夢と現実の中で
久しぶりの投稿となります。いつもより隙間も開けて、見やすくなっているとは思います。
今回は、少し長いです。腑に落ちない部分もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。
では、また後程。
なんだろう、体がチクチクする。そして、寒い。部屋の中以上に風の流れを感じる。また、ザワザワとした並木道で聞くような木々のかすれる音が、うるさいくらい間近で聞こえる。
私は、ふわふわで、気持ちの良い、シーツの敷かれたベッドで寝ていた筈だ。そして、毛布も纏っていたはず。たとえ落下したとしても床はフローリングだから、チクチクという感触がありえない。
とりあえず、目を開けよう。周囲の状況を確認せねばならない。不安である。
目をゆっくりと大きく見開き、寝たままの状態で周囲を目で見渡す。そこには見知った天井はなく、紅葉した木々と、その隙間から見える青空が広がっていた。
私の覚醒に高調に達する。
私は、起きざまのフラつきや眠気など考えになく、まずは現状を理解しようと頭を巡らせた。そして、すくっと立ち上がると、身構え、周囲を警戒する。
ここはどこだ、私に何があった、誰かに見られている、私は誰かに連れてこられたのか、私の家はどこだ、等。
何かがいる気配はしない、鳥のさえずりすら聞こえない。獣が歩く音もしない。聞こえるのは、木々のかすれる音と風の音だけである。そして、私の足踏む音。ザクザクと、敷き詰められた落ち葉何度も無作為に踏む。
そこで私はあること気がつく。靴を履いていないのだ。そしてひとつ不安にかられ、体の上下を触りながら安堵する。服着ている、よかった。
ザクッ !! ザワザワ、ザワザワ....。
私は飛び跳ねながら、後方に向き身構える。そこから音がしたから、何かしら居る気配がしたから。一瞬額に汗が滲んだ。
いつの間そこまで近づいたのだろうか。私の向いた方には、黄色いワンピースに麦わら帽子を被った少女が、こちらを見ながら笑顔で立っていた。年齢は、10代前後、顔は整っている。私は美人だと思う。
しかし、何か不気味だ。森は紅葉している。すると、ここの季節は秋だと思う。風も少し肌寒い。だがなぜ、彼女は夏の装いなのだろうか。
周辺の景色と不釣り合いな彼女の服装に、違和感を覚えた。よく見ると、麦わら帽子にひまわりの花が付いている。それがモミジの葉ならば....。
私が怪訝そうな顔をして、彼女を見る
「あなたの黒い目が、私を見つめている」
突然口を開いた彼女、その声は透き通る声、だけど異様に耳に響くものだった。それは、周囲の音よりも大きく響いた。そして、笑顔を絶やさない彼女。可愛い。
「あなたの心が、私に向いている。」
「あなたの良い感情が、私に向けられている。」
彼女は何を言っているのだろうか。私も声を出そうとするが、何故か口が開かない。気がつくと、身体も固定されているように動かない。
「あなたを、私は気にしている。」
「あなたは、私はあなたといたい。」
「あなたは、私を愛しているの。」
意味深そうな言動が、私を疑問の海に潜らせる。
お前は何者だ、なんだこの言動は、私に何が起こっている....。この時、私は彼女のいる反対側に何かしら気配を感じた。敏感になっている神経が、虫の知らせ的なものを運んできたように感じた。
いつの間にか、彼女の顔から笑顔が消え、真顔になる。
私は口をモゴモゴさせながら、彼女に向かって声を放とうとしている。苦しい。決して息が苦しいのではない。聞きたいこと、話したいことは山ほどあるということだ。
次の瞬間、私の首元に押さえつける何かを感じた。これは息が苦しいのだ。体から汗が吹き出てくる。もがこうにも身体が動かない。
怖い、嫌だ、離せ、死にたくない....他にも様々なネガティブな感情が、脳内を立体のブロックとなって流れてゆく。それが脳壁にぶつかる度に反射して、何度も何度も脳内を巡る。
「そのくらいでやめた方がいいですよ。でなければ、あなたが危ないです。」
何を言っている。この少女は、私の味方なのか。なんなんだ一体....。
気がつくと、私の首を押さえつけていたものは、力を失いつつあった。そして、いつの間にか彼女が私を抱きしめていた。
