決意
「ほら、ルイス起きて」
「う……ん? ああリリーか。おはよう」
リリーにいつものように起こされた僕は朝の挨拶をした。
「何が『おはよう』よ。もう昼よ」
え……昼?
窓の方を見ると、すでに日が高く登っていて眩しいほどの陽光が部屋に入り込んでいた。
「あはは……ごめん。昨日は補習で疲れてたから……」
「もう……ってそんなことはどうでもいいの! 今大変なのよ!」
大変?
一体そんなに慌ててどうしたというのか。
「とにかく早く下に降りなさい!」
「ちょっ、ちょっと待ってリリー」
僕はリリーに無理やり手を引っ張られながら、下へと降りていった。
着替えてもいないのに……。
一階では騎士らしき人物が何かを必死に話していた。
「どうしたんですか?」
「ああ……実はワイバーンが王都に向かってきているんだ。それもかなりの数が」
ワイバーン?
ワイバーンは二足歩行の飛竜種でドラゴンの仲間だ。
確か冒険者ギルドではBランク以上の人間が相手にするはずだ。
しかしワイバーンは北の山岳地帯にしか生息せず、そこから出てくるなど珍しい。
一体何が……。
その疑問に答えるかのように騎士が続ける。
「しかもそれだけじゃない。なんでも黒い竜までこっちに飛んできてるみたいなんだ」
「な……!?」
僕は絶句した。
まさかアイツが?
黒い竜。
それは今から五千年程前の話だ。
その竜はこの王国付近を縄張りとし、空を飛び回っていたという。
だがある時、当時の王はその竜が王国に仇なすことを恐れて討伐に打って出たという。
竜は何もしていないのに……。
結果討伐隊は壊滅。
激怒した竜は王都を焼き払い、たちまちの内に火の海にしたという……。
竜はそれ以来、北の山岳地帯で深い眠りについているという。
王都の完全な復興には半世紀を費やしたというから驚きだ。
しかし眠っていたはずの竜は、今目覚めて王都へと向かってきている。
なぜ目覚めてしまったのか?
黒い竜が再び王都を攻撃したら、ここは三度荒れ果ててしまうことだろう。
そうしてる内にも竜は迫り、人々の平和を破壊しようとしている。
今王都の至る所で冒険者が、騎士が集められ、竜へ立ち向かおうとしていることだろう。
だが……竜もまた被害者だ。
かつてこの地の大空をそれはそれは雄大に飛んでいただろう。
それだけなのに人間に迫害された。
竜が眠りについたのはまるで人間に裏切られたことで負った傷を癒やすかのような……。
「ッ……!」
「ちょっと!? ルイス!?」
そこまで思ったところで僕は駆け出していた。
リリーの呼ぶ声がした気がするが、今はそれどころではない。
この争いを止めなければ。
ここで争ったらまた互いを傷つけるだけだ。
生きることにも意味を見いだせない僕が、この時だけは自分のすべきことを見つけられた気がした。
だって……だってあの竜は……
昔の自分のようだったから……。