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第四話 特別授業の危険信号

特別授業の危険信号


三毛菜が転入してきて二日が経った今日。

担任が恐ろしいことを言ってきた。

「えー、今日の6時限目は特別授業をしますのでそのつもりで」

特別授業。

普通の高校ではそれは誰かの講義だとか、ビデオを見る時間なのだが、この学園は違う。

実戦、なのだ。

言葉の通り、本物の鏡獣を投入した戦闘。

怪我は愚か、失敗すれば死者が出る。

俺はその言葉を聞いてから、少しばかり放心状態になっていた。

というのも、前に特別授業があったとき、俺が敵を殲滅したからだ。

あれは辛い。めっちゃ辛い。戦ったあと誰とも話せないくらい辛い。

だが、今回は違う。今回は三毛菜がいる。俺の考えが正しければ今日の特別授業はあいつが担当となるだろう。

だから、俺は心配をする必要はないのだが……。

「何だろう。この心配は」

考えても出てこない答えを探して、俺は午前を過ごすのだった。


昼休み、弁当を食べるために俺は解放された屋上に足を運んでいた。

ここは日が当たるが涼しいとなんとも矛盾な場所なのだが、俺は好き好んでここを使っていた。

そして、今日は俺だけではないらしい。

「……よ」

「何? あんたもここを使ってたの?」

ほんと何なんでしょうね、この冷たさは。この子正直俺のこと嫌いでしょ?

冷たい視線が俺を射抜く。

死んじゃうよ? いじめられてるって錯覚して死んじまいますよ?

「ああ、俺はいつもここを使ってるんだ。ここが一番涼しいからな」

教室の扇風機に当たりながら飯を食うのは何だか見ていてかわいそうになるもんだ。

俺はそう思われたくないからここに来るんだが……。

「そう、私は校内を回ってたらここが解放されてるって聞いたから来てみただけ」

どうやら、三毛菜はそうじゃないらしい。

てか、校内を回るってお前は猫かよ。

ちなみに、猫っていうのは新しい家に来るとすべての部屋を見て回りたくなるらしい。

「そうかい。じゃあ、俺は飯食うから」

それだけ言って横を通ろうとすると、

クゥ

……。

「……」

あれ? 今、何か気の抜けるような音が……。

三毛菜を見ると真っ赤になっていた。

いや待て、こんなコメディチックなことがあってたまるか。

「……なあ――」

「私のお腹じゃないよ!!」

ああ、こいつ。俺の考えをなんで肯定するんだよ!

しかも、バレバレだろ!!

「いや、だって――」

「いい? お腹が鳴るってことは、お腹がすいてるってことだよ? 私はさっきご飯食べたし――」

クゥ。

……。

ああ、何かかわいそうになってきた。

「飯、食うか?」

「……うぅ。いいの?」

お腹を押さえて涙目で聞いてくる。

「ああ、俺は別に構わないけど」

「……やった」

小さくてよく聞こえなかったが、どうやら喜んでるらしい。

早速、俺たちはベンチに座って弁当を食べ始めた。


飯を食い終わり、一服していると、

「あー、お腹いっぱい」

「結局、俺の弁当半分食ってんだもんな」

静かに言うと、三毛菜は笑いながら、

「あはは、ご、ごめん。支給されたお金じゃ一ヶ月もたなくって」

支給?

「お前、支給ってどういうことだ?」

こいつは国のトップの遣い。つまり、俺なんかより断然優秀なはずだ。

それなら、給料をもらっていてもおかしくはない。

「私は、別に働いてるわけじゃないんだ。私は学生。任務はお金のかかったものじゃないんだよ」

それはつまり、無収入の仕事をやらされているということか。

そんなことをしていいのか?

「私には、親がいないんだ」

三毛菜は何かを悟ったように話し出す。

「だから、孤児院にいたんだよ。でも、その孤児院はお金が厳しくって今にも潰れそうだった。だから、私は働こうとしたんだけど、なかなか子供を働かせてくれるところがなくて苦労したんだ。その時にね、出会ったんだよ。幡中家郷に」

