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僕たちは星空の夢をみる  作者: 美汐
Chapter.6 夏休みの始まり
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6 再び予知夢

 結局手近にあった駅前のハンバーガーショップに入ることになった。

 外から店内に入ると、熱気が外へと追いやられ、代わりに冷たい冷気が体を包み込んだ。涼しさに思わずほっと息をつく。まだ昼には少し早いので、みなそれぞれ飲み物や冷たいデザートを頼んだ。僕は店前のポスターにも載っていたシェークを頼んだ。


「ひゃー。やっぱ中はいいわ。外暑すぎ」


「ゆかりちゃん、駅着いてからほとんど暑いしか言ってなかったもんね」


 相田と沙耶ちゃんは、カップに入ったパフェのようなデザートを頼んでいた。相田は抹茶味のもので、沙耶ちゃんはブルーベリー味のものだ。可愛らしい見た目で、女子にはよく似合う。


「確かに。到着早々の挨拶が、『暑い』の一言だったな」


 そう言う美周は、涼しい顔でジンジャーエールを飲んでいた。


「あまりの暑さに思考回路も止まるっつーの」


 暑さから解放され、相田の調子も回復してきたようだ。


「それで沙耶ちゃん。今日みんなで集まったのは?」


 とりあえずそれだ。夏合宿は明日からだ。それに関係のあることだろうか。


「うん。明日から合宿でしょ。だから、やっぱりみんなには話しておいたほうがいいかと思って……」


 どくんと、心臓が脈打った。なんの話だろう。


「実はね。おとといの晩、また見ちゃったの。変な夢」


「夢……?」


 つまり、それはあれだろうか。例のやつ。


「たぶん予知夢なんだと思う」


 なにやら背中が妙にざわついた。これは冷房のせいばかりではないだろう。


「本当に? ただの夢とかじゃなく?」


「……うん。本当かと言われると自信があるわけじゃないけど。でもなんとなく自分でもわかるの。たぶんこれ予知夢だなーって」


 そんなことがあるだろうか。このタイミングで。

 しかし、まずはその内容を聞いてみないと。それは以前の予知夢と関係のあるものなのだろうか。それともまったく違ったものなのだろうか。

 そして、沙耶ちゃんはその夢を語り始めた。


「――どこかの部屋に寝ていたわたしは、夜中に目が覚めたの。たぶん、合宿所の部屋の中なんだと思う。同じ部屋にゆかりちゃんもいた。ゆかりちゃんはぐっすり眠ってて、わたしが多少動いてもまったく起きる様子はなかった。星を見ようとわたしは窓を少し開けてみたの。見あげた星空はとても綺麗だった。そのとき、どこからか人の話し声が聞こえてきたの。誰かが外で言い争っているみたいだった。暗くてよくわからなかったけど、前の林のほうで人の動くような気配がして、しばらくして少し離れた外灯の下にぱっと人影が飛び出してきた。そのあとを追いかけるように、もう一人の影も躍り出てきて、わたしの目の前を走り去っていったの」


 そこで夢は終わったらしい。


「変な夢、だよね」


 沙耶ちゃんは、自分でもどうしたらいいのかよくわからないというような、困った表情を浮かべていた。

 僕も含め、みなしばらく考え込んでしまった。なんと言ったらいいものか。

 うーん、と僕がうなっていると、美周が先に口を開いた。


「その、飛び出してきた人影というのは、顔は見えたのだろうか?」


「はっきりとはわからなかったけど、先に飛び出したのは女の人で、あとから追いかけてたのが男の人だったのは間違いないと思う」


「えー、じゃあなに。夜中に痴話喧嘩してたってこと?」と相田。


「そうかもしれない。うん……たぶん」


「知ってる人だった? 剣道部の先輩……とか」


 僕がそう訊ねると、沙耶ちゃんは口元に手をやって少しの間考え込んだ。


「言われてみると、そんな気がする。あれは、律穂先輩と佐々木先輩だったような……」


 神谷律穂(かみやりつほ先輩。二人いる剣道部の女子の先輩の、背の高いほう。少し大人びていて、綺麗な人だ。女子部の主将でもある。そして佐々木先輩は男子部の主将。


「そうか。あの二人はつきあっていたのか……」


 普段から仲もよさそうだったし、言われてみればそんな関係だったのかもしれないと、あらためて思う。


「あくまでも夢で見ただけだから。違うかもしれないし。小太郎ちゃん、先輩たちの前で変なこと言っちゃ駄目だよっ」


 沙耶ちゃんは、なぜか慌ててそう言った。


「合宿所でのことに間違いはなさそうだけど、問題はそれが例のもうひとつの夢と、なにか関係があるのかどうかってことだよね」


 相田はそう言いながら、抹茶のソースのかかったアイスをスプーンですくい取り、ぱくりと口に入れた。


「そういえば、相田も合宿所泊まるんだ?」


「あ、言ってなかったっけ? あたしも個人的に頼んどいたんだ。一応写真部としての参加ってことで」


 相田はあっけらかんとそう言った。ん? 写真部?


「相田、部活やってたんだ? 写真部?」


 意外だった。あの球技大会での運動神経にリーダーシップから考えると、写真部という選択肢が相田の中にあるとはとても考えられなかった。元バレー部だったというのに、少しもったいないような気もする。


「篠宮、お前今意外とか思っただろ」


「え、いや。別に……」


 図星をさされ、言葉に詰まる僕に対し、相田は机の下から蹴りを入れてきた。


「いって!」


「篠宮ー。顔に出てるからな。下手なごまかしは不要!」


「す、すみません」


 思わず謝る僕だった。

 しかし、言われてみれば、あのゴールデンウィークの山梨では、ちょくちょくカメラで写真を撮っていた。きっと好きなのだろう。


「まあ、実際バレー部とかにも死ぬほど誘われてたんだけどね。でも、写真部に入るのは前から決めてたことだから」


 そう話す相田の表情は、どこか大人びて見えた。ぶれてばかりの自分とは大違いだ。


「あたしのことはいいんだ。話を戻そう」


 相田がそう言うと、代わりに今度は美周が口を開いた。


「ふたつの夢では合宿所近辺という場所的なことは一致している。ということは、まったく関係ないとも言い切れないわけだ。まあ、先程の沙耶くんの話してくれた夢の内容から言うと、特に事件性があるわけでもなさそうだが……」


「部活中は、僕や沙耶ちゃんも先輩たちといるから問題ないと思うけど、終わったあとちょっと注意しておいたほうがいいってことかな。もし前回の夢と今回の夢が関連しているとしたら、先輩たちの身が危ないってことになるかもしれないし」


「まあ、そうだな。とりあえず、その夢の出来事が起こるまでは、二人は無事のはずだ。問題はそのあとだ。部活が終わってからも、二人から目を離さないようにしたほうがいいだろうな」


 美周の言葉に僕も頷いた。


「ああ、じゃあそうすることにするよ」


「うん。わたしも」


「あたしもどうせ暇だからつきあうよ」


 そんな感じで話はまとまった。


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