第14話 雪華の再戦
Crown Coliseumの第一試合アリーナは、広大な浮遊廃墟マップ「Sky Ruins」に設定されていた。
無数の崩れた高層ビルが浮かび、強風が吹き荒れる空間。地面はなく、足場は崩壊した屋上や浮遊するコンクリート片だけ。遠くに雷雲が渦巻き、時折稲妻が光を走らせる。雨はまだ降り続いており、銀髪を激しく濡らしていた。
Rei Phantomは、一つの浮遊屋上に伏せ、Void Railgunを構えていた。
雪華は、約1800メートル離れた別の浮遊タワーの屋上にいた。白いタクティカルスーツが風に翻り、長い黒髪がポニーテールになって激しく舞っている。手に持つFrostbiteのスコープが、零を正確に捉えていた。
二人の視線が、長い距離を超えて交錯した。
零の義眼の赤い十字が、激しく輝く。
雪華の青い瞳が、冷たく、しかし熱を帯びて零を見つめる。
アナウンスがアリーナ全体に響き渡る。
「Bullet Crown本戦 第一試合!
Rei Phantom vs 雪華!
開始!」
瞬間、雪華が動いた。
ヴゥン……!
Frostbiteの高周波射撃音。精密に調整された弾が、強風の中で弧を描きながら零の位置へ飛んでくる。
零は義眼の0.3秒先読みで弾道を「視」て、わずかに体をずらした。弾がすぐ横のコンクリートを削り、破片が雨に混じって飛び散る。
零は即座に反撃した。
ヴゥゥゥン……!
Void Railgunの重く低いエネルギーうなり。反物質弾が雨を切り裂き、雪華の位置へ飛ぶ。
雪華は予測していたかのように体を滑らせ、弾をかわした。反物質弾は彼女の背後の浮遊ブロックを蒸発させ、空間に黒い穴を開けた。
二人の戦いは、即座に極限の心理戦へと移行した。
零は伏射姿勢を保ったまま、風速・湿度・気温を頭の中で計算し続ける。
Void Railgunの反動は非常に強く、肩に重い衝撃が残る。反物質弾の「無への還元」効果は強力だが、連射は不可能に近い。一発一発が命を懸けた一撃必殺だ。
雪華のFrostbiteは軽量で連射性が高く、風の影響を高度に補正する。通常弾を使用するためVoid Railgunのような貫通力はないが、精密さと速度で零を追い詰めようとしていた。
ヴゥン! ヴゥン! ヴゥン!
雪華の三連射。風を読み、零の動きを予測した調整射撃。
零は低く移動しながらかわし、即座にVoid Railgunで応射した。
ヴゥゥゥン……!
反物質弾が雪華の遮蔽物を貫通し、彼女の左肩をかすめる。雪華のHPが減少するエフェクトが遠くに見えた。
雪華の声が、チャットではなく直接零の耳に届く。
【雪華】「前より速くなったわね。義眼の力……本気で使ってるの?」
零は無言で応じた。言葉はいらない。この対決は、弾道で語るものだ。
戦いは長く続き、二人は浮遊する屋上から屋上へ、互いの位置を予測しながら撃ち合う。
強風が弾道を複雑に変化させ、雨が視界を悪くするたび、零の義眼が0.3秒の先を「視る」。
零の心に、複雑な感情が渦巻く。
雪華は強い。
風の読みが零に匹敵し、反射神経も卓越している。
しかし、零には義眼がある。死に際のスローモーションが、相手のわずかな動きの「先」を教えてくれる。
ヴゥゥゥン!
零の五射目。
風の変化を完全に読み切り、雪華の隠れた遮蔽物を貫通した。
直撃。
雪華のHPが一気に40%減少。彼女の体がわずかによろめくのが、スコープ越しに見えた。
雪華の声が、再び響く。
【雪華】「やるじゃない……でも、まだよ」
雪華が大胆に動き、別の浮遊タワーへ素早く移動した。
零も即座に追従し、Void Railgunを構え直す。
距離が少し縮まり、約1300メートル。
風が一瞬、止んだような静けさ。
その刹那、二人は同時にトリガーを引いた。
ヴゥゥゥン! ヴゥン!
二つの弾が、空中で交錯するような錯覚。
零の反物質弾が雪華の右腕を直撃。
雪華の弾が零の左肩をかすめ、HPを22%削る。
痛みが仮想神経を焼く。
零は歯を食いしばった。
この痛みさえ、心地いい。生きている証だ。
雪華が初めて、声に出して笑ったように見えた。
【雪華】「あなた、本当に強い。予選の時より、明らかに成長しているわ」
零は小さく息を吐いた。
——成長。
そうだ。この戦いが、零を強くしている。
しかし、戦いが長引くにつれ、義眼の異変が深刻になっていた。
0.3秒の先読みが、時折1.2秒近くまで伸びる。視界が現実と仮想で激しく切り替わり、頭痛のような痛みが脳を襲う。
零は歯を食いしばった。
——まだ、持て。
雪華が再び動き、零の死角へ回り込もうとする。
零は低く身を翻し、USP二挺を抜いて接近戦に移行した。
パン! パン! パン! パン!
サイレンサー付きの小さな乾いた音が雨に紛れる。二刀流の高速連射。9mm弾が雪華の位置へ飛ぶ。
雪華はFrostbiteを構え直し、近距離戦にも対応しようとする。
二人の距離が急速に縮まる。
1200メートル → 800メートル → 500メートル……
零の心臓が激しく鳴る。
この緊張。この鼓動。この痛み。
現実では味わえなかった、極限の戦いの昂ぶり。
雪華の青い瞳が、零を捉える。
【雪華】「来なさい、Rei Phantom。本気を見せて」
零は無言でUSPを構え直した。
二人の戦いは、ついに接近戦の領域に入ろうとしていた。
雨が激しく降り、風が二人の銀髪と黒髪を激しく舞わせる。
仮想の銃姫と天才スナイパーの再戦は、頂点を目指す苛烈な戦いの幕開けとなった。
義眼の赤い十字が、雨の中で激しく輝き続けていた。
(第14話 終)




