スマイルふたつ
ある日突然僕の彼女が倒れた。僕は急いで病院におぶって連れていく。 意識を失っていたので入院手続きを僕が彼女の両親代わりにした(ちなみに彼女の両親は長期海外旅行中だった)そして原因不明のひどい高熱を発し、三日三晩眠り続けた――がしかし四日目の朝に何事もなかったかのように目覚める。ちなみにこの四日間、ボクは病院に無理を言って大学を休んでずっと看病していたのだ。
「由歌……平気……なのか?」
「あれ? 病……院? 私どうして……」
どうも由歌は倒れた時から記憶が飛んでいるようだった。――がしかし……
「うーん……非常に申し上げにくいのですが……」
医者が異常はないように感じるが、感情の欠落としか思えないと診断結果を僕に告げてきた。
「彼女さんは『悲しみ』をなくしてしまっているようなのですが……」
僕は医者の言葉をすぐに理解出来ない。
「………………はい?」
そんな状況になったので、時間を作っては僕は由歌と遊ぶことにした。
「ねえ、次はどこ行こうか?」
「え……ああ。由歌の好きなところへ行こう!」
この奇病は世界で数人だけ前例があったようで急な発熱の後に感情の一つ二つ持っていってしまうというものらしい。
「まあ……喜びなどの感情をなくす人に比べればあまり困ることでもないですし、良いぐらいかもしれませんよ」
そんな感じでヤブ医者(と感じた)が無責任に言ったが、人間の感情がそう簡単に単純である訳もなく、試しに彼女が悲しむであろうことをしたら非常に苦い顔をされた。
無くしてしまった「悲しい」部分を他の感情で補っている……とそういうことなのだろう―――だけど僕には泣き虫の彼女が必死で我慢しているように見えて――――そして僕は「彼女を悲しませない」と決意した。
その日から今日でちょうど2ヶ月になる。由歌は僕の隣でずっと微笑みを絶やさない。
「――でね」
由歌が話をしてくれていると思ったら急に黙った。
「ん? どうしたの?」
「……ううん……えっと何だかこの頃ずっと……何か足りないような……」
「そりゃあ全く悲しんでないんだから自覚がないかもしれないけど……」
車道側を歩いていた僕に飲酒運転の車がぶつかってくる。
(あ………………まずい由歌が――この状況は由歌が悲しむんじゃないか……。彼女は……本当はとても泣き虫で……今、彼女はどれほどの辛い表情をしていなければいけないんだ……?)
「……あ、良かった起きたっ。おはようっ!!!」
微妙に複雑そうだが由歌が笑みを作っていた。
(――あれ!?)
「頭と足の少しの怪我ですんで大丈夫だって」
俺は病院のベットに横たわったまま由歌に聞く。
「お前……何でそんな笑顔で……」
「えっ、変かな!?」
由歌がどことなく辛そうな表情をしていた。
「あなたが一番辛いのに私が辛そうな表情をしたらダメかなって……」
不意に足りなかったことを思い出した由歌の優しげな笑みを素敵に感じる。
「あっ、わかった! この頃ずっと足りなかったもの。同じようにあなたがちゃんと笑っていなかったんだね」
(そうか……何より大切にすべきだったのは)ただ、純粋な笑顔ふたつ。
布団の中に入れた僕の手を握ってくれた由歌の手のぬくもりに自然と僕は微笑んでいた。
始めての恋愛小説作品です。
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