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僕たちは星空の夢をみる  作者: 美汐
Chapter.1 秋庭学園
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6 研究室

 それから僕たちは、研究棟へと移動した。幸彦以外のクラスメートである相田あいだ小林こばやしは日直の仕事で先生に呼ばれていて、あとで行くということだった。外では木々の新緑が眩しくきらめいていて、命の讃歌を歌っているようだった。僕たちの行く第一研究室は、研究棟の二階、一番西側に位置している。


「こんにちはー」


 研究室に着くと、僕はそう挨拶をしながら扉を開けた。すると、中では結城ゆうきさんがデスクのパソコンを睨んで座っているのが見えた。研究室の制服のようなものなのか、彼女はいつも白衣を着ている。

 結城さんは僕たちに気づくと、「おお」と言って、手振りで座って待てというように合図した。これも毎度のことだ。僕たちは、部屋の扉の横に並べられている円形のパイプ椅子に、それぞれ腰かけた。


 カタカタと、パソコンのキーボードを打つ音が、静かな室内に響く。研究室の中は、膨大な資料がそこら中に山積みになっていた。壁際の本棚には、小難しそうな本やら、英語の書籍、それにたくさんのファイルがぎっしりと詰まっている。部屋の真ん中に並べられた机の上にも、わけのわからない書類の束がいっぱいで、もはや机としての機能を果たしていないように見えた。


 そんななかで、結城さんは半ば書類に埋もれるようにしてパソコンを叩いていた。

 結城さんは大きな黒縁眼鏡をかけていて、化粧気はなかった。髪は無造作に束ねているだけで、特に手入れをしているようにも見えない。彼女も妙齢の女性であるはずだが、女としての色気を微塵も感じさせない人物だった。

 だが僕は知っていた。実はよく見れば、その眼鏡の奥の素顔は、意外にもかなりの美人なのである。


 結城さんはパソコンを打つ手を止め、両手を上にあげてぐっと伸びをすると、そこから立ちあがった。


「悪い悪い。待たせたな」


 結城美怜ゆうきみれい。秋庭財閥から派遣された研究員である。非常に優秀なエリートらしい。だがその言動を見る限り、僕にはそうは思えないのだった。

 この研究室には、もう一人研究員がいるのだが、今は不在のようである。


「ええと。じゃあまずは篠宮小太郎くん。こっちおいでー」


 結城さんはそう言いながら、部屋の奥にある扉の中に入っていった。僕は、それに従っていった。

 奥の部屋の中は、先程の部屋と打って変わって、小綺麗だった。部屋自体はそれほど広くはない。だが、先程の雑然とした雰囲気と比べると、かなり空間が広く感じられた。部屋を半分に仕切るように、真ん中はカーテンが閉められている。向こう側には機械関係が置かれてあるのだが、いつも使うわけではないようだった。

 カーテンで区切られたこちら側の中央に、小振りの丸い机がある。そこに結城さんと僕は向かい合う形で座った。机の上には、ノートパソコンが置かれてある。


「はい。じゃあ始めようか」結城さんは、ノートパソコンを開きながら言った。


「あ、はい」


 いつもやっているにも関わらず、毎回ここに来るたびに緊張してしまう。それは、この『力』について、あらためてこんなふうに研究の対象にされるということに、まだ慣れていないせいかもしれない。


「昨日からなにか変わったことは?」


「いえ。特になにも」


「よく眠れた?」


「はい」


 結城さんは質問をするたびに、パソコンになにやら打ち込んでいる。データとして記録しているのだろう。


「目はよく見えてる?」


「はい」


「見えてはいけないはずのものも?」パソコンの画面を見ていた結城さんの目が、こちらを向いた。「……はい」


 そう言うと、結城さんはにこりと笑った。


 不思議だった。それが『見える』ということに対して、こんなふうに喜ばれることなど今までなかった。『見える』ことはいけないことだ。悪いことなのだ。そう思ってきたのだ。

 それがこの学園では違う。『見える』ことを望まれる。『見える』ことはすばらしい才能である。そう教えられるのだ。


「はい。お疲れさん。今日はもういいよー。次の子呼んできて」


 ひと通り質問が終わると、結城さんはそう言った。研究に協力といっても、普段はこんなものだ。ときどき、大がかりなデータを取られるときもあるが、苦になるほどではない。

 その後、美周、沙耶ちゃんと呼ばれていった。二人とも今日はあっさり終わったようで、さほど時間はかからなかった。


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