足
1.私
彼と結婚してからどのくらいが経ったのだろう。新しくなった広いソファの上でふとそう思った。
20歳の秋に結婚して、子供たちが生まれた。今その子供たちは2人ともこの家には居ない。子供部屋の扉を開けると、「お母さん急にあけないでよ。」って、聞こえてきそうなほど、そのままのベッド、そのままの机。あの時のままだ。
しかし、このソファ。私はもっとこう、きゅっとフィットする小さいものが好きなのに。いつの間にかこんなに広いソファに替えられてしまっていた。私はその広さをもてあまし、三角座りで端に収まる。ノースリーブも寒くなってきて、冷えた腕と足を抱えこむ。そしていつものように庭に顔向ける。
毎日ここから庭を眺めながら暮らしている。しかたがない。どこにも行くことはできないのだから。
庭には夏野菜が終わったあとの土だけが、わさわさと次の苗を待っていた。また耕して、畝をつくり次の準備。
10年前の夏の終わり。今日と同じくノースリーブで肌寒さを感じながら庭を見ると、土がわさわさと私の心をかき立て、それはどんどん盛り上がっていき、このまま土に埋もれてしまいそうになった。ここにいてはダメだ。感情だけがそう叫んでいた。いても立っても居られなくなり、そのまま家を飛び出してしまった。
数日して家に戻ってきた私に、夫も子供たちも何も言わず目も合わせなかった。
2.息子
「るい!携帯鳴ってるで〜。」と、言いながら田崎が携帯を投げてきた。
「うわっ!なげるか?!普通。」一回手の平で弾いた携帯を上手く受け直し田崎の方を見ながら言うと、
「るいの反応がおもろいからやん。」
「ほんまに、おまえは…。」田崎にはいつもからかわれっぱなしな気がする。
「それにしてもるい、関西弁上手なったなぁ。」
「もうこっちにきて2年やしな。」あの家を早く出たくて、そして遠くに離れたくてわざわざこっちに就職した。
「で、誰からメールなん?彼女でもできたんか?」
そんな簡単にできる訳もなく携帯画面に目をやると、妹からのラインだった。
『お兄ちゃん大変!事件!お父さんが』




