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「これうまーっ!中から肉が溢れ出てくるぜ!」
「このお店の名物らしいですよ。パンのバターとスパイシーな肉汁が絡んで深い味わいですね」
食事を摂取しなくても魔素があれば生きていけるルーだが初めて見る食べ物に興味を持っていたところをリルテに見抜かれて食事を勧められたので今こうして舌鼓を打っている。
人族ではないが味はしっかり分かるようで時々感想を漏らしてはパクパクと口に運ぶルーを微笑ましく見るのだった。
昼食を肉の匂いに誘われて入った〈満月亭〉で取ることにしたのだが、どうやら当たりのようで、店員も愛想が良く料理も美味しいと、この界隈では評判の高いお店だったりする。
そして、ここの名物はピロシキに似た食べ物で中は挽肉と野菜を炒めたものが入っており、パンは揚げるのではなく焼いてふっくらと中身を包んでいる。
「そういえばちょっと前まではよく肉まん食べてたなぁ」
蒸す行程が入っていないがこのふっくらとした形を見て思い出に引き込まれる。
リルテの村ではあまり子供が多くなかった。
唯一、歳が近い二つ年上の女の子がいてよく面倒を見てもらっていた。とても優しく、花の種類や動物の名前など色々な事を教えてくれたり、時には喧嘩をする時もあったがいつも一緒にいてくれた。
そんな女の子もリルテがミロンガルブ学園に来る二年前のある日、いつもはそれぞれの家に帰る別れ際の言葉は決まって『またね』だったのだが、その日は『また会おうね』と言われ、彼女は次の日から姿を見せなくなった。喧嘩をした訳でもないのに突然いなくなった彼女に訳も分からず、リルテは心に穴が空いたように数日を過ごしたのだった。
その女の子がよく作って持って来てくれていたのが肉まんであった。
「ライラお姉ちゃんどこ行っちゃったんだろう……」
GDLにとっては驚愕の事実であるが店の中までは尾行がついていなかったのが幸いだった。この呟きが聞かれていたら目的の具現化に箍が外れ暴徒達が押し寄せていたほどの炎上案件である。
もしもの事態を免れた一行が食事後、街の中心部にあるサントル広場の露店を見て回る事にした。
様々な国から日用品に魔道具や武器まで色々な品が集まっており活気に溢れている。
今日が特別な日とかではなく毎日が人で賑わっており、グランウェイン王国の窓口といわれるだけはある。
ここに来れば大抵のものが揃っている。観光客ばかりでなく地元の人達も買い物に訪れる為、連日の群衆要素となっている。
リルテもまたその一人で先日折れた剣の代わりを探して武器を扱う店舗へ二人と一緒に訪れていた。
店に入りジュールと相談して決めたのは折れた剣とほぼ形の変わらないもので、お中元にソーメンセットを選ぶくらい無難な剣を選んだ。曰く取り回しが良ければなんでもいいとの事。弘法筆を選ばずという訳ではなく単にこだわりがないだけである。
リルテの買い物が終わり、再び広場を歩き出す。
辺りを回ってしばらくした頃、後ろを歩いていたルーが書物を扱う店舗の前で、何かを見つけて立ち止まり、一冊の本を手に取りジッと見つめ小さな声で呟いた。
「……マスター」
その様子に気付いたリルテが心配して声を掛ける。
「どうしたのルーさん?」
「……いえ、なんでもありません」
「気のせいかな?なにもないならいいけど……そろそろ日も落ちてきたから学園長の所に行こっか!」
リルテに呼ばれ立ち去ったルーの後、そこにはアリア・ホンオリースの魔法書が戻されていたのだった。
街に残り買い物を続けるジュールと別れ、一足先に学園に帰りシスミナに会いにいく。
「失礼します。一年Aクラスのリルテです」
「どうぞー」
学園長室の扉を軽く叩き在室を確認して中に入る。
いつ来ても興味を惹かれる貴重なアイテムなどがありつい眺めてしまう。ふと、棚の上に置かれた石が目に留まる。
以前、訪れた際にはなかったはずで、それは月のように優しく光っておりリルテの視線が一瞬固定されたのだが、声をかけられた事でシスミナの方へ戻された。
「やっほーリルテ君。ごめんねー、朝にも来てくれてたんだよね?丁度今戻って来たところなんだよー、ところで身体の調子はどうかなー?」
「ありがとうございます、もう大丈夫です!あの、ルーさんについてなど大事な話があるのですが……」
リルテが言いにくそうに言葉を止めたのはシスミナの隣に生徒がいたからで、入学式の時に印象的だった燃えるような赤髪をポニーテールにしている少女の姿があった。
