月見団子眉間挟み選手権
中秋の名月に因んで『第一回月見団子眉間挟み選手権』が開催されました。
申し遅れました。私は『お月見案内人』のバニー月山と申します。この選手権は眉間の皺に挟む月見団子の量を競うものであります。
日頃、眉間に皺を寄せることの多い皆様が多数、ご参加されました。
その昔、まつ毛にマッチ棒が何本載るのかで長さと保持力を競う遊びがございましたが、こちらは、眉間の皺の深さと保持力を競うものでございます。ご紹介致しますのは、優勝者の東音寺シズコ様(六十歳)に関するログでございます。
「皺の深さ十八ミリ。では、開始してください」
テーブルの前に座ったシズコ様は、優雅な手付きで積み上げられた直径二センチほどの月見団子の一つを手に取ると、眉間に刻まれた深い皺の谷間に押し込みました。皺は何層にも折り重なっているようです。
続いて、二個目を上から軽く押さえるように重ねると、皺は自ら団子を抱き込むように閉じ、もう一つ、更にもう一つと、見る見るうちに十五個の月見団子のうち十個が、眉間に収まっていきました。
殆どの参加者が、一個を挟めるかどうかという状況の中、これはもう、文句無しの優勝です。他の参加者は、言葉もなく呆気に取られておりました。
静まり返った会場。
「優勝! 東音寺シズコ様!」
私が、左手でシズコ様の右手を取り、高く掲げて宣言しますと、ようやく歓声が上がり、シズコ様は立ち上がり、皆様にカーテシーをなさいました。
手を掲げた時、シズコ様の指先から微かに鉄の臭いがした気がします。
「では、優勝インタビューです。東音寺シズコ様、おめでとうございます! これほどまでに、眉間の皺に深さと保持力を持たれた方は、そういらっしゃらないかと思いますが、その深い皺は生まれつきお持ちだったのでしょうか」
短い沈黙があった。
「とんでもございませんわ。こちらが私の幼少期の写真なのですが」
と言って、何故かご用意されていた、大変な美少女であった頃のお写真をご披露なさいました。観衆から溜息が漏れます。
つるりと秀でて美しく白い額。眉間には皺の「し」の字もありません。
「お美しかったのですね」
言ってから、それは、現在は美しくないと言っているのと同義だと気が付き、続けました。
「今もお美しいでs……」
言いかけたのを遮って、シズコ様はビシャリと仰いました。
「いいえ、もう美しくはありません。十代の時、親に決められた許嫁に嫁ぎましたが、
夫には既に事実婚の相手がおり、私は長い年月、辛酸を舐めさせられました。だから、夫と、あの女……いえ、何でもございませんわ」
「それで、お顔が……。いや、失礼」
「いえ、その通りです。眉間に皺を寄せることがあまりにも多かったので、このような顔になりましたの」
シズコ様は悲しそうに目を伏せましたが、その口元は微かに緩んで、皺の奥が一段と昏く深く影を作りました。
次の瞬間に顔を上げ、晴々と笑顔になります。
「でも、今夜、苦しみから解放されましたわ。だから、浮かれてこのような場所に参りましたの」
シズコ様は、般若面のようなお顔で微笑まれました。
その時、パトカーのサイレンが鳴り、会場は騒然となりました。どやどやと踏み込んで来る警官たち。
「東音寺シズコだな。今夜、発生した殺人事件の容疑者として逮捕する。現場に残された月見団子の容器と包丁から、あなたの指紋が検出された」
あーはっはっは!
シズコ様の高笑いが満月のもと響き、緊張の緩んだ眉間から、月見団子がポロポロと地面に転がります。月の光に白く輝く団子。
私はただ、小さな白い団子を見つめておりました。満月は、やはり恐ろしい。
これが『第一回月見団子眉間挟み選手権』のログでございます。
主催者は、第二回以降の開催を思案中とのことですが、人生に眉間の皺を深くする出来事は多々あり、かくいう私も、日々その深度を増しております。現在深さ十五ミリ。いつか選手として、この場所に立つ日が来るのかもしれません。
了




