尿意
我は焦っていた。
トイレに行きたいと焦っていた。
猛烈な排尿欲求は、いかなる思考をも寄せ付けぬ。
我が頭は、すべて膀胱に意識が向けられておる。
だが、次のトイレがある駅までは、少なくとも5分はかかる。
神よ、我に力を与えたまえ。
そして、我が膀胱が破裂することなく、我が本懐を達たまえ。
とは、神に願っても、ただ漏れぬように、心身共に気を配る。
我が命、ここで潰えても、我が名誉は保たれるよう、ただ願うばかりである。
駅名の呼名が始まりし時、我が命は、まさに風前の灯そのものである。
いやはや、今後ともなきことを切に願って止まぬ。
だが、将来に思いを馳せても、我が掌より、背筋より流れ落ちる汗なる水分は、我が膀胱の一助となろうとしておる。
まこと、人間の身体は良くできておる。
我が命尽きようときも、同じく一助となってくれることを願う。
ドアが開いた刹那、我は誰よりも早くドアより飛び出し、目の前に偶然ありしトイレへと駆け込む。
社会の窓をおろし、ふと息を抜いた瞬間、気持ちは天国へと舞い上がらんとしていた。
1分にも及ぶ排尿を終えると、再びホームへと戻り、既に行った電車を見送った。