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悪役令嬢シリーズ

悪役令嬢の娘ことシェイラ・ラルフローレンの王妃記録

作者: 入江 涼子

私がフォルド王国の第十一代国王、ユークリッド陛下の正妃になってから五年が過ぎた。その間に子も生まれている。第一王子と第二王子、第一王女の三人がそうだ。

第一王子は名をユーリウスといい、ユークリッド陛下に似て黄金の髪と深みのある青の瞳の利発な少年に育っている。年は四歳になった。

第二王子はシメオンで私に似た薄い翡翠色の髪と淡い琥珀色の瞳で穏やかな性格のようだ。ユーリウスとは年子で三歳になる。

第一王女はマリーナといい、珍しいプラチナブロンドの髪と淡い緑の瞳の超がつく美少女に育ちつつある。性格は二人の兄とはまた違って気が強いながらも明るい子のようだ。

まだ、一歳の幼子ではあるが。私もお腹を痛めて生んだ子だからか可愛くて仕方がない。

私は子供たちには父君や先代の国王陛下のように得体の知れない女性に引っ掛かってほしくないと願っている。アリシアーナ様やアンナのような者に王子たちが引っ掛からないか心配だ。まあ、私がさせないか。母様は健在で父様と今でも仲睦まじい。母様が聖属性魔法を使えるので私も実はこっそりと習っていた。

そんな事を考えながらアリアが入れてくれたお茶を飲んだのだった。



「…シェイラ様。ユーリウス殿下とシメオン殿下、マリーナ殿下がおいでになっています」

無表情でそう告げたのは侍女の中でもベテランのアンネだ。私はまたかとため息をついた。

「今日もなの?」

「佐用にございます。ユーリウス殿下が乳母たちをまいてこちらにいらしたようですね」

アンネも何ともいえない表情をしている。私も頭を抱えた。三人の子供たちは誰に似たのか一日に一度は私の部屋にやってきて父のユークリッド陛下が構ってくれないとか文句を言いにくる。なんとかしてほしかった。

私は仕方ないと思いながら三人の乳母たちも同伴の上で入室を許可した。アンネがユーリウス達を連れてくる。三人とも乳母に抱き抱えられて入室する。

「…お母様」

ユーリウスが一番に乳母に下ろされてトテトテと駆け寄ってきた。私はそれを抱きとめてやる。柔らかな真っ直ぐの髪を撫でながら抱き上げた。四歳なだけはあってずしっと重いが。ユーリウスを抱き上げて椅子に座るとシメオンが小走りでやってくる。

「おたあさま。ぼくも!」

要は抱っこをしてとねだっているらしい。私はユーリウスを見た。

「ごめんなさいね、ユーリウス。シメオンを抱っこしたいから。待っていてくれる?」

「…わかりました。お母様がおっしゃるのだったら、シメオンに譲ります」

ユーリウスは渋々私の膝から下りるとシメオンに譲ってくれた。おいでと手招きするとシメオンがやってくる。嬉しそうにしながら私の膝によじ登ろうとした。それを手を引っ張って助けてやる。シメオンは膝に座ると机にあったお菓子を見つけた。

「おたあさま。おかしをたべていい?」

「ええ。いいわよ」

頷くとクッキーを手に取ってもしゃもしゃと食べ始めた。パラパラと食べかすが落ちるけどそこは注意をしない。まだ、三歳だから仕方ないかと大目に見る事にした。

が、私がシメオンに気を取られていたらマリーナの泣き声が聞こえてきた。

「…うわああ!」

マリーナはまだよちよち歩きしかできない。二人の兄たちに母をとられて我慢ができなかったのだろう。私はシメオンをそっとおろしてマリーナを抱く乳母の元へ歩いた。乳母からマリーナを受け取りよしよしと背中を軽く叩いた。マリーナは私の胸に顔を当てて大泣きし始めた。ユーリウスとシメオンは心配そうにこちらを見つめている。

「大丈夫よ。マリーナ」

低めの声であやすと少しずつ泣き止み、しまいには泣き疲れたのか眠ってしまう。私はしばらくマリーナを抱いて頭を撫でてやってから乳母に預けた。

「王妃様。本当に申し訳ありません。普段はマリーナ様や王子殿下方も聞き分けが良くていらっしゃるのですけど。最近は陛下も隣国へお出かけになられていて寂しくなられたのでしょうか。お母様の所に行きたいとしきりに泣いていらして」

「そうだったの。確かに陛下は今、いらっしゃらないから。それで私の所に来たのね」

乳母の説明でやたらと息子たちが私の居所に来ていた理由がわかった。おおよそ見当はつけていたのだが。それでも、この子たちに寂しい思いをさせていた事に自分を不甲斐なく感じた。

