私は一般人です!
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
どうしてこうなった。
王城、舞踏会、豪華なドレス、高級ドリンク。
平民である私には、何一つ縁が無いはずなのに。
朝起きたら、王宮から馬車が来て、御同行をと言われた。平民の家に、王宮の馬車が。
断れるわけないだろうが!
こちとら一般人ですから!
王宮に到着すると、採寸して、風呂に入れられ、オイルマッサージされる始末。
あれは気持ちよかったぁ。
って、そうじゃない!
そこからは着付け、手直し、また着付け。地獄なのはコルセット。今も内臓飛び出そうだよ!
で、この状況。
いったい何なの……。
私は今、この国の王子に腰へ手を添えられている。
気持ち悪い。
そして──
「マリー・フォンテグラス! 本日をもって、お前との婚約を破棄する!」
「は?」
思わず声が漏れた。
私の呟きは聞こえなかったのか、王子はさらに続ける。
「さらに、ここにいるアイリーを迫害した罪により、犯罪者として投獄する!」
「……」
あまりの発言に惚けてしまう。
なぜなら、そんな事実など一度も無いし、むしろマリー様には助けてもらった記憶しかない。主に、この王子から。
何度でも言おう。
私は一般人の平民である。
何でその平民が王族なんぞに嫁ぐんだよ。
王妃なめんな!
……恋人はいないけどさ。
でも、自分の結婚は自分で決めるわ、王子。
脳内で毒を吐いていると、マリー様が口元を扇子で隠した。
あれは相当怒ってる……。
あ、扇子に二本指。
喋るなってことですね。
はいはい。
「証拠はございますの?」
マリー様の問いに、王子は余裕たっぷりに口を開く。
それにしても、いちいち抱きつこうとすんな、この王子。
バレないように避けるの面倒くさいんだよ。
「当たり前だろう。証拠も証人ももちろんある」
「……中身は確認なさいましたの?」
マリー様の声が一段低くなる。
あ、扇子が折れそう。
今まで器用に折らないよう力加減していたのに。
相当怒ってるなぁ。
扇子が可哀想。
あっ、睨まれた。怖い。
「ふっ、そんな必要は無いさ。僕の部下は有能だからね」
ああ、この王子、うざいなぁ。
殴りそう。
指三本。
我慢しろね。
はいはい、わかってますよ。
……我慢してると余計ムカついて拳が震えるな。
でも、私の事理解してくれてるマリー様、ほんと好き♡
「それに見ろ! このアイリーの怯えた姿を! 小動物みたいで愛らしい彼女に与えた罪を物語っているじゃないか!」
きっしょ!
ほんときっしょ!
こいつ何様?
ああ、この国の王子か。
この国終わってんな。
あ、扇子畳んだ。
時間稼ぎ完了か。
ついに私の出番ですね。
「あの……」
「彼女は私と生きる。そして──」
「おーい」
「彼女とともに」
「もしもーし」
「この国を」
「聞いてください」
「幸せな国にすると」
「伴侶の話は聞こうか」
「約束しよう!」
大勢の前で何を勝手に約束しとんねん!
「聞け!」
思い切り頬を引っぱたいた。
乾いた音が響き渡る。
会場が静まり返った。
「な、何をするんだ、アイリー!」
「そういうプレーは二人っきりの時にしてくれ!」
「……気持ち悪い」
心の底から本音が漏れた。
「殿下。私はそのような事実は無かったと宣言させていただきます」
会場中の視線が私に集まる。
「ならびに、私は平民ですので、一国の王子と結婚するなど、あってはならないことです」
「だ、だが! 私達は愛し合っているじゃないか!」
「……はぁ?」
「ひっ!」
王子から視線を逸らし、会場の一角を見る。
そこにいる人物へ問いかけた。
「……あの、よろしいですよね?」
その人物は扇子を開いた。
添えられた指はゼロ本。
よし。
私は王子へ向き直る。
にこっ。
私の笑顔に王子の顔がほころんだ。
歯を食いしばれや!
