いいすぎました!
街道を更に進み、主塔の全容が分かるくらいに近くなり、門も確認できる距離に入る。
入口の左右に広がる王都の城壁は馬車二台分くらいの高さでルヴァンソンヌよりは低い。
その塀を見ながら、これぐらいNINJAなら余裕だなとちょっと香ばしくニヒルに決めながら漏らしてしまった言葉を、しっかりとルーに聞かれ説明を求められたのでワタワタと誤魔化すリルテだった。やはりNINJAは異世界にはいないらしい。
取り敢えず軽く概要を伝え、締めくくりに闇に生きる伝説のアサシンと答えると、畏怖とも取れる反応をされていた。
うん、多少の脚色はあったがその説明で間違ってはいない。大丈夫。
ただリルテの願望が入って、ちょっとこの世界の魔法を上回ってしまっただけの事だ。
城壁がルヴァンソンヌより低いのは、王都の人口がいまだ増え、発展を続けているので、建設中の建物が無防備な期間を短縮する為、作業を妨害されない様に、魔物の侵入を遅らせる程度の簡易的なものだからである。
このように、街が大きくなるごとに新しい壁が建設されているので、王都だけでも三層の城壁に囲まれている。
因みにルヴァンソンヌの場合は、周辺にオルタンシアバードなどの凶暴な魔物が生息していたので、都市計画上、先に防衛の観点から城壁が作られた。
守るべき街がない状態である為、長い建設期間をかける事により、強固な城壁を作る事が出来たのである。
「うわぁー、初めて王都に来たよ!」
竜車は徐行しつつそのまま西門を潜り、王都ラベルに入るとリルテが感嘆の声を上げた。田舎育ちである為、大都市には縁がなく教科書で見るぐらいだったが、実際に目の当たりにするとルヴァンソンヌを遥かに凌ぐ規模で、口がずっと開きっぱなしである。
「外から見るのも壮観でいいですが…………中に入れた、いえ……入った、今の気持ちはいかがですか?」
「中も最高ー!」
「マスターもあの主塔のように太く、大きく、逞ましくなるといいですね」
「うん!僕も早く大きくなるよ!」
「マスター、その言葉……頂きました」
「聞き方がおかしいですわっ!?」
「おや?レラル様、それはどういう意味で?」
「え!?そ、それは……え、えとっ」
顔を赤く染め身振り手振りで慌てるレラルの肩が、おやつを食べ終えた後すぐに眠ってしまったシスミナにあたり、軽く呻き声が漏れた。
「ドラゴン種はあちらの知識が早熟と……」
レラルの反応に準備をしていたかのようにルーはポケットから取り出したノートに記入している。
「ぎゃあああーっ謀られましたわ!」
「レラル様の妄想も捗りますね」
「ーー?」
レラルを弄る為にダシに使われた当のリルテは、全く理解していない様子で二人のやり取りをただ見ているだけであった。
その後、レラルの大声で目を覚ましたシスミナが、起こされた腹いせに精神的な方法でピィッと泣かせた後、勉強を兼ねて窓越しに見える王都について案内をしてくれた。
「王都ラベルは丘の上に建てられたグランウェイン城の麓に広がる城下町でねー王城を中心として貴族街、住居区画、商業区画とブロックが分かれているんだよー」
「もしかして、さっき二つ目の門を潜りましたけど、城壁が境界のような役割になっているんですか?」
「そうそうっ!大戦時の王城は要塞としての役割だけだったんだけどー、終戦後に武勲をたて褒賞で懐があったまった兵士を狙ってー、商人が集まり出した事で街が発展していったから城壁を拡げるその時と同時にー、12英雄の一人であるグランウェイン王が建国を宣言したんだー」
いつの間にか取り出したスケッチブックを使って、紙芝居のように図解してくれたのだが、あまりにも用意がいい事に一体いつ書いていたのかという疑問を抱くほどだ。内容のクオリティも高く、やはり絵というのは分かりやすい。教科書にはもっとイラストを入れるべきだ。
シスミナの教育者としての能力の高さを垣間見たリルテは流石学園長だと素直に賞賛していた。
閑静な貴族街を抜けると、王城はもう目の前だ。
グランウェイン城は星形要塞でそれぞれ五つの角には塔を要する。
この形の城壁は、お互いをカバーする事が出来て外敵が攻略の為、壁を超えようとしても多方向からの迎撃により対応が可能である。魔法などによる遠距離攻撃も、鋭角があるので効果的な正面への射程に入りにくく高火力の魔法にも有効である。実際、グランウェイン城の城壁は侵入を許すほどの損壊を受けた事がない。
そして、その城壁に囲まれた中心に天守塔があり、重厚で威圧感のある風格である。
「マスター、ここの防衛設備は見直す必要があります。あの方なら造作もなく侵入できてしまいますからね」
「も、もしかして……!」
すわ、魔王か伝説の古竜かと身構えた。しかし、一泊を置いてルーが口にしたあの方の名前はーー
「……NINJAです」
「ノーゥ!ソレ固有名詞ジャアナァイョ!」
日本人が外国人に注意をする時のように何故か片言になりつつ、両手を挙げて盛大にツッコミを入れる。二人の会話を聞いていたシスミナとレラルは、驚愕で目が点になっており、まさか難攻不落の要塞を、いとも簡単に侵入できるそんな存在がいるなんて!という表情だ。
「垂直壁走とか透明になれるコウガクメイサイ?なら容易でしょう」
何故かフンスッと胸を張り自慢気なルーだが、彼女の中では日本の暗殺者は総称ではなく、一個人名の超越者として高みに行ってしまったようだった
自らが蒔いた種がのちに花開いてしまう事を、この時のリルテは知らない。