「…毎日は無理だけど。この子たちの世話や遊び相手をしてあげないとね。私も忙しさのせいでうっかりしていたわ」

「そうですね。陛下がお帰りになれば、また空いた時間にお相手をしてくださいましょう。けど、ユーリウス様にはそろそろ年の近い遊び相手になれそうな方を見つけないといけませんね」

アンネが思案顔で告げる。本当にと私も頭を抱えた。仕方ない、兄上や弟、いとこのアレックス、信用できそうな貴族のお子さん方から見つけてくるしかない。私は陛下に相談しようと決めたのだった。




あれから、一週間が経って私は帰還なさった陛下にユーリウスやシメオンの遊び相手、未来の家臣にふさわしい子を名だたる貴族から選びたいと相談した。陛下もそろそろユーリウスたちの遊び相手や婚約者を決めなければと思っていたところだと打ち明けてきた。ならばと私は兄や弟、いとこのアレックスに息子がいたはずだからと候補を挙げた。陛下はあまり身内で固めすぎるのも良くないと言う。

仕方なく、私は筆頭公爵家や侯爵、伯爵家辺りから妥当な子供たちのリストを作り、お茶会を開く事を陛下と決めた。これにより、ユーリウスとシメオンと年の近い子供たち、母親たちを招待して王宮の中庭にて王妃主催のお茶会が行われた。

お茶会当日、私は騎士団長を務める弟に護衛の主任を頼み、ユーリウスやシメオンと共に中庭にいた。セッティングされた椅子やテーブルに筆頭公爵家の子息や令嬢、それに準ずる家柄の子達が母親と一緒に行儀よく座っていた。

もちろん、兄や弟の息子たち、つまりは甥っ子三人組も出席している。一番上が兄の息子でジェンといい、年は六歳だ。二番目がジェンの弟でジュリアスといってユーリウスと同い年の四歳。三番目で一番下が弟の息子のアルベルトで確か、シメオンと同い年の三歳だったか。

他にもいとこのアレックスの息子と娘、母親で昔からの私の親友のイザベラもいた。彼女はアレックスとの間に四人もの子をもうけている。ちなみに、私がユークリッド陛下と正式に結婚したのが六年前だった。イザベラもアレックスと結婚して同じくらいは経っている。つまり、陛下の御世になってからまだ三年ほどなのだ。

そんな事を考えていたらイザベラと二人の子供たちがこちらにやってきた。

「…王妃陛下。今日はお茶会にお招きいただきありがとうございます。こちらはわたくしの息子のアロンソと娘のイルジアです。さ、王妃様方にご挨拶なさい」

イザベラが私に挨拶を述べると二人の子供たちにもするように促した。

まず最初に息子のアロンソの方から挨拶をした。跪いて胸を手に当てる。きちんとした仕方にイザベラとアレックスの教育が行き届いたものだと感心した。

「初めまして。王妃様、王子殿下方。わたしはフィーラ公爵家の者でアロンソと申します。今日はお招きいただきありがとうございます」

「ええ。丁寧な挨拶をありがとう。アロンソ君、うちの息子たちとも仲良くしてあげてね」

「あ、はい。殿下方と仲良くできるように努力します」

私はアロンソ君を合格だと思った。真面目で誠実な感じが好印象だ。

私は彼の前に息子のユーリウスとシメオンを押し出した。

「ユーリウス、シメオン。この子は私の遠縁の親戚でフィーラ公爵家のアロンソ君よ。あなたたちとは年が近いから一緒に遊んであげて」

「お母様。アロンソ君はいくつなんですか?」

ユーリウスが首を傾げて聞いてきた。私はイザベラに笑いかけた。

「ねえ、イザベラさん。アロンソ君はいくつか教えてもらえますか?」

「ええ。アロンソは今年で五歳になります。ユーリウス殿下より一つ上ですわ」

「へえ、そうなんだ。じゃあ、よろしくな。アロンソ兄さん」

アロンソ君にユーリウスが言いながら手を差し出した。アロンソ君は驚きながらも同じように手を差し出した。二人は軽く握手をするとすぐに離した。

「…アロンソにいさん。ぼくはユーリウスにいさんのおとうとでなまえをシメオンというんだ。よろすく」

自己紹介はしたけどシメオンは最後で噛んだ。私は仕方ないかと思いながらシメオンの頭を撫でてやる。

シメオンは恥ずかしそうにしながらもユーリウスやアロンソ君と一緒に中庭の花壇へ行ってしまった。それを見送るとイザベラと残された娘がおずおずとこちらを見上げる。

「…あの。王妃様、初めまして。あたくしは名をイルジアと申します。ユーリウス殿下やシメオン殿下に自己紹介したかったのですけど」

「ごめんなさいね。ユーリウスもシメオンもまだまだ、遊びたい盛りですものね。イルジアさん、今日は来てくれて嬉しいわ。一緒にお茶やお菓子を召し上がってくださっていたらあの子達も戻ってくると思うの」

