第二話 麒麟児な猫
麒麟児な猫
神様というやつはどうしてこう、俺に嫌がらせをしたいんだ?
「え~、今日からこのクラスに転入してきた相原三毛菜さんだ」
先生に紹介されている少女はとてつもなく見たことのある少女だった。
赤みがかった黒髪に、可愛らしい表情。
そう、目の前にいるのは今朝、俺に勝負を挑んできた少女だったのだ。
「そして、なぜか俺を睨むその表情が微妙に痛いんだが」
俺は呆れながら机に突っ伏してそう言う。
あー、もうこの世界は終わったな。
そうさえ思わせる。少女の表情は冷静で冷たいものだった。
だが、呆れる俺とは対照的に、クラスはざわつく。
「あれが最強麒麟児、なのか?」「うそ……ほんとにいたの?」「まさか、この目で見られる時が来るとは……」「ハアハアハア、あの子かわい」
おいおい。最後のはいけないやつだろ。このクラスは変態だらけですか?
そうじゃない。麒麟児? あいつが?
「なあ」
「なんじゃ?」
俺は振り返り、後ろの席の物化に声をかける。
「あいつって、何者だ?」
「……貴様がそこまで無知だったとは……」
何だろう。ものすごく馬鹿にされた気がしたんだけど。
「どうでもいい。早く教えてくれ」
「はあ。あいつは相原三毛菜。能力、カード名、ランクどれも非公開の上層部のジョーカーじゃ。それに加え、あいつは相当強い」
ここでいう、上層部とは国のトップのことである。
それのジョーカーともなると……。
「それって、結構やばいんじゃないか?」
俺はぶっきらぼうに言うと、物化は完全に頭を抱えてしまった。
あー、なんかものすごく馬鹿にされてる? されてるよね?
「貴様は馬鹿か! 国のトップの犬がこの学園に来ているなんぞ、大惨事じゃ!!」
トップの犬って……ほ、ほらぁ、あいつがこっちを見てるじゃないか。
「そこ、トップの犬とか言ったわね?」
「あ、いや、お前のことじゃなくてだな」
「私は猫よ!」
「………………………………………はい?」
ああ、こいつは犬派より猫派ということか。
「いい? 私の能力は『金眼の黒猫』と『無限なる火炎の心』よ!」
うわぁお。コイツのカードは聞いただけでも最上級ものだ。
しかも、ランク外のカード『インフィニティー』の部類をコイツも持っているなんてな。
無限を意味する武具はランクでは設定しきれないため、それだけで最強の部類に保存される。
例えば、俺が前に使った大竜巻の左籠手はレジェンダリーの部類に位置する。レジェンダリーとは前にも言ったが最上級の装備品だ。
だが、インフィニティーはその上を行く怪物もの。
操るだけでも大変なため使い手は限られるが、どうやらこいつは使いこなせているらしい。
「インフィニティーだって!」「まさか、ランク外の武具を持っているなんて……」「やっぱり、可愛いんだなぁ」
だから、最後のはいけないだろ!
「あー、そろそろホームルームを始めたいんだが」
しびれを切らして、先生が話を強引に勧めた。
それからは少しばかりの平穏があった。
だが、それも先生の言葉によって崩れ去る。
「三週間後、ミラーワールドでも模擬試験を行います。パートナーを組んでもよし、なんでもいいので勝ちなさい」
うっ……パートナーアリですか。
じ、自慢ではないが、俺は物化以外と接点は皆無だ。
たまに話したりするだけで他に目立った接点はない。
そんな中、仲間作って、パーティー組んで、試験をしろだと?
ハッ! 無理だ!!
ああ、言ってて泣けてきた。
俺は物化に早速パートナーを頼むため振り向くと、
「うむ、では今回はよろしく頼む」
もうすでに他のやつに取られてしまっていた。
ああ、今回死んだな。
ふ、ふんっだ! はじめから一人でやるつもりでしたァ!
……はぁ、なんか疲れた。
なんだかんだで、授業が始まり、不穏な空気を残して時間は進んでいく。
「さて、俺は帰るか」
チャイムが鳴ると同時に俺はカバンを持ち帰ろうとすると、
「あ、政信くん。君は三毛菜さんに学園を案内してくれないか?」
と、先生からの提案を、
「あ、俺帰ったら暇なんで、嫌です」
丁重に断ろうとすると、
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。劣等生でもそれくらいの役には立てよな」
と、背後から盛大な殺気と、最大限の嫌味を加えた男の声がする。
「あ、佐々森か」
「教師を呼び捨てとはお前も立派だな」
佐々森はボサボサの髪を掻きむしり言う。
「何、少し教師をぶっ飛ばせばこうにもなるさ」
「お前、殺すぞ?」
「知らないのか? 今の教師は生徒に暴力すると仕事が無くなるんだってさ」
パチパチと俺と佐々森の間にスパークが弾ける。
佐々森とは試験の時、ぶっ飛ばした以来犬猿の仲だ。
まあ、特に何をするでもなく嫌味を言ってやられておしまいなんだが、今回の佐々森は違った。
「ふっふっふ、俺も教師だ。お前とのこんな関係も終わらせないとな」
「じゃあ、負けたことを認めたんだな?」
「なっ、ま、負けてなどない! あれは手加減したんだ!」
「なるほど。そういうのをなんていうか知ってるか? 負け犬の遠吠えって言うんだよ。いや、この場合、負け佐々森の遠吠えかな?」
佐々森はとうとう地面に手を着き、自己修復に入った。
こうなったら三時間は動かないだろう。
「さて、じゃあ俺は――」
帰ります。
そう言おうとすると、少女、三毛菜の視線が合った。
「な、なんだよ」
「案内、してくれないの?」
強制力を持ったものではなく、お願いでもなく、ただ当然のように言うその表情に俺は戸惑う。
なんだよ、その顔は。なんで分かりきってるような顔すんだよ。
まるで、自分が案内されないのが当然といった様な顔は、俺には見ていられるものではなかった。
「……そういえば、今日は買い物に行かなきゃいけなかった気がする。ということで、案内してやるよ」
俺は三毛菜の手を取った。
三毛奈はびっくりしたような顔をするがすぐに俺についてきた。
何してんだろ、俺。
ホントはこんなはずではなかった。
ホントは家に帰って遊ぶつもりだった。
なのに、なんで俺はコイツを案内なんてしてんだ?
「まあ、いっか」
「え?」
「なんでもない。ほら、行くぞ」
先を進む俺、その後ろをついてくる三毛菜。
まあ、答えなんて誰もわかりゃしない。




