確認は大切です!
竜車から目視できる壁には神剣の検証でルーが見せたシールドの様なものが張られ、ここが地球とは異なる世界だと再認識させられていた。
古の大戦前より外敵の脅威を防御する為、街は高い壁に囲まれており、現在でも魔物の侵入を防ぐ役割を果たしている。
学園に隣接するヴューリオンの街ほど大きくはないが、交通の要所として栄えていて、商店や宿屋などが数多く建ち並び、行き交う人も多い。
街道より続く中央通りを挟んで、商業地区と少し高台になっている行政地区に分かれ、吹き下す風が通り抜けやすい様に綺麗な区画整理が行われていて、ファンタジー然とした街並みである、それがここ城郭都市ルヴァンソンヌである。
「あのイカツイ鳥がこんなにもうまくなるとはすげぇな。回収しとけば良かったぜ……」
ペロケドラゴンを休ませる為、竜車を休憩所に預けてリルテ達はこの街の名物であるカスレを堪能している。
深い土鍋に具材を入れ、長時間煮込んで作る豆のシチューであるが具が主役であり、特にオルタンシアバードの肉が柔らかくジューシーで圧倒的な存在感を放っている。
因みに、この街の冒険者ギルドで一番多い依頼が、オルタンシアバードの納品で凶暴なので家禽には向かない為、それぞれの飲食店から随時、依頼が出ておりジュールが言うように回収していれば報酬が出ていた。
ギルドでの冒険者登録をしていないので依頼を受ける事は出来ないのだが、シスミナがギルドカードを持っているので代わりに納品して貰えば小銭稼ぎにはなっただろう。
冒険者にはランクがあり昇格には依頼の達成件数が定められている。なので一見ギルドでは禁止されている行為に見えるが、昇格試験がある為例外を除き実力がなければランクは上がらない。依頼の達成件数は試験を受ける目安でしかないのである。
「おっ!レラルは人参が嫌いなのか?そんじゃ俺が食ってやるよ」
皿の端に何個か寄せて固めてある人参を、横からフォークで全部突き刺し口の中に入れた。
その光景にレラルは目を見開き食事をしていた手が止まり、持っていたスプーンが手から溢れ落ちてシチューの中にダイブし、豆達が数個飛び出していった。
「あっ……」
「え?もしかして好物は最後に取っておくタイプか?悪りぃもう食っちまったぜ」
「……コロス。私の大好きな人参を奪った罪は重い……」
「いや、てっきり苦手なのかと思って善意で食べてやったんだぜ!皿の端に避けてるのが悪りぃんだろうが!」
「何と言おうと結果は今、目の前にある。人参さんはもういない……やるか?脆弱な小僧よ」
「あぁ?シッポ頭が何言ってやがる!表でやがれ!」
いつものお嬢様口調も忘れて憤慨するレラルに対して、火に油を注ぎ込むジュール。
気の利くメイドさんは、食器類を割れないように素早く安全圏へ移動させた。もちろん、同時に主人も手際良く誘導済みで、すっぽりとメイド自身の腕の中に収まっている。
そして、これからバトル展開が始まるのかと思いきや、静かにシスミナが制止をかける。
「……食事中は大人しくしようねーじゃないと物理的なお・は・な・し、をする事になるよー」
「はいぃっ!騒いだりしませんっ!」
「ぴっ!も、申し訳ございませんっ!」
シスミナの言葉が終わった瞬間、二人同時に身体を跳ねさせた後、直ぐさまピンッと背筋を伸ばして敬礼したイケメンと、身体を直角に曲げてテーブルに勢い良く頭を打つける美少女の絵が出来上がる。
ニコニコとした爽やかな表情とは逆に、声に篭った物凄い威圧によりジュールとレラルのテンションは打ち捨てられたトマトの様に潰れていた。
やはり、学園長は教育者としてどんな時でもしっかりと注意するのだとリルテは思っていたが、しかしルーは見ていた。
現実はレラルがスプーンを落とした際、一つの豆がローブにかかりシミとなり、そしてシスミナの額に怒筋が浮き出た所を。
ただ単にお気に入りの衣服を汚されて立腹していた事は、ルーの胸の内に仕舞われ、案外自分のご主人様は突然の騒ぎにも動じない程、落ち着いていて冷静だと情報が得られたので満足だった。
ちょっとした騒ぎもあったが、皿の上の食べ物がなくなり会計を済ませる。謁見の時間が決まっているので長居はできないが、ペロケドラゴンを休ませている間ぐらいは街を回る事が出来る。
出発にはまだ時間があるので、食事を終えて少し街を観光しようと席を立つ。
「ルーちゃんはちょっと残って貰ってもいいー?」
「……マスター、お側を離れますが宜しいですか?」
「大丈夫だよ。学園長、僕はいいんですか?」
「ルーちゃんに聞きたいことがあるんだけどー、昔話だからつまらないと思うし、リルテ君はみんなと観光に行っておいでよー」
リルテは昔話にも興味があったが、わざわざルーだけを引き止めたのには訳があるはずなので、それとなく雰囲気を察してルーをその場に残して店を出た。
日が大分高くなり、馬車の行き交う量も増えてきている中央通りから商業地区に入る。
形の近い木骨造りの建物が綺麗に並び、個性ある看板達がこちらにアピールをしている街並みを眺めつつ、三人は色々な店舗を覗きながら珍しい土産物などを物色して楽しんでいた。
しかし、それもほんの数分前迄で、現在リルテは一人道端で突っ立っている。
デュランダルというとてもいい剣を持っているにも関わらず、余程ジュールは剣が好きなのか武器屋に吸い込まれるように入ってから、かれこれ戻って来ず、レラルは気になるお菓子を発見しフラフラと何かに取り憑かれたように足を進め消えた。
食事中の出来事と合わせて、シスミナに食いしん坊のキャラ付けをされる素質を垣間見たリルテだった。
「うぇっ!?この短時間でバラバラになるとか二人とも自由すぎでしょ!」
個々に分かれたとはいえ、次の鐘が鳴れば竜車の休憩所に集合する事になっているので心配は要らないと、リルテは気にせず再び観光を続けた。
通りはいろいろな屋台が並ぶ地区に変わり、先程食事をとったが辺りをいい匂いが流れ、食欲を刺激されたので何か買おうと、品定めをしていた。
すると、通りを少し曲がった所から、大きな声が聞こえてきたのでそちらを見ると、何やら揉めている人物がいるのをリルテは捉え、興味本位でその場に足を進めるのだった。




