表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワタリドリ  作者: 横井雀
1/8

序章

 男は路地裏に潜り込み手近な壁を背にすると、糸の切れた人形のようにどっとその場に崩れ落ちた。しかし、目だけは油断なく左右を見回すと、やっと警戒を解いて一つ息を吐いた。

 もはやボロ布と区別のつかない服から醜い傷が覗いている。さらに右の肩口には何かで抉られたような跡が付いていた。

 男は息を整えると、空を見上げた。憎たらしいほどの晴天だ。だがその晴天をしても彼の周囲を照らすことはできない。

(なぜ……)

 こんなところにいる。

 なぜ生きている。どのみちこんなところに俺の居場所はない。(ルーナ)という主役を失った夜空の星はどうなるのか。

 少なくとも主役がいたころと同じようにはいかない。

 あそこに残るべきだった。"(ルーナ)"と運命を共にすべきだった。

 それならこんな苦しみを味わうことはない。最後まで信じてくれた彼……。そして……。

 と、その時意識を現実に戻した。何かが聞こえる。足音が聞こえてくる。追手だろう。近い。だいぶ詰められている。普段なら気が付く距離だ。

「とうとう俺も堕ちたか」

 自嘲気味につぶやくと右手を腰の刀にかけようとして顔をしかめた。傷を思い出して慌てて左手で短剣を取り出す。そしてのろのろと立ち上がると壁に体を預けるように立ち上がる。

 焦点がはっきりしない。視界がぶれる。

 だめだ。

 これではまとも反応もできない。もうここで終わりだ。いや、終わっていい。

 むしろ終わらせてくれ。そうだ、俺はこれを望んでいたんじゃないか。どうせこの世にもう価値なんてない。もういいじゃないか。あそこから離れられただけで俺はもう十分だ。

 足音がひどくじれったく感じる。どうせお前らだろ。早く来てくれ。早く楽にしてくれ。俺は逃げない。もうそんな余力もない。

 やがて人影が現れた。二つだ。しかしそれは彼の予想とは大きく異なっていた。

 子供のような小さいものと、男のもののようなのが一つずつ――彼を追いかけてきた者たちではない。

「お父様! ここに傷だらけの人が! 早く助けないと」

 その小さな人影が駆けてくる。

(子供……?)

 何故子供がこんなところに? 男は思わず逃げ出そうとしたが、そんな気力は既にない。その子供を最後に男の記憶はしばらく途切れることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