「あー!紹介するねーこの子はさっきまで私と秘密の稽古をしていたレラルちゃんでーす」
「初めまして、フルネームはレラルージェと申します。一年のSクラスですわ」
「たぶん、これからリルテ君が話してくれる内容に関わってくると思うから、同席してもらってもいいかな?」
「……学園長がそう仰るなら構いませんよ」
少し間を開けたリルテだが、シスミナに何か考えがあると思い了承する。
「うん、ありがとう!では……レラルちゃんはレッドドラゴンだよー」
「うぇ!?シ、シスミナ様?その事をお話しして大丈夫ですの!?」
先制パンチとばかりに正体を明かしたシスミナに意図が分からないレラルはワタワタと手を動かし動揺する。
「大丈夫だよーきっとリルテ君はもう知っているはずだしー隠しておくよりも情報共有して、互いが守り合う方がいいと思うんだー」
自分がハイエルフであると気付かれた時、鑑定に似た能力を持つと知っているシスミナは、前置きとしてレラルがレッドドラゴンだと話した。
「そうですか……ではあちらにも秘密があると言う事ですの?」
「そう!だから色々と共有するのは必須なんだよー。因みにレラルちゃんはバスト75のEカップです!」
「っちょおー!?それは共有しなくていいでしょうがぁっ!」
「レラルちゃん口調が乱れてるよー」
「……コホンッ……失礼致しました。少し取り乱してしまいましたわ」
それとこれとは関係なく突然の身体情報の暴露に、年頃の女の子にとっては非常に恥ずかしかった事だろう。しかし、普段からシスミナに弄られており、咳払い一つですぐに我を取り戻せるまでになっている。
「そして、こちらはリルテ君とその従者で人工スライムのルーちゃん。リルテ君もレラルちゃんとクラスは違うけど新入生だよー」
「は、はじめまして!僕はAクラスですが同室のジュールから実力の程を聞いていたので心強いです」
バストの話に顔を赤くしながらも全力の勢いで聞いていない程を取りながら言葉を絞り出す。
「私は昨日よりマスターのお側でお仕えさせて頂いております。今の胸のサイズはGカップです」
「そこ合わせて来ますの!?しかも私よりも大きいし会った時から思ってましたがスタイルもいいですわ!ねっ!シスミナ様、私たちよりも……あっ」
「んんー?どこを見て途中で言うのをやめたのかなー?その胸の中身ぶちまけるよー?」
禍々しいオーラを纏いながら呪いの人形さながらに首をグリンッと回し笑顔でレラルを見る。だが目が笑っていないので間違いなくホラーである。
「ピッ!ご、ごめんなさいぃぃぃ!…………自分で振っておいて殺気放つとか理不尽ですわ……」
とてつもない憎悪に当てられてガクガクと膝を震わせる。レッドドラゴンと言えどシスミナの扱いには苦労しているみたいだ。
「というか人工の魔物?そんな話、聞いた事がありませんわ」
会話の勢いで流れてしまった耳馴染みのない単語に話を戻す。
そこでシスミナが事情を知らないレラルに時々リルテも交えてこれまでの経緯を説明する。
「それはまたルーさんも苦労されたのですね」
「長い間、色々ありましたがそのおかげで今のマスターと出会えたので良かったと思っています」
「という事で月末に王都へ二人を連れて報告をしに行くから予定は空けといてねー。あとマスターであるリルテ君は勿論としてジュール君も連れて行くから伝えといてねー」
「ところでルーさんの事以外にもお聞きしたいことがあるのですが……」
『ぐぅううぅぅ……』
「ふぁわっ!すいません朝から何も食べていなくて……ううぅ……恥ずかしいですわ……」
「すごく集中した稽古をしていたんですね」
食事をとることすら出来ないくらい、激しい組手をやっていたのか、はたまた魔力を高める為、精神的に鍛えていて時間を忘れてしまったのかと内容を勝手に想像していたのだが、レラルにとって無慈悲な言葉が掛けられる。
「ちがうよー食いしん坊キャラを付与しようと思ってー」
「謀られましたわ!?」
苦笑しながら一連の二人のやり取りをみてレラルがとても不憫に思えた。ただ昼間のマスターとメイドのやり取りも大概だったのだが本人は気付いていないので他人事のようだ。
「ごめんねリルテ君。レラルちゃんもお腹が空いているみたいだしーそれに明日は会議があるから色々な書類に目を通さなくちゃ行けないんだよー今日はここまでにして王都へ行く馬車の中でゆっくり聞くからー」
こうしてそれぞれの機密を強制的に共有させられただけで自分の事についてはほとんど質問できないまま学園長室を退出し寮に戻るリルテだった。




