そこで火がつくんですね!
『今年の流行語はNINJAで決まり!』
それぐらい車内では話題が集中してしまいリルテは質問責めにあっている。
うっかり発症し口を滑らせてしまった事に、後悔をする間も与えてもらえず、容赦なく質問は投げかけられた。
脅威レベル7の竜種であるレラルさえも目を輝かせてグイグイ詰め寄る勢いを見せるほどだ。
それぞれに抱く想望で膨らんだNINJAさんは、もはや忍ことを忘れてしまっている。登場シーンは背景に爆発や閃光を背負っていることだろう。
そんな中、なにやらシスミナは考え込んでいた。驚愕の人物に興味津々の学園長なので王都から戻った後、なにも起きなければいいがそうは行かないだろう。思い付きで行動する人がじっとしているはずがないのだから。
王城の門を抜けて、いよいよ城内に足を踏み入れる時になり、ようやくその話も落ち着いたが疲労困憊のリルテはフラフラと歩き、感慨に浸る余裕もなさそうである。
進む回廊は大きな柱が幾重にも連なり、アーチ状の天井群と幾何学的な空間を織り成しており、計算された芸術品といっても良いくらい美しい。
時は立っているが戦時の面影があり、居住としての優雅で煌びやかな宮殿とは違い、重厚な作りは軍事拠点としての役割を忘れてはおらず、やはり要塞という雰囲気である。だが、その建築も身から出た錆の沈静化で疲弊した今のリルテにとっては、ただの風景であった。
案内役の騎士に連れられて謁見の間へと通された一行は、数名の近衛兵が脇を固める中を進み、王の前で跪く。
大きな粗相はここまでなく、本来であれば異なる世界から来て作法などもそこまで馴染みのないリルテなら、かなりテンパっていただろう。
しかし、思ったよりも落ち着いている、というか心なしかぐったりしている感すらあり、緊張する時間を与えなかったのがいい方向に向いたらしい。
そんなリルテの横に並ぶ学園生とメイドさんだが、ルーは流石にメイド服のままでの謁見は、
礼典にそぐわないと咎められたので密かに竜車の中で着替え、もとい変身済みである。
そして、その列に少し間を開けてシスミナだけを
先頭に皆、頭を下げている状況で、跪いた目の前に鎮座しているのが、この国の王シャルル・デイ・グランウェインだ。
壮年で、纏う威厳に負けないくらいの品格が見え、王らしい整った相貌に黄色と白で彩られたサーコートを羽織っている。猛々しくオールバックにしたアッシュブロンドの髪と同じ色の稲妻のような眉毛に、囚われてしまいそうな眼光であり、この城に合った武人然とした人物である。
両脇には先程から場の進行を行なっている宰相と、王の近くで一際輝く鎧を着ているので騎士団長であろうジュールを睨んでいるように見える男性。そしてシスミナと同じ髪の色の女性が立っている。
リルテは王妃かとも考えていたが、今回の報告は王妃が出る内容ではない。形相も見合う豪華な装いのはずだが、洗練された作りではあるけれど白地にオレンジ色の刺繍が入ったローブなどからはどちらかというと賢者のようだった。
そして何よりも、髪の色がスカイブルーである事で、エルフもしくはシスミナと同じハイエルフかもしれないと推測していた。
そんな事を頭の中で考えている中、シスミナによる今期入学の注目すべき生徒や学園の運営状況を話している。
ミロンガルブ学園は王立であり、卒業生は王城にて仕える者も少なくないので、在学中から事前に能力査定という形で学園長であるシスミナが定例報告を行なっているのだ。
「ではシスミナよ、より一層の尽力を尽くせ」
「承知致しました」
そろそろリルテが精神的回復を終えようとする前に謁見は終わってしまった。
シスミナの報告の中で、ここにいる引率してきた生徒達の紹介などもあったのだが、完全回復には至らずどうやら無意識の内に行っていたらしい。なんとも器用な少年である。
平民にとって王に会えたという希少な体験を済ませ、謁見の間を出た直前に近衛兵がシスミナを呼び止めた。
「シスミナ様、予定通り宮廷魔法士団長が来賓室でお待ちですので、ご案内致します」
「ありがとうー、じゃあ皆んなも一緒に付いてきてねー」
軽い感じで告げられた予定に、そんな予定聞いてないですわ!といった表情のレラルとは逆に、事の大きさに気付かず素直に従うリルテ。
この国一の魔法士に、簡単に会えてしまうという事の動揺もあるが、宮廷魔法士団長はその役職こそ有名であるものの、表立って出る際にはいつも仮面とローブで顔が隠されており、名前すら明かされていない人物である為、この様な機会などないのである。
しかし、田舎に住んでいてこの国の事をあまり知らない少年は、のほほんとシスミナの後を歩いていた。
因みに、この中にジュールのみ姿が見えないが、王国騎士団長に呼ばれたとの事で謁見終了後、早々に場を離れている。
王国のトップ達に次々と呼び出されるところだけ見るとこの一行は問題児……否、有名人が多いのかも知れない。
目的の場所までにレラルの状態は落ち着き、宮廷魔法士団長に会う前に再度身嗜みを整えている。
来賓室の扉が開かれると綺麗な所作でシスミナ達を出迎えるメイドがいた。
リルテはその姿を見てこれが本物のメイドの佇まいであると感慨に浸っていたのだが、それを見たルーはハッとした顔をして、
「私もメイド服に着替えて来ます!」
「変な対抗心を燃やさないで!?」
「ですがマスターはメイド服がお好みなのでは?」
「違うよ!?」
「萌ぉえ〜、なのでは?」
「こっちにもその言葉あるの!?」
本物のメイドは、主人を弄って遊んだりはしない。そこが言いたかったマスターであった。
奥のソファー席に進むと、謁見の際にリルテが気になっていた賢者のような女性がソファーに座っているのが見え、少し視線をずらすと、もう一人先程会った人物がいた。
「「え?」」
そこには謁見の間で見たばかりのグランウェイン王も一緒に席に付いていており、レラルも同時に驚きと困惑の声を出していた。
「さっきぶりー、アーちゃん!それにシャルルもー!」
「「ええぇーッ!?」」
先程敬意を持って話していたシスミナが、王に対して手を振りながらフランクに話しかけている。
会った時から洞察力の高さや行動力の凄さを見て思っていたが、交友関係の広さも目の当たりにして、やっぱりうちの学園長ぱねーと改めて思ったリルテだった。




