6話
儀式の後、しばらくはカラハもミズナギもセレーネの護衛として働いた。だが、これがいつまでも続くわけではないことはわかっていた。
あの時、部屋の外回りを守っていた衛士達はもうここにはいない。危険な人物を見逃したということで、その責任を問われ辞めさせられた。それはカラハも同じだ。例外、とういうわけにはいかないだろう。
「まあ、追い出されたら別の場所でも探しましょうかねぇ。大丈夫ですよ、君のも手伝いますから」
ミズナギに相談したら気楽にそんなことを言っていた。だが、カラハはそれほど気楽になれなかった。
(俺はまた……)
また失うのだろうか。
もう二度とあんなことを起こさないと決めたのに。あんなみじめなことになるなんてまっぴらごめんだ。まだ守れる。守っていたい。
嫌だ。
でもまた同じことをやっているじゃないか。学習しない。俺は。そんなだから同じ末路をたどるんだ。
「カラハどうしたの? 最近なんかつらそうだけど」
その気持ちを一度だけセレーネに気づかれそうになった。彼女は敏い。余計な心配をおかけしないよう、普段はそんな感情は隠している。それがつい出てしまったのだろう。
(俺も相当参ってるな……)
長年やってきた、いわば習慣ともいえるものすら忘れているのだ。
その場はなんとかやり過ごした。その後は普段通り振る舞った。セレーネはなおも気になっている様子だったが、特別言及されることはなかった。
そんな待つだけの日も数日が経った。ある日、セレーネとカラハ、ミズナギはポロスに呼ばれた。
内容はわかっていた。俺にもとうとうその時が来たのだ。
ポロスの部屋は広かった。しかし調度品の類は一切ない。彼自身があまり自室にいないせいかもしれない。
その部屋の主人は奥の椅子に座っていた。そして、その横には大星祈師がいた。まだ怪我は完治しておらず見るだけで痛々しい。嫌でも自分が何をしたかを自覚させられる。
「来てくれたか。じつはどちらかというと、カラハとミズナギに関係が深い話だ」
来た。とうとう来てしまった。もう時間だ。ここを去れと言われるのももうすぐだ。だが……。
カラハは前に進み出るとその場で跪いた。
「すみませんでした。まずは貴方をお守りすべきでした」
はたから見ればさぞおろかに見えるだろう。何やっているのだろうか。俺は。
「ですが、これからは気を付けます。ですからどうか……」
このまま何もしないというのは嫌だ。無駄だということはわかっている。
「どうか、セレーネ様の元に居させてください」
どんなにみじめでもいい。失わなくて済むならそれでいい。
一体何と言われるだろうか。次の言葉がひどくもどかしく感じる。
ポロスの口が開く。何を言われるだろう。逆効果だったかもしれない。もう遅い。引き返せない。
しかし、発せられたのは予想外のことばだった。
「いや、その件は今回はいい。呼んだのは他のことでだ」
その瞬間、カラハの中に喜びが広がった。
大丈夫だ。まだここにいれる。
ここ数日悩んでいたことが全て吹き飛んだ。
行く先不明、夜のように真っ暗な場所に一筋の道が出来た。夜道にできた一筋の線。もう決して失ってはいけない線。そうならないように守らなければいけない線。
カラハは顔を上げた。
「そしてそのことについて、彼から詳しい説明がある」
大星祈師は頷いた。
「儀式がもし失敗したときにはその日から20日以内に儀式をもう一度行わなければ凶星は払えない。私の回復を待ってみたが……どうも間に合うかはわからなくなった。そこで君たちには、星の山に行って直接儀式を受けてもらいたい」
星祈師は幾人かの大星祈師が複数の者に教える師弟制で育てられる。
星の山とは星祈師が修行をする山のことだ。ここで星祈師になるために師から教えを受けたり、星祈師が行う儀式の練習なども行っている。もちろんそこで儀式を受けることもできる。
「そのための護衛をお前たちにやってもらう」
ポロスが言う。相変わらずその声音は冷徹な響きを伴っている。
「やってくれるな」
問うでもなく強制させるような口調――カラハ等に決定権など無いと言わんげな口調。
カラハの答えは決まっていた。
「もちろんです。必ずや成し遂げて見せます」




