第11話 脱皮
……爽やかな朝日がカーテンの隙間から覗いている。もう朝か。起きなきゃ。う~ん、と伸びをし、僕はベッドから降り、リビングへと向かった。
リビングでは、母さんがお茶を飲みながらテレビを観ていた。
「おはよう母さん」
「おはようすばる、今から朝ご飯の支度するからちょっと待っててね~」
「はーい」
そう言いながら母さんはご飯の支度をし始めた。と言っても既におかずは作ってあったので、味噌汁を温めなおして、ご飯をよそうだけだった。手伝う必要は無さそうだなと思い、座ってテレビを見る。
おっ、星座占いがやってる。今日の運勢はどうかな~。……12位かぁ。今まで目をそらしていた事と向き合う事になるかもしれません、だと。マジか~。こういう占いって当てにならないと思ってはいるんだけど、でもいざ運勢が悪かったりすると、何故か悔しいんだよね~。何でだろう。
そんな事を思っていると、母さんが
「そういえばすばる、あなた昨日お風呂に入らなかったでしょ」
と、言ってきた。あっ……今まで入院中は母さんに身体を拭いてもらっていたから、忘れていた。
「うん。入らずに寝ちゃった」
「ご飯食べた後でいいから入っちゃいなさい」
「はーい」
風呂に入るのは1週間ぶりだなぁ。女の子になって長くなった髪がかなりベタついているし、腋の臭いを嗅ぐと、何か酸っぱい臭いがする。くさい。仕方ない。入るか。
「あっそうそう、あなたいつも髪を洗う時ってどれ使ってた?」
「夏はリンスインのトニックシャンプーで、冬はリンスインの普通のやつ使ってるけど」
「……これからは面倒かもしれないけど、母さんが使ってるシャンプーとリンスを使って髪を洗いなさい」
「何で?リンスインじゃダメなの?」
「そうね。確かにリンスインでも悪くはないんだけど、リンス単体の方が髪の毛をケアする効果が高いから、出来れば別々の方が良いのよ」
「……そっか~。面倒臭いね」
「うん、確かに面倒くさいのだけれど、これくらいしないと長い髪の毛ってすぐ傷んじゃうから、とても大事な事なのよ。あとこれからの事を考えて、ボディソープも母さんが使ってるやつを使いなさい」
「ボディソープもなの?」
「そう、もしかしたら女の子になって肌が弱くなってるかもしれないから、これからは母さんがいつも使っている、肌に優しいやつを使った方が良いと思うのよ」
「……分かった。これからはそうするよ」
「うん。最初は面倒臭いかもしれないけど、今の内に慣れちゃえば後になって楽だからね。あと、お風呂沸かしてないから、申し訳ないけどシャワーだけ浴びてね」
「分かったよ~」
う~ん。入れないのか。入るのは1週間ぶりだったから、入りたかったなぁ。そう思いながら運ばれてきた朝ご飯を平らげた。
そして替えの下着を持って脱衣所へと向かった。脱衣所に着き、下着をカゴに置いて、パジャマを脱ごうとして……あ。そういや僕って女の子になってから自分の全裸を直視した事無かったな。
……まぁ自分の裸だし、いずれ慣れるでしょ。今は恥ずかしいけど、自分の身体なんだし、これからもずっと付き合っていかなければならないのだから、我慢我慢。
そう思いながら下着ごとパジャマを脱ぎ捨て、下着とパジャマをきちんと分けて洗濯カゴに入れる。そして、自分の裸を見下ろす。ふむ。まず胸はほぼ無いに等しく、触ってもあまり感触は感じなかった。まぁ男だった時より柔らかくはなっていると思う。次に腋。以前は少し毛が生えていたのだが、今そこは更地になっていた。触ったら凄いツルツルしていた。最後に相棒跡地だ。まぁここはトイレで見慣れてるしいいや。ぶっちゃけ見下ろす形だとほぼ見えないし。
まぁいいや。とにかく為せば成るだ。こんなところで躓いていてもしょうがないので、タオルを持って浴室のドアを開けた。タオルを掛け、シャワーを浴びた。よし。さっそく頭を洗うとしよう。まずはシャンプーで頭をゴシゴシして、洗い流す。一週間お風呂に入ってないし、今日はあともう1回やるか。もう1回シャンプーし、洗い流す。次にリンスか。リンスもシャンプーと同様にごしごしして、洗い流す。まぁリンスは1回でいいか。
次に身体だ。ボディータオルを取り、ボディソープを付けて泡立てた。そしてまずは腕から洗おうといつものようにゴシゴシとやった。
「痛ッ!」
見るとそこだけ赤くなっていた。もしかして女の子になってから肌が弱くなった?仕方なく優しく洗ったが、正直まだ少し痛い。もしかしたらボディータオルを使わずに洗った方が良いのかな。そう思いボディータオルを自分の膝に掛け、手にボディソープを付け、洗う。……ふむ。まったく痛くない。ちょっとくすぐったい感じはするが、今後はこの方法でやった方がいいな。
その後は全身をくまなく洗い、あとは最大の難所を残すばかりとなった。そう。相棒跡地だ。……ここってどうやって洗えばいいんだろう?外側だけ洗えばいいのかな?う~む……。まぁとりあえず外側だけでも洗うか。くすぐったかったけど、ささっと洗い、全身を洗い流した。
そして全身の水気をタオルで拭きとってから、僕は浴室を出た。そして髪をドライヤーで乾かす。こうして髪を触っていると、大分伸びたなと感じる。以前だって男にしては長かったが、それでも女からすれば短い部類の長さだった。それが今は肩甲骨の辺りまで伸びている。正直洗うも、乾かすのも面倒臭い。とにかく時間がかかる。今だって大分時間がかかっているし、近いうちに切ろうかな。
そんな事を思いながら下着を着けて、脱衣所を出た。
誰かと一緒に入らないお風呂イベントも良いと思います。