変な転校生
今日は実に変わったことの多い日だ。登校中に狂い咲きの桜を見た。
教室に入ると、いつもはぎすぎすとした雰囲気なのに今日はみんなそわそわ落ち着かない様子。
どうも転校生が来るらしい。
いつもと変わらないのは私への冷たい視線。私を追い詰めるような視線をヒシヒシと感じながら自分の席に着く。
じっと下を向き、早く学校が終わればいいと願う。ふと、一人の男子が近づいてきてガンッと私の机を蹴った。そしてブスと呟いて何処かへ行った。
その光景をみたクラスメイトたちは馬鹿にしたようにくすくす笑う。何事もなかったかのように澄ました顔をしてたが、内心その場から逃げ出したいという気持ちで一杯だ。
そんな私の反応が気にくわないのかゴミを投げつけられたり、聞こえるような声で悪口を言われた。
そんな時、一人の救世主が現れた。優介だ。彼はクラスの人気者であり私の幼馴染。
「渚は俺の友だちなんだから虐めんな。OK?」
笑いながら言う優介にクラスのみんなは何も言わない。
ああ、また助けてもらちゃった。助けられるたびに自分がものすごく惨めに思える。それと同時に優介に申し訳なくなる。
「私は大丈夫だよ。ありがとう」
「いえいえ。なんかあったら俺にすぐ言えよ」
フッと笑い私の頭を優しく撫でてくれる優介に私は少し癒される。
そうこうしていると、担任が教室に入ってきた。
「転校生を紹介するぞー」
みんなの視線は担任と一緒に入って来た男子に集まった。
「藤間純です。宜しく」
にこりとも笑わない純に最初は緊張しているのかな? みんなそう思っていた。
しかしどんなに話しかけても、笑わない。
話しかけても必要最低限の返事しか返ってこない。”変な転校生”は孤立していたが、一人きりになることはなかった。何故なら純は一般的にいう女受けのいい顔だから。
隣のクラス、ついには別の学年の女子も純を一目見ようと教室へ足を運んだ。
そんな純をよそ目に私はホッとした。言い方は悪いがしばらくの間はみんな純に気がいってこっちに意識が向くことはないだろう。
やっと最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、私は逃げるように教室を出た。帰り道、はあとため息をついた。
「どうして我慢する?」
不意に話しかけられ、目を見開き声のするほうを見てみると、そこには”変な転校生”がいた。
突然の質問に首を傾げていると同じ質問をしてきた。
「我慢なんか私してないよ」
「悲しいなら泣けばいい。ムカついたら怒ればいい。簡単なことだろう」
無表情で淡々としゃべる”変な転校生”
「別に悲しくないし、怒ってもないよ」
私の答えにそう、とだけ呟いた。そしてパチンと両手で叩いた。
「は?ちょっと……あなた一体なにしたのよ……」
私は今さっきまで帰り道にいたはずなのに、今は学校の屋上にいる。
「まあ、黙ってみていろ」
少しすると、優介とその友だちが入ってきた。私に気付くかと思ったがどうやら姿は見えていないようだ。
説明を求めようと思い視線を向けるけれど、何も言わないということは教える気はないようだと諦めた。
「優介も酷いよな。お前本性知ったら河本泣くぜ?」
そう言い笑う優介の友だち。河本とは私のことだ。話の意味が理解できず私は首を傾げた。
「あいつが泣くわけないだろ?それに俺のこと完全に信じきってるから大丈夫だろ」
「それもそうだな。まさか優介も自分のこと嫌いなんて夢にも思わないだろうな」
そう言い笑う友だちと一緒になって笑う優介。
いつも私に優しい優介なのに、今は私の悪口を言って笑っている。
酷いよ。信じてたのに……
「こんなの見せてどうしたいの?」
わからなかった。どうして私にこんなのを見せたのか。
「どうして泣いている」
自分の頬を手で触ると濡れていた。ああ、私泣いてるんだ。どうして?
「胸が……痛い。悲しくて、胸が押しつぶされそう」
そう言った私に微笑みかけ頭を撫でた。私を撫でる手は優介とはまた違う、少し乱暴なんだけれど優しかった。
「泣きたいときは泣けばいいんだ。我慢なんてしなくていい。」
そう言って抱きしめてくれた。ただただ私は”変な転校生”の胸に顔を埋めて泣き続けた。
気がつけば私は自分の家の前にいた。家に入り目が腫れていないか確かめてみるといつもどおりの自分の顔が映った。本当に今日は変わったことの多い日だ。
不思議と優介に裏切られたのに心は清々しい。
ふう、とため息をつきながら布団の中に潜り込むとものの数秒で深い眠りについた。
朝起きると、よく眠れたので目覚めがとても良かった。
いつもどおり学校の準備をして学校へ向かう。
いつものように教室へ入ると、切り刻んだマスコット人形が机の上に置いてあった。
ひどい……お兄ちゃんが初めてもらった給料で買ってくれた大切なものなのに……
「おい、可哀想だろ」
声の主は優介。
昨日までの私なら優介の登場にホッとしていた。しかし今は、優介の行動が偽善としか思えない。
ガンッ
突如教室になり響いた音に、教室にいた全員が音のするほうに目を向けた。私もつられて音のするほうを見てみるとそこには”変な転校生”がいた。
彼は黙って私を見つめた。
私の中でプチッと何かが切れた。
その瞬間、壊れたように泣き出した。
そんな光景にクラスメイトは呆気に取られたように固まった。大声で泣き続ける私に罪悪感を感じたのかゴメンと口々に謝ってきた。
一通り泣いて落ち着いた私をクラスメイトは笑った。前みたいに嘲笑うような感じではなかった。
私もいつしか笑顔になっていた。
ふと気がついた。
「あれ? 藤間君は?」
私の質問にクラスメイトは不思議そうな顔をして「誰?」と言う。誰に聞いてもみんな答えは同じ。
みんなの中から”変な転校生”東間純の記憶は消えていた……
それから数ヶ月。
藤間君。貴方は何処で何をしていますか?
私は、あの頃とは考えられないくらい私の生活は激変しました。親友と呼べる友だちが出来ました。心から大切だと想える恋人が出来ました。
2週間程前、とてもビックリしたことがありました。
なんと優介に告白されたんです。
勿論お断りしました。今でも彼のことは好きだけれどそれは友だちとしてです。
学校へ行くのが楽しくて楽しくて。今そう思えるのは藤間君のおかげです。
またいつか貴方に会えるのを楽しみにしています。
本当に、ありがとう……
少し言葉の表現が大雑把だったかな?って思います。
また時間が出来たら編集させていただきます。
我慢をするのも大切なんだと思うんですけど、我慢しすぎると疲れてしまいます。
たった一度の人生。
誰もが一度は後悔をする。長い人生少しくらい楽したっていいんじゃないですか。
失敗したってやり直せばいい。ひとつひとつ抱え込んでどうするんですか。
難しいことなんか考えずに泣きたいなら大声を上げて泣けばいい。楽しいなら笑えばいい。そうやって本能のままに生きてみるのもいいと思います。
完璧な生き方なんて出来ないから不器用な私は不器用なままで。背伸びなんてせずに気ままに生きてみたいなって思います。
誤字・脱字がありましたらお手数ですがお伝えください。
お願いします。
この小説を読んでいただいてありがとうございました。
平成23年4月29日(金)
本間 香