「そうですわね。わかりました、王妃様とご一緒させていただきます」

イルジアさんは私の言葉に頷くと近くにあった椅子に座った。侍女たちが心得たように紅茶やお菓子を用意する。イザベラや私も続いて座った。

三人で紅茶やお菓子をつまみながらユーリウスたちが戻ってくるのを待ったのだった。




イルジアさんはイザベラ似の赤茶色の髪に鮮やかな青の瞳のしっかりした令嬢だった。顔立ちもアレックスやイザベラを足して二で割ったような感じで将来はすごい美人になる事は間違いなしといえた。性格も明るくしっかりとした考え方のお嬢さんだ。

受け答えもまだ四歳とは思えないくらいはきはきとしていて無駄がない。これはうちの息子の婚約者にほしいと思った。はとこ同士だけどまあ何とかなるだろう。

私はそう思いながらイルジアさんとのおしゃべりを楽しんだ。

「…王妃様。まだ、ユーリウス殿下たちはお戻りにならないのですか?」

「そうね。もう少ししたら戻ると思うわ」

私が答えるとイルジアさんはふうとため息をついた。

「仕方のない兄さんだこと。あたくし、探しに行って参ります」

イルジアさんはそう言って椅子から立ち上がり、ユーリウスたちの走っていった花壇に向かって歩いていってしまった。イザベラはあらあらと言いながら困ったように笑っている。私もイルジアさんを見送ったのだった。




お茶会がお開きになった頃になりアロンソ君とイルジアさんがユーリウスたちと四人で戻ってきた。ユーリウスとシメオンは頭に木の葉っぱをたくさんくっつけて顔やお茶会用にと新調した衣装を土で汚した格好になっていた。アロンソ君も同様だ。唯一、イルジアさんは髪やドレスを汚したりしていない。

だが、顔はやってしまったという感じに青くなっていた。当然だがイザベラは眉を逆立ててアロンソ君を叱りつける。

「アロンソ!その格好はどうしたというの。どこに行っていたか言いなさい!!」

きつい調子で言われてアロンソ君は泣き出しそうな表情になった。イルジアさんもおろおろしている。

「ごめんなさい、母上。その、殿下方と王宮の奥にある泉で遊んでました。イルジアが危ないから中庭に戻ろうと言ってきたので急いで来たのですけど」

「…言い訳は聞きませんよ。王妃様やわたくしは心配していたのです。一言くらいは行く場所を伝えてからになさい」

「わかりました」

「後、泉にはどんな危険が潜んでいるかわかりません。子供たちだけで行くのは駄目です。今度からは誰か大人に付き添ってもらうこと。良いですね?」

イザベラが後もう一押しとばかりに言うとアロンソ君とイルジアさんはしゅんとしてしまった。けど、素直にはいと言って再度謝ったのだった。



私もユーリウスたちに注意をしてお茶会は終わった。アロンソ君やイルジアさんはまた四人で遊ぶ事を約束するとイザベラと自邸に帰っていった。私たちも王宮に戻った。部屋に戻るとアンネたちがお疲れ様でしたと声をかけてくれる。

「王妃様。今日はいかがでしたか?」

アンネが聞いてきた。私は頷きながら答える。

「今日はよかったわ。ユーリウスやシメオンに友達ができたし。アレックスの所の子供さんでね。アロンソ君は真面目だしユーリウスたちをしっかりと支えてくれそうよ。イルジアさんもユーリウスかシメオンの婚約者になってくれたら良いなと思ったし」

「そうでしたか。でしたら、陛下にも進言なさってはいかがでしょう」

「そうね。そうしてみるわ」

そんな話をした後で私はドレスを脱いで髪をおろし普段着に着替えた。お化粧も落とすと寝室に向かう。そのまま、仮眠を取ったのだった。




お茶会から数日後、私はユークリッド陛下、ユーク様にユーリウスの婚約者にイルジアさんを勧めてみた。最初は難色を示したユーク様だったが。粘り強く説得して了承の返事をもらう。

「それにしたってシェイラはイルジア殿を気に入ったようだな。まあいいか、あの子だったらシェリア様の親戚だからうまくやるだろう」

「そうね。ユーク様もイルジアさんを認めてくださるのですね」

「まあな。あのイザベラ殿の娘さんだし。ユーリウスの婚約者にはいいんじゃないか?」

ユーク様にも言ってもらえて私は嬉しくなった。寝室だったので二人きりだ。私は久しぶりにユーク様に抱きついた。

ユーク様は驚きながらも抱きしめ返してくれる。その後、良い雰囲気になった私たちは濃密な一夜を過ごしたのだった。



あれから、一年後に私は見事に懐妊して第三王子にあたる四人目の子供を生んだ。この子は名前をフィックスと名付けられる。やんちゃな王子に成長して兄たちや姉のマリーナを手こずらせる。もちろん、私も困らせられたわけだが。今日もフォルド王国は平和だった。

おわり

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