1 落ち着かない気持ち
バーベキュー大会もお開きになり、みなそれぞれの部屋へと戻っていった。佐々木先輩と神谷先輩も、ひとまずは自分の部屋へ行ったようだった。バーベキューの間、先輩たち二人はお互い少し離れたところで食事をしていた。喧嘩をしたのか、ただ他の人の目があるからなのかはよくわからない。
昨日と同じように、僕が佐々木先輩を、沙耶ちゃんと相田が神谷先輩の様子を見張ることにした。とりあえずは僕たちも、一旦各部屋へと戻っていった。身支度を済ませ、それから再び廊下に出て見張りを続けた。しかし、佐々木先輩が部屋から出てくるのをひたすら待っていたが、なかなか出てくる気配はなかった。
どうしようかと廊下の隅で悩んでいると、ポケットに入れていた携帯電話が鳴った。メールだ。
携帯電話の画面を開く。メールは相田からだった。
『今日は神谷先輩出てこないみたい。沙耶とも相談して、見張りは終わりにする。そちらの状況を報告せよ』
向こうも状況は同じのようである。こちらの状況もメールで報告し、僕も部屋に戻った。
部屋に戻ると、槇村先輩がスマートフォンで熱心になにかをやっていた。僕が入ってきても、「おう」と言っただけで、再びスマートフォンの画面に目を戻していた。槇村先輩は、他人の行動をくわしく詮索するようなことをしない。僕が部屋を抜け出してなにかをしていることにも気がついているはずだが、それについて特になにも訊いてくることはなく、正直助かっていた。
僕は自分のベッドに座った。時間はもうすぐ十時をまわろうとしている。寝るにはまだ少し早いが、部活の疲れなどもあり、布団に入ればすぐに眠ってしまいそうだった。
しかし、沙耶ちゃんの予知した夢の出来事が起こるとすれば、それは何時ごろのことだろう。みなが寝静まったあとだとすると、深夜をまわるころだろうか。
僕は落ち着かない気持ちで布団に入った。ふと横を見ると、槇村先輩はスマートフォンの画面を眺めつつも、目がうつらうつらとし始めていた。
「先輩先輩。スマホしまってから寝たほうがいいですよ」
僕がそう言うと、槇村先輩は目を瞬かせてから、「おう。そうだな」と言った。そしてスマートフォンを自分のボストンバッグの中に突っ込んだかと思うと、そのまま布団をかぶってすぐに寝息をたて始めた。よほど眠たかったのだろう。
電灯を消し、僕も布団の中で目を瞑る。沙耶ちゃんはどうしているのだろう。落ち着かない気持ちで過ごしているのだろうか。不安で苦しんでいるだろうか。
どうにかできるものならどうにかしてあげたい。少しでも不安が和らげられるなら、その手伝いがしたかった。




