2 山の景色と別腹のアレ
展望台へと続くハイキングコースは、ゴールデンウィークのときに歩いたのと同じコースだった。今日は、この前行った展望台よりも先にある池の辺りにまで足を伸ばすらしい。
「なんかあのときのこと思い出しちゃうね」
「そうだね」
僕は沙耶ちゃんの隣を歩いている。先輩たちは先を行き、僕たちはだいぶ遅れて後ろのほうだ。一番後ろには新田先生が続いている。部活動の一環とはいえ、これはおまけの遠足のようなもののようで、先生も先輩たちものんびりしゃべりながら歩いていた。
「先輩たち、しゃべってるね」
前を歩く先輩たちを見ると、佐々木先輩と神谷先輩が並んで歩いていた。なにを話しているのかここからではわからないが、ああして一緒に歩いているところを見ると、それほど深刻な状況ではなさそうに思える。
「思ってたより大丈夫そうだね」
僕がそう言うと、沙耶ちゃんは安堵の笑みを浮かべていた。たぶん昨日の夜、あれから二人でまた話し合ったのだろう。再び仲の良い二人に戻れるといい。
展望台までたどり着くと、遠くの山々がパノラマになって見渡せた。やはり何度見ても、この雄大な大自然を前にすると感じ入ってしまう。
「今年の合宿は天候に恵まれたな」
新田先生がそう言って深呼吸をした。言われてみれば、この三日間まるで天候がくずれることがなかった。曇っていたりなどすれば、この景色は拝めなかったかもしれない。
足を伸ばして池のほうまで歩き、ぐるりとコースを周回して合宿所まで戻ってくると、ちょうど昼ごろになっていた。ほどほどに疲れ、お腹もすいてきた。食堂に行くと、相田と幸彦がすでに座ってお昼を食べていた。小林はやはりまだ来ていない。
「おかえりー」
僕と沙耶ちゃんが近づくと、相田がまたもや大きく手を振ってきた。相田は身振り手振りが結構大きいので、なにかと目立つ。
「ただいまー。あー、お腹すいたよう」
「早く沙耶たちもご飯食べなよ。今日はデザートがケーキビュッフェになってるよ」
相田の皿を見ると、すでにそこには色とりどりのミニケーキが並んでいた。
「うわーっ。超おいしそう! 早く取りに行こう!」
沙耶ちゃんは嬉しそうにビュッフェのコーナーへと足を向けた。相田の前に座っている幸彦はというと、またしても大量のパスタを豪快に食べていた。合宿中にこの光景も見慣れてしまった。
「篠宮。先輩たちの様子はどうだった?」
僕もご飯を取りに行こうと向きを変えようとしたところで、相田にそう話しかけられた。
「ああ。なんかそんなに心配することもなかったかもしれない。見てるぶんには仲が悪そうにはしていなかったよ」
「そっか。なんか他人事とはいえ、それ聞いて安心した」
相田はそう言って、ケーキに乗っていたイチゴをぱくりと口に入れた。良くも悪くも相田は正直だ。
僕も自分のぶんの昼食を取りに行き、みんなで揃って食べ始めた。
「そういえば午後は剣道部も自由時間になるんだよね」
「うん。だから、これ食べ終わったら美周くんのところに行こうと思ってて」
沙耶ちゃんの口から美周の名前が出て、ふと心配になった。いくら今朝熱がさがったとはいっても、昨日の今日だ。再び調子を崩しているかもしれない。
「幸彦。交代のとき、美周の様子どうだった?」
隣に座っていた幸彦に、少し小声で訊いてみる。幸彦は美周と同室だ。昨日熱で寝ていたことも知っているだろう。無論、そのことは美周自身から口止めされているはずだ。
「ああ。まあ、普通だったぜ」
幸彦は特になんてことない言い方でそう言った。実際のところはわからないが、一応幸彦の言葉を信じておこう。