再び頬へ一発。
クリーンヒット。
「ぐはっ!? な、何を……」
私は胸ぐらを掴み上げた。
「よーく聞きなさい」
王子の顔が青くなる。
「一つ目」
私はマリー様を指差す。
「私とマリー様は幼馴染の親友です。これ以上侮辱したら潰します」
視線を股間へ落とす。
王子が慌てて隠した。
「二つ目」
拳を握る。
「私があなたを好きだったことは、私の十八年人生において一秒たりともございません」
「ぐっ……」
「三つ目」
顔を寄せる。
「好きだ好きだ言うなら、好きな人の話くらい聞け」
「うっ……」
「四つ目、五つ目、六つ目……」
あ、王子が萎んできた。
だんだん楽しくなってきたわ。
でも、そろそろ終わりだな。
「最後に」
私は手を離した。
「婚約者でもない女性に触れないでください。普通に気持ち悪いです」
沈黙。
うん、そりゃそうだろうな。
一国の王子に平民が百発近い暴言を吐いたんだから。
でも公認だしね。
こんな機会、一生に一度だろうから全力でやらせてもらった。
そして、その沈黙を一人の笑い声が破った。
「はっはっはっはっは!」
「ち、父上!?」
国王陛下だった。
「マリー嬢、アイリー嬢。茶番に付き合わせて済まなかったな」
私はマリー様に教わった通り、一礼する。
習っておいて良かった。
「さて、見てわかる通り、愚息が想い人に振られたらしい」
会場が爆笑に包まれた。
王様も怒ってるなぁ。
でも、あんたの育て方が悪かったのも原因だからね?
言えないけど。
「馬鹿息子」
国王陛下は笑顔で告げた。
「お前には謹慎を命じる」
「は、はい……」
「加えて王太子教育を最初からやり直しだ」
「そんな……」
「さらに」
国王陛下の笑顔が深まる。
「王太子の資格を剥奪する」
「そ、そんな! 父上!」
「ああ、安心しろ」
国王陛下は肩を叩いた。
「恋愛小説の読みすぎで頭がおかしくなっただけだ。治れば考えてやる」
「父上ぇぇぇぇぇぇっ!!」
手を伸ばしながら許しを請う王子。
それを無視して――
パタン。
扇子が閉じる音。
全員の視線がそちらへ向く。
そこには、一人の女性がいた。
「母上……?」
王妃はゆっくりと立ち上がる。
優雅な所作。
けれど、その瞳からは温度が消えていた。
「王子」
静かな声だった。
しかし、王子の肩が跳ねる。
「私は貴方に何度申し上げましたか?」
「え……?」
「女性の話を聞きなさい」
「……」
「立場で人を判断してはいけない」
「……」
「証拠は自分の目で確かめなさい」
「……」
「婚約者を大切になさい」
一つ言われるたびに王子の首が縮んでいく。
会場も静まり返っていた。
「全て、幼い頃から教えてまいりました」
王妃は微笑んだ。
笑っている。
笑っているのに怖い。
マリー様より怖い。
「なるほど」
王妃は小さく頷く。
「つまり貴方は」
王子が一歩下がった。
「私の授業中に寝ていましたのね」
会場の空気が凍った。
「ち、違っ」
「違いません」
即答だった。
「アイリー嬢」
「は、はい」
「先程の続きをどうぞ」
「え?」
「まだ八十項目ほど残っておりましたでしょう?」
会場が爆笑した。
王子の顔から血の気が引く。
「母上ぁぁぁぁぁっ!?」
その悲鳴を聞きながら、私はようやく肩の力を抜いた。
帰ったら寝よう。
もうコルセット限界だし。
あとできればオイルマッサージだけもう一回受けたい。
私は一般人ですから!
お読み頂き、ありがとうございます。
まともな国なら、こんな|馬鹿王子(名はない)、消されますよね笑
日本って、平和だな〜笑