その名前を聞いて俺は飲んでいたお茶を吹き出す。

幡中家郷!? こいつ、そんな大物に会っていたのかよ。

幡中家郷とは、鏡の世界に行くための装置を開発し、ノーベル賞を取った偉人。だが、その裏には何百もの死者がいた。

それを知ったのはノーベル賞を取ったあとのことだった。

そして、名付けられた名が『マッドサイエンティストの偉人』

今ではどこにいるのかさえわかってはいない。

そいつに、三毛菜は会っていたのだ。

つまり、

「お前が働かされているのはそういうことか。危険人物に出会ったが故の運命。国は何をさせているんだ」

独り言が混ざった言葉を吐く。

国がしていることはあってはいけないことだ。

だが、三毛菜は笑って言った。

「でも、そのおかげで私は今、生きている」

違う。違うんだよ、三毛菜。

お前は生きてるんじゃない。生かされているんだ。国によって、国の陰謀によって。

だが、その笑顔は紛れもない本物だった。

「それに、私はいつだって一人だったから。孤児院でも、社会でも。だから、人に使われるのは慣れてるんだよ」

それは、それは慣れじゃない。

自分自身を隠す、仮面だ。心の隙間をカモフラージュする覆いだ。

だが、今の俺にコイツの現実を壊す勇気は、ない。

「そうか。まあ、いいんじゃないか? それも一つの人生だ」

それだけ言って、俺は視線を空に移す。

空は憎らしいくらいに青かった。

少しの間の沈黙、そして、

「じゃあ、私は行くよ。6時限目、私の戦いを見て研究でもすることだね」

三毛菜がいなくなるまで見送って、俺は再び空を見上げる。

やはり、空は憎らしいくらいに青い。

俺の心はくすんでいくばかりだった。


そして、6時限目。

事件はすぐに起きた。

三毛菜の名前が呼ばれ、上級ランクの鏡獣がいるバトルフィールドに連れてかれる。

生徒は別室でその戦闘を見ることとなったのだが、問題は上級ランクの鏡獣の多さだ。

ありえない。こんな量はありえないんだ。

なんで上級ランクが十体を超えてんだよ!

「なんで、あんなことなってるの?」「なぁなぁ、これってもしかして死ぬんじゃね?」

クラスのやつも異変に気づいたらしい。

不意に物化が俺の肩を叩いた。

「な、なんだよ」

「思うのだが、これは異変の度を超えている気がするのだ。さっきから教師陣の動きもおかしい。何か問題が起きたに違いない」

俺は教師たちを見る。

確かに、どこかよそよそしい。

だが、それだけで問題が起きていると判断しては……。

そこに、佐々森が入ってきた。

「少し話を聞いてくる」

俺は席を立ち、佐々森に近づく。

「佐々森。これはどういうことだ?」

「あ? ったく、教師を呼び捨てにするなと言っているだろうが。はぁ、少しばかり問題が起きただけだ。安心しろ」

本当にそうか? こいつにしては俺に優しい言い方をしているような。

「大きな問題なんだな」

「……チッ。ああそうだよ。教師が中に入れなくなった。それに加えてあの数だ。これは死んじまうぞ、あいつ。俺たちも何とかしてんだが、どうやっても中に入れそうもない」

「俺たちは入れるのか?」

俺の質問に佐々木は少し戸惑う。

「……ああ、入れる。だが、出られない。あそこにいる鏡獣を全て排除すれば出られるようだが、それは叶わないだろうな」

そういうことか。

なら簡単だ。

「ここの生徒全員をあのバトルフィールドに送れば勝てるんじゃないか?」

そう、仮にもここは鏡獣が見え、戦ったことのある生徒ばかりだ。

なら、戦って勝つという手段もあるはずだ。

「それは、教師として認証できない」

佐々森はそう言うが俺はすでに駆け出していた。

みんなの視線が集まるスクリーンの前、そこ立って俺は言う。

「問題が起きた! みんなでバトルフィールドに入って敵を殲滅するぞ!」

だが、俺の声に反応した者は一人としていなかった。

どうした。どうしたんだよ、みんな!!

みんながスクリーンを見て驚いている。目をそらす者がいる。

見ると、三毛菜はインフィニティーのカードを使って戦っていた。

だが、戦況は押されている。それも一方的に。

体にはたくさんの切り傷。服は血がにじんでいた。

この情景を見て、みんな臆してしまったのだ。

「死んだな」「死んだね」「かわいそうに」「あんなの無理だよ」

騒めく。

臆した者たちがまるであざ笑うように言う。

俺の中に怒りが沸き立つ。ドス黒い炎が燃え立つようだった。

俺は強く拳を握る。

「テメェら。なんで助けようとしないんだよ」

「無理だからだよ」「戦ったって勝てない」「無駄死には一人で十分だ」

無理? 勝てない? 無駄死に?

