002 ゲート
異世界転移ものです
冷静に考えよう。ゲートとか他の魔法も気になるし使ってみたい。これはこの本を買うしかない。
(いくらするんだろうか……)
存在感は薄かったが店主はきちんといる。さっき俺がテレポートしていた本棚の向こう側に。見られていなくて良かった。
カウンターに表紙を下にして魔術録を置く。表紙を見られるのは少し恥ずかしい気がしてならないからだ。
「おばあさん、これいくらですか?」
「……これか」
おばあさんが眼鏡を下げながらこちらを見る。
見る。
見る。
「この本はお前さんのものだよ」
「えっ?!」
「えっ? なんだい? いらないって言うんなら別にいいんだけどねぇ」
「いりますいります! もらいます!」
「いいからいいから。もっていきなさい」
「本当にいいんですか?」
「いいって言っているだろう、しつこいねぇ。それとも、なんか花でも携えてくれるのかい?」
このおばあさん意地悪な気もするがタダでくれるとは、なんか裏でもあるのだろうか?
本当はいくらするのか分からないが、ここはおばあさんの好意にあやかろうと思う。
「本当にありがとうございます!」
「分かったよ、気をつけるんだよ、坊や」
いただいた本を片手に店を後にする。
本屋を出てすぐに左に曲がり、滅多に人が通らない路地に入る。
「ゲート」
目の前に空間が切り取られた。そこを覗くと唱えるときに念じた場所が見える。
(これはすごい……くぐるとするか)
ゲートを抜けると、家から一番近い通りの人気の少ない路地に出た。
「へっ?」
「ん?」
(あれ? 今人がいたか? いたとしたら見られていたのでは……?)
通りにでる。歩道を見渡すが、見えるのはうちの高校の弓道部らしき女子高校生のみだ。今のを見られていたとしたら彼女以外いないだろう。
追いかけて話しかけてみるか? いや、話しかけるのはさすがにまずいだろうか。とりあえず後ろをついて行く。
ここら辺に横断歩道はない。そのためか少女は信号も横断歩道もない道路を横切ろうとする。
向こうからトラックが来ている。少女が渡りきるのには十分距離が開いているが危なっかしい……大丈夫だろうか。
女の子がチャックが開いていた鞄からノートを落としてしまった。
片手にしていた弓を大事そうにノートを拾う少女。トラックが近づく。
トラックは減速どころか避ける素振りすら見せない……。これは、やばい……。
俺は魔術録を片手に少女の元まで駆けてゆく。
(そうだ、さっきのあれを使えば……)
「ゲート!!!」
先ほどのように空間が切り取られてゆく。切り取られた空間は白く光っていて先が見えない。トラックに気が付いた少女は腰を抜かしてしまって、今からではとても避けられそうにない。
少女を突き飛ばす。白く切り取られたゲートの中へと。そのまま俺もゲートの中へ突っ込んだ。
何か忘れていた気がする……。
(転移先を思い浮かべるのを忘れていたっ……!?!)