似た者同士ですか??
日が落ちてから結構な時間が経っており、昼食からはかなり時間が空いている。
そう、空腹時は怒りっぽくなりがちである。
お腹を満たせばきっと、気持ちも穏やかになって許してくれるはずと、ジュールに何度も謝りながらも、浅はかな作戦を思いついたリルテは、寮へ一緒に帰る約束を忘れ待たせていた事を棚に上げて、とりあえず晩御飯にしょうと提案した。
食堂に着いた時には、リルテが学園長と話していた為、既にピークタイムを過ぎて、人はまばらにしかおらず、かなり席は空いていた。あまり待たず御飯に有り付けそうなので、二人はお預けを食らわずに済んだようだ。
「あー、腹減ったわ」
「今日のオススメは、ポッピンラビットの唐揚げみたいだよ」
「見た目可愛いのに、跳ねながらやたら頭ばっかり狙って来る奴だな。がっつりボリュームもありそうだしそれにするか」
リルテを待っている間、あまりにも暇だったジュールは、訓練場で剣を振るっていたので空腹だった。あながち、リルテの作戦は間違っていないようだ。
注文をした後、料理を受け取り近くの席に座った。
「ほんと、連絡もなく待たせてごめんね」
「分かった分かった。何か理由があったんだろ?それを話してくれるなら許してやってもいい」
「えっと……実は魔素測定が終わった後、学園長室に連行されちゃって……」
「お前何をやらかしたんだよ?」
「……測定プレートを破壊しちゃった」
「マジでっ!?」
「プレート破壊する人とか異常じゃない?おかしな人もいたもんだよ、まったく!」
「いやっ!それお前だから!」
「テヘペロ」
「現実逃避するなっ!帰って来い!」
本来は愛嬌のある仕草だが、焦点の合わない目で繰り出されると怖い。ツッコミを入れていたジュールも、やはりこの様な事案は聞いた事がなかったようで、自然とテーブルの上に身を乗り出していた。
「んで学園長はなんて言ってたんだ?高額な弁償を要求されたとかか?」
「弁償とかはなかったよ。でも、そのあと測定をやり直したんだけど……魔素量が学園で一番多いらしいんだ」
「そうか。学園長が言うんならそうなんだろうな。だったら良かったじゃねーか!Sクラスにいける可能性が上がったんだぜ?そしたら同じクラスだ!」
ニカッと笑うジュールを見て、敬遠されるどころか喜んでくれている様子に、リルテは話して良かったと思っていた。生前では、あまり他人と関わり合いを持たなかったので、反応が怖かったのだ。
「うん!Sクラスに上がれる様、頑張るよ!」
「おう!頑張れ!」
「そういえば、ジュールのクラスはどうだったの?」
「面白そうな奴ばっかだったぞ!まず、移動の時に他のクラスも見てたけど、ウチは20人しか居なかったから、やっぱり精鋭だけを集めたって感じだったな。んで、日頃から鍛えててガタイの良いのもいたし、身体能力が高いって噂の獣人とかもいた!」
例年、一学年の定員は約200人で、リルテのクラスの様に大体が60人ぐらいで分かれている。その中でも、ジュールのクラスは特別枠であり、人数が厳選されているのである。実は、その中でもトップ5に入るほどの実力を持つジュールだが、その眼から見ても、自分と遜色ないくらいにレベルが高いと感じていた。
「それと、入学試験の時に飛んで来たあの子も居たぞ!ニルギス?だったか、魔法の実力は凄いみたいだな」
「そんな事よりケモ耳!モフモフ!ホンモノ!ボク、ミテミタイ!」
「落ち着け!なんか片言になってるぞ。それに学校は同じなんだから、いずれ会えるだろ」
書籍やアニメなどで見ていた、空想上の種族がこの世界にはいる。それを、転生前の記憶を思い出した頃のリルテが、父親であるフレットから聞いた時は、興奮を隠せなかった。
動物が好きだったのもあるが、自分には持っていない物ほど、触りたい衝動に駆られるのが人間であり、そこに獣人がいるならば、一度はモフモフしたいと思うのは当然なのかもしれない。少なくとも、リルテはそれに当てはまっていた様だ。しかし、村に獣人はいなかった為、期待だけが膨らんだ結果、今の状況に至っている。
「だって、僕のクラスに獣人の子なんていなかったよ!ジュールだけずるいっ!」
「元々、数が少ない種族なんだからしょうがないだろ!てか、頬に食べ物を一杯詰め込んで叫ぶんじゃねー!こっちまで飛んできてんだろーがっ!」
リスの様に、頬を膨らませながら食べる癖は転生後からのようで、あちらでの最後を迎える前、食欲はあったのだが身体が受け付けず、病院食が食べられなくなり、点滴しか受け付けなかった辛い記憶がある。なので、口の中で味わうという最大限の行動が、この癖に繋がっていたのだった。
そんな、騒がしく食事をしている二人に、近付いてくるツインテールの少女が見えた。
「すいません、私はニルギスと言いますが、少しお話しても宜しいですかぁ?」
「おっ!噂をすればなんとやらだな。どうしたんだ?」
「あのぉ、昨日の事を謝りたくてぇ。私の魔力が至らなくて、お二人に直撃していた危険性もあったので……本当にすいませんでしたぁ」
今の時間まで、教会に寄っていた為、晩御飯が遅くなってしまったニルギスは、偶々二人を見つけたので、入学試験の出来事を思い出し、わざわざ謝りに来たのだった。
「気にするなよ、現に俺達は怪我なんてしてねーんだから。それよりも、俺の事はクラスが一緒だから知ってるかもしれないが、こいつは知らないだろ?リルテって言って俺の友達だ」
「ど、どうも。僕はAクラスのリルテです。宜しくお願いします」
「リルテさんですねぇ。改めてニルギスですぅ、以後宜しくお願いしますぅ」
「これから飯か?一人だったら一緒に食おうぜ!」
「では、ご一緒させてもらいますねぇ」
軽い挨拶を交わしつつ、リルテの隣の席に着いたニルギスは、祈りを終えた後、食事を始めた。
思い掛けず、三人になってしまったが、ギクシャクする様子もなく、会話は弾んでいた。大抵は、皆が共有できる昨日、今日の話に始まり、他愛もない身の上話しだった。もちろん、プレート破壊の事は話さなかった。ほぼ初対面なので、自分の個人情報を話す訳も無く、それにリルテ自身、この問題の扱いを決め兼ねていたのだ。Sクラスに上がる為、頑張るとは言ったが、公にどこまで話していいか分からなかった。なので、もう一度学園長に会って相談しようと、リルテはこの時予定立てをしながら、表面には黙々とご飯を食べ進めていた。
ふと、食べている二人を見て、ジュールは何かに気付いた。
「なんかお前ら似てるな」
「「?」」
ジュールに言われ、顔を見合わせた二人は、食べている物も同じな上、頬にいっぱい詰め込んでいた。
「今のシンクロ率も最高。これはもう、カゴに入れて飼いたいレベルの小動物っぷりだな。では、お前達にはこれをあげよう」
ほれっと、サラダに付いていたカボチャの種を差し出すジュール。
「「わあーい、ありがとう!って、リスじゃない!」」
ほぼ初対面なのに、綺麗にハモったノリツッコミを見せる二人に、類は友を呼ぶんだなと実感したジュールであった。