6 剣道部の先輩
夕飯を食べ終え、僕と沙耶ちゃんと相田の三人は、剣道部の神谷先輩と佐々木先輩の行動を追うことにした。小林はやはりバレー部で相当しごかれていたようで、夕食も早々に切りあげ、部屋に休みにいった。かなり疲弊しているようだ。沙耶ちゃんの言うとおり、小林のことはそっとしておいてやるのがよさそうだった。
美周は食事を終えると、幸彦を呼びに行くと言って沢のほうへと向かっていった。沙耶ちゃんが心配そうにしていたが、そろそろ辺りも薄暗くなってきたから、今日のところは見張りは引きあげると美周が言ったので、ほっと胸を撫でおろしていた。
神谷先輩のほうは、沙耶ちゃんと相田に任せ、僕は佐々木先輩の動向について見張ることにした。佐々木先輩の部屋は、僕と槇村先輩のいる部屋の隣だった。向こうも、もう一人の剣道部の大野先輩との相部屋だ。壁越しに声や物音が聞こえないかと耳を当ててみたが、ほとんどなにも聞こえなかった。槇村先輩が「なにをしているんだ?」と訊ねてきたが、それには笑ってごまかした。
これは部屋の外で出てくるのを見張っていたほうがよさそうだと、僕は部屋を出た。そして廊下の角の陰に隠れるようにして、佐々木先輩が出てくるのを待った。
しばらく待っていると、佐々木先輩が部屋から出てきた。どこかへ行くようだ。ついていってみると、一階にある売店に入っていった。合宿所でありながら、売店なんかがあるところが、やはり旅行気分を助長させる。佐々木先輩はざっと売店内を見て回ったかと思うと、地域限定のキャラクターのストラップに目を留めていた。
まさか買うつもりだろうかと思っていると、向こうから神谷先輩が歩いてきた。僕ははっとして、思わず呼吸を止めた。もしかすると待ち合わせでもしていたのだろうか。神谷先輩はそのまま売店に入り、佐々木先輩のところへと近づいていった。
ロビーに並んでいるベンチの端のほうに座って先輩たちの様子を見ていると、後ろから誰かに声をかけられた。驚いて振り向くと、沙耶ちゃんと相田がそこに立っていた。
「沙耶ちゃんに相田。二人も神谷先輩を追ってきたんだ?」
「うん。そしたら佐々木先輩も来てたからちょっと焦った。待ち合わせてたんだねぇ」
相田がそう小声で言った。なんだかちょっと楽しそうだ。
「やっぱりつきあってるの、本当だったんだ」
沙耶ちゃんも驚きを隠せないらしく、そわそわしている。
「なんか、こういうのってやばくないか? 出歯亀してるみたいで」
僕がそう言うと、相田が片方の眉をあげた。
「そんな固いこと言うなよ。一応これも、予知夢の解明のためでもあるわけだし」
「けどあの夢のことって、あるとしたら今晩か明日の晩かのどちらかのことになるはずだけど、どうなんだろ。今のところそんな様子ないよね。すごく仲良さそうにしてるし」
そう話す沙耶ちゃん。確かに先輩たちは、先程から売店でいろんな土産物を見ては笑い合っている。喧嘩をするような気配は今のところないようだった。
「わっかんないよー。男と女って。このあと凄惨な現場に立ち会うことになるかもしんないし」
相田はそう言いながら、ぐっふっふと笑っていた。不謹慎なヤツ。
しばらくすると、先輩たちは売店を出てきた。特になにかを買ってはいないようだった。そのままどこに行くのだろうと、先輩たちに見つからないよう顔を横に隠しながら、横目で見ていると、なんとこちらのほうに近づいてくるではないか。やばいと思ったときには時すでに遅し。僕たちは声をかけられていた。