なんだ、何が起きた。もう訳が分からない。私の目からは、涙がこぼれ落ちていた。彼女の髪の毛を伝い、彼女の中へと消えてゆく。同時に、首に感じていた押さえつける感覚も、綺麗さっぱり消えていた。それでも、なお彼女が私をギュッと抱きしめている感覚だけは、最後まで残っていた、気がする。
ハッとして目を覚ますと、そこはいつもの天井、自室のベッドの上だった。私はベッドから起き上がり、その横に立つと身体を確かめる。服も足の裏も汚れはなく、身につけているものに何も変化はなかった。
もしかすると、と思いながら毛布の中も確認したが、寝る前と変わりなく、例の少女がいる気配もなかった。もちろん、部屋の中にもだ。
そのくらい、リアルな夢だった。
とりあえず顔を洗おうと洗面台に向かった私であるが、思わず声をあげてしまった。首元に薄らと痣があった。紐、いやもう少し太い。よく見ると、指のように見える部分がある。
私は不安だ。一体何があったのか。寝ていた私には知る由もない。この部屋に幽霊や悪霊が出たという話は聞かない。一応念の為、全窓と扉の戸締りは完璧だったことを確認した。また、窓ガラスも割られていなかった
窓の外を見ると、ちょうど朝日が昇ってくるところだった。もしかすると、私は、今日この朝日を拝めなかったかも知れないのだ。そう思うと、私は無意識に深く目をつぶり、朝日に向けて合掌していた。
そして、ひとつふたつ深呼吸をして、落ち着いてみると、あの少女は誰なのか、という疑問が湧いた。首のアザもそうだが、こちらも重要な疑問である。
見当もつかない、分からない。
私には妻も子供もいない。彼女もいない。あんなに綺麗な美人さんは心当たりがない。学校の同級生にもいなかったな、多分。
何分か頭をひねったが、出て来なかった。
気分転換に、朝の散歩にでも行こうか、そう思いながすスリッパを履き、玄関の扉を開けた。
集合住宅の階段を降り、家の前の道に出た。そして、ふと家の方を見ると、物凄い風が私の周囲に吹き荒れた。
足で踏ん張ればどうにかなりそうだ。目も開けられない。
しかし、風はすぐ止んだ。身体に異常はないようだ。目をゆっくり見開き、私は声を思わず声を上げそうになった。
そこには何も無く、草が生い茂り、『売地』と書かれた看板が中央にある空き地があるだけだった。
集合住宅は跡形もなく消えており、まるで最初からなかったようだ。
どういうことだ、これは....。
呆然として立ち尽くしていると、道の向こう側から誰かが駆け寄って来るのが見えた。
「あなたは、○○さんですか。」
それは、警察官だった。そして、私は警察署に連れてい
かれ、そのまま町の病院に入院した。
後で聞かされた話だが、私は捜索願いが出されていたようで、4年もの間行方不明だったらしい。かつ、記憶喪失だったようなのだ。ある日の夕方、出かけたきり帰ってこなかったとのこと。
入院先で、面会に来た家族だという人達に会った。そして、聞かされたのが、私には数年前の夏に亡くなった妹が居たそうで、彼女はひまわりが大好きだったという。そして、私にとても懐いていたとか。写真を見せてもらったが、あの夢に出てきた少女が、妹だったのだ。
母という人に、この話をしてみると、よく分からないけど、妹は霊感があったそうな。もしかすると、私に良くないことがあるのを察知して、死んでもなお、力を使って助け出してくれたのかもとのこと。真相は分からないままである。
今思うと、夕方といえば逢魔時、と言う時間帯で、もしかすると神隠しにでもあったのではないか、と私は考えている。いまいち分からないのが、あの妹の言動である。何かの暗示だったのか、それとも呪文だったのか。
分からないことだらけだけど、妹には感謝している。そして、少しずつだけど記憶も戻りつつある。妹の分も頑張って生きなきゃ、と思い日々励む私であった。
お読みいただき、ありがとうごいます。
誤字、脱字、指摘をお願いします。
話が浮かんだので、文字に起こしてみました。思ったよりも長くなりました。物語的に完成しているのかと不安に思いつつ、とりあえず1本できたことに安堵。
では、また次の作品でお会いしましょう。