第12話 邂逅
脱衣所を出て、リビングで麦茶をぐいっと飲む。あ゛あ゛~。シャワー後に飲む物って何でこんなに美味しいのだろう。そう思いながらぐびぐびと飲んでいると、シンクで皿やフライパンを洗っている母さんが口を開いた。
「すばる、母さんお皿洗い終わったらすばるの高校の制服を取りに行くんだけど、一応サイズの確認をしたいから、一緒に来てくれる?」
「うん、分かった」
そうだ。たしか高校の合格が決まったその日に制服屋さんに行って、サイズを測ってもらったので、学ランしかなく、入院中に母さんが制服屋さんに行ってセーラー服を新しく作ってもらうと言っていたな。今日はその時のやつを取りに行くのか。
「お皿洗いが終わったらすぐ行くから、それまでに支度しておいてね」
「はーい」
そうなったら早く支度をしなければ。ささっと歯磨き、洗顔をし、髪を整える。髪が伸びたので整えるのが面倒臭い。これ高校が始まったら毎日やらなくちゃいけないのか~。軽く鬱になりかけながら、自分の部屋に行って、着ていく洋服を選ぶ。上はパーカーにするとして、下は何にしよう。幸い短いスカートや短パンはないようなので、少し安心した。しかし、丈が相当長いスカートがいくつかある。どうしよう。着るべきなんだろうか。でも自分にはまだ難易度が高い気がする。ゲームで言うなら僕はまだイージーゲーマーだ。いきなりスカートはハードルが高すぎる。
「う~ん……」
唸りながらクローゼットの中を物色していると、一瞬スカートに見えたがスカートではなく、なんと幅が広いズボンを発見した。ちょうどいい。これにしよう。そう思いちゃっちゃと上下を着て、いつも使ってる大きめの肩掛けカバン、スマホを持って、下に降りる。
下に着くと、どうやら母さんは支度途中のようだった。なので、洗面所にある姿鏡で今自分がどんな感じなのかを見るとしよう。そう思い、姿鏡の前に立つ。
う~む。こうして見るとやはり女の子にしか見えないな~。髪が長いのもあるが、やはり幅が広いズボンがスカートみたいに見えるのが大きいのだろう。
まぁともかく、今の自分の服の感じが確認出来たので、リビングへと戻る。
「あっすばる、支度終わったから行くわよ~」
「はーい」
そうして僕は母さんの車に乗り、制服屋さんへと向かった。
制服屋さんに着き、さっそく制服の試し着をする。ふむ。サイズは大丈夫そうだ。しかし、やはりスカートが短い。膝丈なのだが、自分にとってはとても短く感じる。というかスカートって防御力滅茶苦茶低い。こんなの布を腰に巻いただけのやつじゃないか。この心もとなさは、プールの授業で着替える時に使う、腰に巻く長いタオルに近い。女子達はこんなのをよく穿けるなあ。
「良いじゃないすばる。似合ってるわよ」
「……そう」
「サイズは大丈夫?肩周りとかキツくない?」
「どこもキツくないよ」
「そっか。……まあ慣れるまで大変だけど頑張って。」
「……うん」
その後制服を脱いで梱包してもらい、制服屋を出た。
「すばる、ついでだからスーパーに行ってもいい?」
「良いよ~」
そう言って車を発進させた。
スーパーに着き、母さんの買い物に付き添う。こうして付き添うと、たまに好きなお菓子を1つ買ってもらえるので、僕は積極的に手伝うようにしている。
そうして買い物に付き添っていると、前方に見知った人影を見つけたので、声を掛けた。
「おーい大悟~」
「ん?……もしかしてすばるか?久しぶりだな。すばるのお母さんもご無沙汰してます」
こいつは昔からの親友の赤城大悟だ。性格は明るく社交的で、僕とは真反対なのに何故か馬が合う為、よくつるんでいる。というのも、僕とは非常に趣味が合うのだ。僕と同じゲームや漫画、アニメといったいわゆるオタク趣味だからだ。
しかし顔はイケメンで、年上受けしそうなカッコよさなのでよく告白をされているらしい。だが本人曰く、付き合ったら趣味に使う時間が減るからという理由で一度も付き合った事が無い。
ちなみに春休みはお婆ちゃんの家に行っていたらしく、しばらく会っていなかった。
「しばらく会わない間に何か声変わったな。それに何か雰囲気が変わったというか」
……どうしよ。女になったことを話すべきなんだろうか。そう思い母さんに視線を向けると、口パクで、『話しても良いけど家で話そう』と伝えてきた。
「そうかな?」
「おう、何というか……可愛くなったな。お前に言うのも可笑しな話だが」
「気のせいじゃない?それよりこの後って何か予定ある?」
「特に予定は無いぞ」
「そっか。それじゃあこの後僕の家で遊ばない?」
「おっ、良いねぇ!じゃあ久しぶりに遊ぶか!」
そうして買い物を終え、大悟を車に乗せて家へと向かった。