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僕たちは星空の夢をみる  作者: 美汐
Chapter.4 下見とハイキング
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1 提案

 沙耶ちゃんの予知した夢の出来事を阻止するためには、まずそれがいつ頃どこで起きるのかということを知らなければならない。夢の内容から推察するしかないが、沙耶ちゃんが言うところによると、季節は夏。場所は以前美周が言っていたように、Y県の合宿所の辺りではないかということだった。

 そこから導き出されるのは、夏合宿。その期間中になにかが起こるかもしれないということだ。


「夏合宿かー。もちろん剣道部もやるんだよね?」


「うん。先輩に聞いたら、毎年大体の部は恒例行事としてやってるらしい。まあ、Y県の合宿所以外にも、学園の施設は全国にいくつかあるみたいだけど。剣道部はいつもY県の合宿所を使っているそうだよ」


 沙耶ちゃんの質問に僕がそう答えると、付け加えるように美周が言った。


「部活動での使用が優先だが、学園の生徒なら誰でも宿泊できる。僕もそのときは付き添うことにしよう」


 食堂の端の席。最近昼休みは、いつもこの三人で過ごすことが多くなっていた。沙耶ちゃんの見た夢の対策を練るためということもあるが、どんな理由でも、こうして沙耶ちゃんと過ごせることは嬉しかった。美周がいるのは気に入らないが、予知夢の対策要員としては、その力が必要になることもあるだろう。そのため、仕方なく僕もこの状況を受け入れている。


「もうちょっと情報があればいいんだけどね。かといって、夢の続きなんて狙って見られるものでもないし」


「それは仕方ないよ。とりあえず現時点でできることを探そう」


 今は五月初め。夏合宿があるのが八月の上旬だから、あと三ヶ月もすればそのときはやってくる。焦りは禁物だが、確かに情報は少なすぎる。対策という対策もできていないに等しい。沙耶ちゃんの言うように、夢の続きでもわかればなんとか対処もできそうなものなのだが。


「一度、美怜さんとかに相談してみたらどうかなーと思うんだけど、駄目かな」


 沙耶ちゃんが、ちらりと美周のほうを見てそう言った。


「いや。やはり学園側には伏せておいたほうがいい。このことはここだけの話にしておこう」


 美周の答えは変わらなかった。頑なにも思えるほどだ。


「なあ美周。なんで言っちゃいけないんだ? 前言ってたように、騒ぎになるから? でも結城さんなら信用できそうだし、なんかいい方法だって見つけてくれるかもしれないと思わないか?」


 僕はそう言ったが、美周は首を横に振った。


「言っておくが、そう簡単に人を信用しないほうがいい。結城美怜も優秀な人材だとは思うが、所詮は秋庭学園という組織に属する人間だ。一生徒の頼みと自分の仕事の責務。どちらを採るか、少し考えればわかることだ」


「学園を信用するなって? こんなによくしてくれているのに?」


 僕のその言葉に、美周は皮肉めいた笑みを浮かべた。


「本当にお前はおめでたいな。どうしてG組の生徒がこれほど優遇されているか、わかるだろう。僕たちは学園にとっては貴重な研究材料。いわば、大事な大事なモルモットだ。それをよくしてくれている? 勘違いも甚だしいな」


 言葉を失った。

 研究材料? モルモット? そんなふうに考えたことなどない。だって僕たちは、こんなに穏やかな学園生活を送っているではないか。研究に協力しているのだって、学園に通わせてもらっているお礼のようなものだと思っていて……。


「少し混乱させるようなことを言ってしまったかもしれない。しかし、これだけは言っておく。学園をあまり信用し過ぎるな。僕たちは特異な存在だということを、忘れてはいけない。沙耶くんも、わかったね」


「う……うん」


 沙耶ちゃんは戸惑いながら頷いた。僕はなおも美周の言葉に沈黙したまま、言葉を返せずにいた。

 中等部からこの学園に通い続けてきた美周は、僕にはわからないようななにかを学園に対して抱いているのかもしれない。だからこそ、これほど学園側に対して慎重になっているのだろう。


「とりあえず、今度のゴールデンウィークにでも行ってみようじゃないか」


 僕の沈黙に構うことなく、美周が言った。


「え? 行くって?」


「Y県の合宿所だよ。今できることと言ったら、それくらいしかないだろう」


 美周の提案に、僕は顔をあげた。沙耶ちゃんも美周に注目している。


「そう……だな。それが一番いいかもしれない」


「そっか。行ってみれば、夢と同じ場所なのか確かめられるもんね」


 目の前が急に明るくなった。具体的な提案が出てきたことによって、今までつかみどころのなかった相手が、急に形を現したようだった。手も足も出ないと思っていたことが、そうではなくなった。これで少しは希望が出てきた。

 なんとかなるかもしれない。

 そう思えたことは、かなり大きな一歩だった。


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