急に先行して指揮の取れる部隊を出さねば」
その言葉に続けて、会議の緊急召集を兵士に命じ部屋を退出させた。
動揺からすぐに頭を切り替えて今後の対応を述べる判断力は、さすが一国を動かす王である。
シスミナにアムエナもその判断に同意をするように静かに頷いていた。
ロヴェル森林は隣国を跨いで広がっており、その森林を抜けた北の守りであるフローレンス砦までは、王都から馬に回復魔法を行使して強行移動すれば、スタンピードが到達する前に間に合うぐらいの距離だ。
目的の砦は現在では国境検問所と魔物の警戒が主な役割である。
平和な時代が続き他国の侵攻を防ぐ目的はほぼなくなり、常駐している兵士は少ない。それに加えて周辺地域で活動している冒険者を合わせて、王国の援軍が来るまで持ち堪えなければならないのだが、到底及ばない人数であった。
そして兵力が足りないのは数だけではない。人と魔物では純粋な個々の力に差があるのだ。
脅威レベルの低い魔物であれば学生一人でも倒す事ができるが、中には数人で対処しなければならない大きなものや凶暴な魔物もいる。そういった魔物は戦術を用いて対処していかなければならないのだが、大軍を率いた敵と戦う事は当然想定し訓練も行っているが、ここ何百年も起きていない災害に対して訓練はされていなかった。
それは王都の王国軍も同じであり、援軍が到着してもスタンピードを鎮圧できるかは分からない状態だ。
魔物は統率が取れた敵ではない為、対人とは戦い方も違い、ただ闇雲に正面から衝突しても人の力だけでは飲み込まれてしまうだけなので、効率良く討伐する作戦が必要だが、即席の形が通用するほど災害というものは甘くない。しかしハイエルフの二人は、
「ひさびさに高火力の魔法がぶっ放せるから楽しみだなー」
「姉様が行くところでしたら何処へでもついていきます!シャルル、ウェルズ卿に伝えておいて下さい!」
先程の兵士が残していった詳しい情報を整理すると、今回のスタンピードはアムエナとシスミナだけでは手に余る程の規模という計算なのだが、そんな危機的状況にも関わらず呑気な会話が交わされていた。
前回スタンピードが起きた時とは周りの状況が違い、経験者はシスミナとアムエナだけである。
この状況が如何に厳しいのかが分かる二人の不安や焦りが伝染すれば、ここにいる者達だけでなく戦地に赴く兵士達の判断力にも影響し、組織的な動きは出来なくだろう。
魔物は個々の力だけで抑え込める敵ではない。
シスミナ達は敢えて明るく振る舞う事で平静を装うとしていたのだ。
「はぁ……また勝手な行動を取るのだからこの人は。しかし、今回は広範囲の攻撃が必要なので仕方がないですね。ウェルズ騎士団長には先行隊として動いていると言っておきます」
「ありがとう、シャルル。残りは魔法士団と騎士団から数名ずつ選んで編成します」
グランウェイン王国では戦争のような有事の際、騎士団長が現場へ動くのであるが今は緊急の上、魔法の高火力を必要としている。その理由もあるが、なにより騎士団長は軍務大臣も兼務しているので、会議に出席し作戦などを立案してもらおうとアムエナは考えていた。それほどに信頼を置いている人物である。しかし、もう一つの理由は自分が王の傍を離れるので代わりを頼んだという事でもある。
ニコリと王に微笑んだ後、小隊規模の人選を行おうとしたアムエナにレラルが待ったをかける。
「アムエナ様、私も同行いたしますわ」
「姉様……」
戦力は多い方が良い、ましてや人の形をとっているが力を持っているレッドドラゴンなのである。だが、仮にも学生である彼女を、自らの提案といえ同行させて良いのかと迷い、シスミナに確認を取るように顔を向ける。
「うーん……分かっていると思うけどかなり危険だよー?数の暴力に加えてどんなレベルの魔物が混じっているか分からないんだからー」
「えぇ、承知しております。でもここで、先に学園へ帰ってもモヤモヤするだけですもの」
今学園に戻ればこの災害で死ぬ事はないであろう。しかし、自分が残る事で被害が減らせるのであればそれでいい。
レラルには「困っているものがいれば助ける」「どんなに数が多くても自分より脅威レベルが低い者に背中を見せない」といったドラゴンとしての誇りというものがある。
その誇りが行動を固く決意させたのだ。
するとその決断を聞き意外な人物も手を挙げた。
「僕も一緒に行きます」
危険な事が嫌で学園に入ったリルテだが、対象の者を助けると交わした神様の頼み事は忘れていなかった。
「マスター、私は反対です!いくら力があるとはいえ普通の戦闘とは訳が違います。あくまでも災害なのです。そのような危険な場所に向かわれる事は許可できません!」
一拍を置かずして止めに入ったその表情には、普段あまり見せない感情が入り、マスターを危険な事に巻き込みたくない必死さがみえた。
それは過去の何かを思い出し、同じ末路を阻止しようとする気持ちからだった。
リルテは少し驚いたが、一度目を閉じ頭の中で整理を付けた後、ルーの目を見る。
「ありがとう、僕の事を想って止めてくれているのは分かるよ。それでも大勢の人に被害が出る状況を、見て見ぬ振りも出来ないから少しでも役に立つのなら僕は行きたい!それに守りたい友達もいるからね!」
「マスターもまた、同じ事を仰るのですね……」
悲痛な顔を見せないように俯きながらルーは聞こえない声を漏らす。
「意思は固そうだねー」
「ではリルテ君達には撃ち漏らしの対処として遊撃に出てもらうのはどうでしょう?無理はせず脅威レベルの高い魔物は発見次第、報告に走ってもらうなどをお願い出来ればと思いますが如何です?」
パンッと両手を合わせた後、人差し指を立てながらリルテの決意に動かされたアムエナが妥協案を挙げる。下を向いたままルーは少し悩んだ様子を見せたが、考えがまとまったのかリルテに顔を向けて口を開く。
「……分かりました。そのかわり私の判断には従ってもらいますよ、マスター」
「うん、分かったよ!絶対無理はしないから!」
この場が纏まった所でアムエナは小隊規模の人選を手早く済ませ、部屋の外で警護をしていた兵士にリストを渡し召集に走らせてから、リルテ達は移動の準備に取り掛かった。
そんな中ひとり一番後ろで、リルテの「守りたい」発言に顔を赤くしたままのレラルだった。




