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僕たちは星空の夢をみる  作者: 美汐
Chapter.9 衝動と静観と
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1 朝はやってくる

 どんなに長い夜でも、ちゃんと朝はやってくる。昨夜のことなどなにもなかったように、朝陽は僕のいる部屋にも光を投げかけていた。槇村先輩はいつの間にかベッドから出て部屋を出ていっていた。もしかすると、寝ている僕に気を遣ってくれたのかもしれない。


 合宿最終日。きっとなにかが起こるだろう。昨夜のことで、沙耶ちゃんの夢の信憑性がより増した。なんとも言えない気持ちが胸に渦巻く。

 今日の予定は、午前中に剣道部でハイキングをして、残った時間は自由時間になるらしい。なにかがあるとしたら、きっとその自由時間だ。

 部屋を出て、朝食をとるために食堂へと向かった。食堂に着くと、G組のいつもの席には美周の姿があった。他のクラスメイトはまだ誰も来ていない。


「美周」


 後ろから声をかけると、少し青白い顔をした美周が振り向いた。


「大丈夫なのか? 熱のほうは」


「ああ。おかげで熱は引いた。昨日はいろいろと悪かったな」


 まだ本調子とまではいかないようだが、心配するほどでもなさそうだった。


「それはいいけど……昨日の今日だし、あまり無理はするなよ。一応幸彦もいるんだから、今日はあいつに任せてもいいんじゃないのか?」


「いや。今日こそちゃんと見張らないといけないだろう。まあ、お前の言うとおり、無理して倒れてしまっては本末転倒だからな。体調にはくれぐれも気をつけておくさ」


 その言葉を聞いて少し安心した。昨日のことで思ったが、美周にはどこか危うい一面がある。少し気をつけてやらないといけないような気がする。

 やがて沙耶ちゃんと相田、幸彦と小林も続々とやってきて、テーブルはすぐに賑やかになった。

 朝食はビュッフェとなっていて、各種のパンやスクランブルエッグにサラダといった洋食から、ご飯にみそ汁といった和食も取り揃えられている。僕は最近は割と洋食に偏りがちだが、以前はずっと和食党だった。少し迷って、今日は和食中心のメニューにすることにした。まあ、ビュッフェなのであとでパンも食べられるんだけど。

 G組のテーブルは洋食派のが多かったが、美周は昨日も今日も和食の朝ご飯だった。なんとなくそれらしいような気もする。

 とりあえずみなが揃ったところで、昨日の報告だ。

 昨夜のことを話すと、みな驚きを隠しきれない様子だった。


「あちゃー。ごめん沙耶。あたしそのとき寝ちゃってたんだね」


 同室の相田はすでに沙耶ちゃんから聞いていたのかと思っていたが、沙耶ちゃんはまだ話していなかったようだ。しかし、相田が寝ているというのは沙耶ちゃんが見た夢でもそうだったはずだ。


「でもまさか、篠宮がその現場を生で見ていたとは驚きだね」


「あれ、偶然そのとき目が覚めて、佐々木先輩のあとをついていくことができたんだ。正直、ああいう修羅場的なものを生で見たことなかったから驚いた」


「で、結局先輩たちはそのあとどうなったんだろ?」


 そういえば、どうなったのだろう。佐々木先輩には僕があの場にいたことはばれている。あとでそれとなく聞けるだろうか。

 食堂内を見渡すと、佐々木先輩と神谷先輩は少し離れた場所で食事をしていた。どういう状況なのかはこの場ではわかりそうにない。


「またあとで様子を見てみよう。やっぱりあのまま喧嘩別れなんてことになるのは嫌だし」


 僕がそう言うと、沙耶ちゃんがにこりと微笑んだ。


「小太郎ちゃんって、すごいね」


「え?」


「だって、普通だったらそういう他人のいざこざに、みんな巻き込まれたくないって思うのに」


「あー。言えてる。だいたいみんな、そんな面倒くさそうなことには首突っ込まないよ。自分のことだけで精一杯だからさ。篠宮みたいな超がつくお人よしはなかなかいないかもね」


「確かに。篠宮の人のよさは並のものじゃない」


 相田と小林までそんなことを口々に言う。しかしそれは、褒められているのか、馬鹿にされているのか、なんとも微妙な意見でもある。


「僕は僕にできることをしているだけだよ。なにも、好んで面倒に巻き込まれているわけでもないし」


 そう言う僕の顔を沙耶ちゃんはにこにこと、相田はにやにやと見返してくる。小林までもが微笑をたたえていた。なんなんだ。その間、美周と幸彦は黙々と食事を続けていた。


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