出会いです!
「何故じゃ!?これならお釣りがくるくらいじゃろ!?」
声が聞こえた屋台の前まで近づくと、明らかに困った顔をしている店員に、左手を突き出し反対の腕を振り回して抗議を訴える小さな子が見えた。
「お嬢ちゃん、こんな硬貨見た事がねぇし、ここいらじゃどこも使えねぇ。もし価値があるのなら質屋でも行って換金して貰ってからまた来てくれ」
「ぬぉおぉぉ〜、やっと辿り着いた街なのじゃっ何か食べないと飢え死にしてしま、う……」
徐々にか細くなっていく言葉の後、女の子がよろけ後ろに倒れそうになったので受け止める。
リルテよりも背が低く見た感じ幼女。
見えている肌の面積は広く際どい服装をしていて、ヘソが見えるショート丈のキャミソールにショートパンツで合わせ、レースアップサンダルを履いてとても動きやすそうな装いだ。
リルテの目の前で結んだ毛先がフヨフヨ靡いており、ボブの長さでゆるく外ハネた黒髪をワンサイドアップにしている。
空腹でなければ、銀鱗躍動が似合いそうな女の子だが、今は目がグルグルしている状態で、歩きまわるのも無理そうだ。
「うぅ……すまぬ、空腹で大声出したら目が回ってしもうた……」
「何か困り事?」
「我が持っている硬貨が使えなくなってしまっての……目覚めてから何も口にしておらんので、力が入らんのじゃ……」
弱々しく開かれた眼は遠くを見て、何かを掴もうと手を握ったり閉じたりしながら答えた。
そして、食べ物の幻覚を見ているのか、あぅあぅと口を動かしている。
後ろから抱き支えて分かったが、頭には二つのツノが対で髪の合間から覗き見える。
リルテはこの街の子供達で流行っている、ヘアアクセサリーと思ってそこは気にならなかったが、近くで女の子を見ると印象的な大きな眼の瞳孔が垂直だったので、思わず二度見をしていたくらいだ。
「お腹が空いているんだね。おじさん、そのオルタンシアバードの肉串を頂戴!」
「お、おぬし女神か!?」
「いやっ違うよ!?てか男なんだけど!」
「そうか……うりふたつなのじゃが……まぁよい!」
「ん?分かってくれたならいいんだけど……それよりも、はいっこれ!」
「ふぅおぉぉーっ!いただくのじゃ!」
途中の言葉は独り言のような感じだったので、リルテには聞き取れてはおらず、丁度店員から肉串を渡されたのでそのまま女の子に差し出した。
受け取った途端、凄い勢いで肉串を口の中に詰め込みあっという間になくなってしまい、追加で三本を頼んでようやく満足したのか小さなお腹を二度叩いて一息付いている。
「キシシッ!助かったのじゃ!我の名はティアート・レアンタムポアル。ティアと呼ぶ事を許そう」
「元気になって良かった!僕はリルテだよ」
「お礼をしてやりたいが、見ての通り持ち物がないのでやれるものがない。代わりと言ってはなんじゃがこの硬貨はお主にやるのじゃ!ちょっとくらいの価値はあると思うぞっ」
手渡された硬貨は八角形をしていて、大きな木と星が描かれている。
白く輝き白金にも見えるので、確かにこの金属だけでも価値がありそうだ。
「別に物とかくれなくていいんだけど……じゃあ、一応ありがたく貰っておくね!」
「よいよい。してリルテよ、助けてもらってなんじゃが聞きたい事があるのじゃ」
「いいよ!どんな事かな?」
硬貨をポケットにしまうリルテに、小さな胸を張りながら大仰に声を掛け、そして先程食べ終わった串で、空中に小さな円をクルクルと描きながらティアが質問をする。
「アニュビス大森林はまだ残っておるか?」
「あるよ!ケモミミパラダイスの国だよね!フカフカのモフモフでセマニフィーックなっ!」
「にぎゃやゃゃーっ!急にグイグイくるのぉ!?なんじゃそのテンションの高さは!引くわいっ!」
獣人に関する単語で目をギラつかせ、興奮状態になったリルテに身の危険を感じるほど詰め寄られ、ティアは本能的に間合いの外まで後退る。
アニュビス大森林については最近、周辺諸国の魔物分布授業の中で教わっていた。
冒険者であれば、様々な依頼を受ける為、情勢や地理、文化などは知識として持っていて損はなくむしろ役に立つばかりである。
特に文化に関して言えば、国それぞれで礼儀作法も違ってくる。
依頼内容によっては、その国の要人に会うこともある為、無作法だと処罰される可能性もあるのだ。
そしてティアが質問した国は、グランウェイン王国の東の隣国、パルジファルスの中にある公国で国土面積は違うが、地理的には地球でいうバチカン市国のようだ。
リルテが言うように獣人が暮らしており、昔は傭兵を生業としたものが多かったが、現在は大森林の観光で栄えて、街並みも綺麗で経済も安定している。
その為、獣人は住みやすく居心地の良い国から外に出ようとしないと言うのが、他の国で出会う事が珍しい要因である。
異世界に来てもまだ獣人とは触れ合っておらず、ジュールが話してくれたクラスメイトの事を聞いてから、更に欲求が高まっていたので、まずは好きな相手の事を知るのが大事だと、その授業は特別な集中力を見せていた。
「ティアの目的地方面へ馬車で移動中だから、途中まで乗っていく?」
王都は国の中心に位置しており、大森林へ向かう街道の上に位置している。
ティアに引かれた事で我にかえり、興奮から落ち着いたリルテが提案した。
サイドテールを左右に揺らしながら様子を伺い、若干まだ警戒心があるがリルテの側に戻り答える。
「それは有難いが、まずは南に用があるのでな。あそこの遺跡は時が経ってもそう無くなるもんでもなかろうし、確実じゃと思ってそっちを目指しておるのじゃ」
南にはダンジョンで栄えている国、フュドガラードがありダンジョンに目的があるのだろう。
それにしても子供なのに彼方此方に用事があって多忙そうである。
リルテが他にも聞こうとした時、鐘が街に鳴り響く。
「あっ!集合の時間だから行かないと。ティアはどうするの?」
「そうじゃな、我も行くかの。ではリルテよ機会があったらまた会おうぞ!」
ティアの事をあまり聞けず名残惜しいが、みんなが待っている為、リルテは泣く泣く別れることにする。
「うん!ティアも気を付けてね!」
別れの挨拶をした後、細い路地に歩いて行ったのを見送っていたが、何かに気付き首をコテンと傾げる。
「あれ?あんなローブ羽織ってたかな?」
後ろ姿に先程まではなかったはずの、羽のような黒いものが背中に見えた後、ティアはそのまま消えていったのだった。




