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ある少年の話  作者: 片山
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宿屋にて

 学院を足早に出た僕達は、王都の大通りを歩いていた。

 さすが王都の中心部なだけあって人通りが多く賑やかだ。

 通りには冒険者達が利用する武器屋や鍛冶屋の他、一般の人も多く使う道具屋や食堂など様々な店が軒を連ねている。

 そんな中、僕達はある宿屋へと向かっている。

 宿屋の名前は[小鳥の止まり木]。

 このあたりでは結構人気の宿屋だ。

 冒険者が多く利用する宿屋で小鳥はどうかと思わなくもないが、僕がどうこう言えることではない。

 なぜまだ日も出ているこんな時間から宿屋なんかに行くのか。

 それはもちろん、リリーの家がその宿屋だからだ。

 さっきも言ったと思うがリリーは宿屋の一人娘である。

 [小鳥の止まり木]はリリーの両親が経営しているのだ。

 そうこうしている内に目的の場所に到着した。


「たっだいまー」


 勢い良く扉を開けるリリー。

 中のロビー兼食堂の空間にある椅子に腰かけくつろいでいたお客さん達ーー多分冒険者だろうーーは、いつものことのように気にしていなかった。中にはおかえりと返す常連客までいるほどだ。


「おう。おかえり」


 リリーの声に負けないほどの大きさで発せられたその言葉の主はリリーの母親、エミリア・コーウェンだ。


「ルイスもおかえり」


 エミリアさんは後ろで三つ編みにしたリリーと同じ赤い髪を翻しながら、こちらを向いてそう言った。


「……ただいま……エミリアさん」


 僕はぎこちなくそう返すと、早々と二階へ向かった。

 僕がリリーについてきた理由。

 それはこの宿屋がリリーの家であると同時に、僕の家でもあるからだ。

 僕は色々わけあってここに下宿させて貰っている。かれこれ一年近く経つはずだ。

 見ず知らずの僕を受け入れてくれたエミリアさんには頭が上がらない。

 二階は客が泊まるための部屋があるのだが、木造の階段を上って一番奥にあるのが僕の居住スペースだ。

 部屋に入った僕は、すぐさまベッドに潜り込む。

 やっぱりここが一番落ち着く……。

 少しばかり眠ろうとしたその時だった。

 コンコンと扉が鳴ると同時に「ルイスー。入るよ?」と聞き慣れた声がした。


「ああ。リリー、どうかしたの?」


「あーあー。またベッドに入っちゃって。少しは運動でもしたら?」


「僕に運動なんて似合うと思うのかい? それで、どうしたの?」


「いや……ルイスは試験の準備をしたのかなと」


「同じことをエレクにも言われたよ」


「てことは準備してないのね?」


「いつものことだろう?」


 リリーは呆れたようにため息をつくと「だいたいルイスは……」と説教を始めた。

 まあ……いつものことだ。

 僕なんかを心配してくれるのはありがたいが、当然のごとく長い説教は耳に入っていない。

 ようやく説教が終わったかと思うと、


「さ、それじゃあ勉強を始めましょう」


「え、今から!?」


「あら? ルイスにはまだ説教が足りないのかしら?」


「リリー。僕は今とても疲れているんだ。だから真の意味で僕を心配してくれているのなら、勉強は明日からに……」


「何を寝ぼけたことを言ってるの。試験は三日後なのよ。そんな悠長なこと、あなたが言ってられるのかしら?」


 あ、これは逃げられそうにないな。


「さあ、分かったらとっととベッドから起きて勉強勉強」


「リリー、痛い! 痛いから引っ張るのはやめて!」


 とうとう観念した僕は机に向かわされ、鬼教官の指導の下勉強したのだった。

 もちろん、頭の中にはリリーのありがたい指導のお言葉も、必死に解いた問題の内容も入っていないが。






 こうして、僕の日常は過ぎていくーー



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