戦利品です!
数台の馬車が停車するすぐ横で、ペロケドラゴンが果実を美味しそうにつつき、その隣では馬たちが柵から頭を出して乾草を食べている馬車の休憩所。
宿屋などの場所によっては、切り藁が主であったりするが栄養価が低く、これから長距離の移動を行う為、休憩所にいる輓獣はそれぞれが栄養価の高い食べ物を与えられ、力を蓄えている。
ティアと別れてから来た道を戻り、途中で菓子店から出てきたレラルと合流したリルテは、自分達の竜車に一番乗りで着いていた。
なにやら菓子店では一悶着あったようで、愚痴を吐きながら間を空けずお菓子を頬張っている。
その様子を見て、先程の食事分は一体どこに消えてしまったかと思うほどであり、ドラゴンはもしかすると胃が何個もあるのでは?とか、女の子特有のデザートは別腹という事なのか?など、色々思っていた挙句、現在では両手に抱えていた荷物が凄まじい勢いで無くなっていく早さから、スキルの類ではないかとリルテは思い始めている。
七つの大罪である【暴食】のスキルーー何でも喰らい尽くしそうでカッコイイッと突然、中二病を発症させたリルテだった。しかし、そんなスキルはこれまで確認されておらず、シスミナからその事実を聞いて、がっくり肩を落とす少年が後に出来上がるだろう。
そんな感じで、今は若干レラルの愚痴の内容が耳に入っていなかったりするのだが、どうやら菓子店で客と揉めたらしい。
「ミウデュ教徒の極一部には、人種至上主義の方達がおりますの。私がルミエール教徒であるというだけで異端者扱いですわ。まったく、亜人が何をしたというのでしょうね……」
ルミエール教徒は星をかたどったアクセサリーを身に付けているので見ただけでも分かる。
『ったく、早くしろよ!これだから亜人が信仰する宗教は……』
あれやこれやと大量に菓子を買うレラルに、会計を待たされたミウデュ教の客が吐き捨てた言葉だった。
勿論、亜人でもミウデュ教を信仰するものはいる。だがそれはそれと話をすり替え、悪い事ではないのだがマジョリティが正義と考えるものほど視野が狭くなるのかもしれない。その中でも特に自己中心的なものがレラルの出会った客なのだろう。
愚痴の内容は把握出来たが、この世界の宗教に疎いリルテが素直に質問すると、レラルは丁寧に教えてくれた。
ミウドレンの宗教は大きく分けて四つある。
この世界で一番大きな宗教で人種が多く信仰するミウデュ教は、創造神ミウドレンを崇拝しており教徒数はこの世界の大半を占めている。
次に、レラルも信仰し光の神ラテルを崇めているのがルミエール教である。遠い昔、文献に記載されている限りでは転生者により広められたと伝わっている。
そして精霊王を信仰するレスプリ教。歴史が古く人々が文化をもちだした頃から存在する。
最後に大戦の魔王を神とする一番新しく成立した邪神教。破壊の上に創造があるという考えで、魔王は自身を犠牲にして、この世界を纏めたなどと広まり教徒が集まり成っている。
この世界を作ったのは創造神ミウドレンという事は、誰でも知っている。世界の始まりを作った偉大な神であると。
しかし、亜人に置いては邪神が生み出したと考えるものもいる。
因みにミウデュ教にそのような教えはないのだが、自分とは姿形が違うというだけで畏怖や蔑むものがいる事は事実である。
長く続いた戦乱の時代。様々な種族が最終的に手を取り合い、魔王を討ち倒し締めくくった大戦から時が過ぎ、命が危険に晒されないほど平和になったからといっても差別はなくならないのかもしれない。
「まぁ、嫌がらせでその方が買おうとしていたお菓子を買い占めましたので、これは戦利品というところですわ」
リルテに説明を終え、菓子店での事の顛末を語ると、どこに隠し持っていたのかレラルの背後から、先程手に持っていたお菓子とは別の大きな紙袋を自慢気に出す。
食事の際にジュールと一触即発だった事案にしろ、普段はお嬢様のような振る舞いを見せているが、実は短気ではないかと思われる行動にリルテは苦笑いだ。
しばらく、レラルとの雑談を楽しみながら皆を待ち、全員が揃ったところで竜車に乗り、再び王都に向けて出発した。
国の中心に近づいている為、街道沿いにある小さな町の感覚も短くなってきている。相変わらず初めて見る景色を見逃さないように、窓にへばりついているリルテだ。そんな、新しいおもちゃを与えられた小動物を思わせる様子に、ルーは癒されていたりする。
「皆さん、おやつは如何ですか?私、ルヴァンソンヌで沢山買ってまいりましたので食べましょう!」
紙袋を持ったレラルが戦利品であるお菓子を片手に提案する。丁度小腹も空いてきた頃だったので皆も賛成した。
「じゃあ私はお茶でもいれるねー」
「「結構です」」
示し合わせたように、レラルとルーからの拒否が飛び、すかさずシスミナの機嫌を損ねないように、できるメイドさんがフォローを入れる。
「シスミナ様、飲み物でしたら丁度先程買いましたのでこちらで」
「なんだよ二人してー。高級品なんだぞー、ロトンナッツブルーティーはー。リルテ君は一緒に飲んでくれるよねー?」
「……は、はい」
飲みの席で上司から酒を勧められた社会人の様にノーと言えない元国民性が出た。
案の定、口に含んだ側から窓へ吐き出すというのをまた繰り返した後、ルーに口直しの飲み物をもらい、落ち着きを取り戻している。対面に座っていたシスミナは結果が分かっているはずなのに、やっぱりダメかーと口では残念そうな感じを出しているが、顔は悪戯が成功した子供のようであった。
その騒ぎに反応したジュールが、車内の甘い匂いから判断してお菓子を強請り、流れるようにシスミナから飲み物を渡され、リルテと同じように口の中を不快感で満たしてしまう。
その際、わざと喉が渇きやすくなるクッキーを、レラルが選んでいたのをリルテは見逃さなかった。
こうした竜車の旅もそろそろ目的地が近いようで、徐々に街道が賑やかになり小さくではあるが大きなドンジョン、すなわち主塔が見え始め、王都を視界に入れた隅の方には少し陰がかった大きな雲が流れている。
「……何か、嫌な色が見えますわ」
ヘーゼルカラーの眼に空を写した際、レラルが呟いた。
天候が崩れる事を示唆しているのか、はたまたドラゴンの目にはただそう映っていたのか、その言葉を耳に拾ってしまったリルテは、無意識に眉を顰め、改めて空を眺めていた。