ふざけんなよ。

仲間が目の前でやられているのになんで誰も動けないんだ。

「クソが。弱っちぃ心の持ち主どもが。テメェらはなんでここにいる。仲間を助けられない奴らにここにいる資格はねぇ!!」

それだけ言って、俺は佐々森の元に行く。

「佐々森、俺をあそこに連れていけ」

「あ? ダメだって言って――」

「黙れ」

冷たく鋭い言葉が場を黙らせる。

佐々森は少し考えてから、

「死ぬつもりじゃ、ないんだな?」

俺は頷く。

死なねぇよ。俺は勝つために行くんだから。

「それに、これでも俺は劣等生なんでね」

カードを鏡に投げゲートを作る。

「ふん。いっそ死んじまえば楽なんだけどな」

佐々森が皮肉を言い始める。

俺は笑って、ゲートを潜った。

「死ぬんじゃねぇぞ」

その言葉に俺はさも当たり前のように頷いた。

今の俺の目の前にはさっきまでスクリーンに広がっていた場所があった。

「あ、んた。なんで来たの」

今にも倒れそうな勢いにもかかわらず威勢のいい声が聞こえる。

「私は、まだ、負けてなんか、ない」

「おうおう、それだけ元気そうだったら問題なさそうだな」

三毛菜を囲むように立っていたライオンのような鏡獣。

ざっと十五匹ってところか。

数を確認してから、俺は叫ぶ。

「見てろよ!! てめぇらにできなかった事を俺が今、ここでしてみせる!!」

これはスクリーンからこちらを見ている全ての人に向けた言葉だ。

俺は内ポケットからカードを取る。

それを空に投げ、叫ぶ。

「ジェネレート!! 次元のディメイション・ゲート

俺の背後に大きな門が展開される。

そして、俺はもう一枚のカードを投げた。

「コール!! 無限なる次元龍ウロボロス

次元の門からゆっくりと姿を現す龍。

灰色を光らせ、その存在感を目立たせる。

『何用か。我を呼ぶのだからそれなりの敵なのだろうな?』

龍から声が聞こえる。

全ての鏡獣が龍を見て、怖気ずいていた。

見れば、三毛菜も同じく驚いていた。

「あれは、ドラゴン!? 力の権化であるドラゴンが、しかもインフィニティーの部類のドラゴンがいるなんて……」

こいつは少し変なんだ。

ドラゴンであってドラゴンでない。無限であって夢幻であるもの。存在は曖昧で巨大。最強であってその存在を知られていないもの。

俺はコイツがいるから、天才劣等生なんだ。

「ウロボロス。今回は少しばかりいい獲物だぞ。ウルトラレア級が十五体だ」

『ほう、お前にしてはいい獲物を用意したではないか。猫とはな、うまそうだ』

バチバチとスパークを起こすウロボロス。

「本気を出すなよ? ここはただのバトルフィールドだ。お前が本気を出したらこんな脆い場所は吹き飛ぶぞ」

『ふむ、ならば逃げるがいい。それくらいの時間はくれてやろう』

俺は舌打ちをしてから、カードを一枚空に投げて言う。

「ジェネレート、麒麟の足」

足に着いた具足で体が一気に軽くなる。

そのまま音速の速さで三毛菜を救出後、バトルフィールドを後にした。

ゲートを潜った瞬間、背後からありえない衝撃と爆音が聞こえた。

見れば、すでにそこにはバトルフィールドはなくなっており、いるのは無を悠々と泳ぐウロボロスのみ。

すでにバトルフィールドは消しさられたらしい。

「あんた。なんで、あんな危険なもの持ってんのよ」

「あー、なんだ、ノリだよノリ」

ごまかしつつ、俺は三毛菜を床におろした。

そのあとすぐに教師立ちが来て三毛菜を運び始めようとしていた。

担架に乗せられ、運び出されようとする三毛菜に俺は言う。

「まぁ、なんだ。お前は一人じゃねぇよ」

「え?」

「確かに、今まではそうだったかもしれないけどさ。今は、俺たちがいる。気楽に行こうぜ、国とか、陰謀とか、そんなもんはなしにしてさ。楽しくしようぜ」

これが限界だ。俺ができる限界。

これ以上はダメだ。恥ずい。

「ふ、ふふ」

「な、なんだよ」

「面白い人だね、あんた。そっか、私は一人じゃないんだ。そっか……」

その言葉を最後に、三毛菜は運ばれていった。

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