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『バレット・ファントム ~仮想銃姫の覚醒~』  作者: 蒼狐
第1部 新人狩り

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12/24

第12話 王冠への第一歩

 Collapsed Highwayの雨は、ついに止み始めていた。


 Rei Phantom——星野零は、高架橋の最上部、崩壊した展望台のような場所に立っていた。

 銀髪が湿った風にゆっくりと揺れ、雨水がまだ滴り落ちる。冷たい風が頰を撫で、湿ったコンクリートと硝煙の残り香が鼻をくすぐる。遠くの雷鳴が低く響き、薄い光が灰色の空に差していた。


 予選最終戦は、ようやく終わりを迎えようとしていた。


 零のHPは残り12%。瀕死に近い状態だった。左腕は雪華のスナイプで深く抉られ、右肩はガルドの重機関銃で焼けるような痛みが残っている。両手のH&K USP「Phantom Edge」は熱を帯び、グリップが指に張り付くように感じられる。


 周囲には、倒れた敵の死体が無数に転がっていた。

 雪華は重傷を負いながらも撤退し、ガルドは最後の突進で零に敗れた。チーム「Storm Edge」の面々も、生き残った者と散り散りになった者で分かれていた。


 零はゆっくりと息を吐いた。


 義眼の赤い十字が、激しく明滅を続けている。

 0.3秒の先読みは、今や0.8秒近くまで伸び、視界が現実と仮想で激しく切り替わる。Neuro Linkerの接続が、脳の深部まで深く食い込んでいるような圧迫感が、絶え間なく零を襲っていた。


 ——もう、限界かも。


 その思いが、胸の奥を冷たく締め付ける。


 しかし、同時に、強い充足感が零を満たしていた。


 新人として強制エントリーされ、雪華というライバルと出会い、ガルドという壁を越え、チームの影に少しだけ寄りかかりながら、ここまで生き残った。


 零はゆっくりと膝をつき、崩れた手すりに背を預けた。


 銀髪が風に舞い、雨の残り香を纏う。


 システムメッセージが視界に大きく表示された。


 【予選最終戦 生存者確定】

 【Rei Phantom 生存順位:1位】

 【Bullet Crown本戦への進出が確定しました】


 零は無言でそのメッセージを見つめた。


 王冠への第一歩。


 公式大会「Bullet Crown」の本戦へ進むことが、正式に決まった瞬間だった。


 チャットが爆発的に流れ始めた。


【Phantomが予選1位通過!?】

【新人なのに強制エントリーから本戦直行とか化け物すぎる】

【雪華とガルドを同時に相手にして勝ち残るとか、マジかよ……】

【一瞬の幽霊、本当に幽霊だったな】


 零はチャットを閉じた。


 まだ、誰とも話したくない。

 ただ、撃ち続けたい。この世界で、失ったものを取り戻したい。


 しかし、義眼の疼きは限界を超えていた。


 視界が激しく歪む。


 現実の部屋が、はっきりと重なる。


 ベッドの上に横たわる自分の体。右目の義眼が異常に熱を持ち、光っている。Neuro Linkerの接続ランプが異常な速さで点滅している。

 零の現実の脳が、ゲームの深層に引きずり込まれているような——危険な予感。


 零は頭を抱え、歯を食いしばった。


 ——まだ、来るな。


 現実と仮想の境界が、ゆっくりと、しかし確実に崩れ始めていた。


 そのとき、遠くの高架橋の影に、黒い人影が一瞬だけ現れた。


 【Null】


 謎の黒幕は、静かに零の成長を観測し続けていた。


 零はゆっくりと立ち上がり、空を見上げた。


 灰色の空に、薄い光が差している。


 銀髪の少女は、静かに呟いた。


 「……王冠へ」


 仮想の銃姫は、予選を突破した今、本当の戦いの舞台へと足を踏み出そうとしていた。


 義眼の赤い十字が、雨上がりの空の下で、静かに——そして強く——輝き続けていた。


(第12話 終わり)

 お読みいただき、ありがとうございます。 第1部「新人狩り」はここで一旦完結となります。 星野零(Rei Phantom)は、引きこもりで右目を失った少女から、仮想世界で「一瞬の幽霊」と呼ばれる存在へと覚醒しました。

 初心者エリアでの初戦闘から始まり、Void Railgunのアンロック、雪華とのスナイプ対決、ガルドの壁を越える接近戦、そして強制エントリーされた予選最終戦での三つ巴——零は孤独と戦いながら、少しずつ「信じる」可能性に触れ始めました。 この第1部では、リアルな銃器描写(USPの反動とサイレンサー、Void Railgunの重い発射音など)と、零の繊細な感情(恐怖、高揚、トラウマ、微かな信頼の揺らぎ)を丁寧に描くことを心がけました。

 特に義眼の異変と現実と仮想の境界が崩れ始める描写は、第2部以降の大きな鍵となります。 零はまだ「信じられない」と言いながらも、チームの影に少しだけ寄りかかり、雪華というライバルを得ました。

 しかし、謎の存在「Null」の影は、静かに彼女を観測し続けています。 第2部「弾道の女王」では、公式大会本戦が始まり、零の能力がさらに開花すると同時に、現実とゲームの境界がより危険な形で崩れ始めます。

 零は「撃つ」ことだけでなく、「信じる」こと、そして「生きる」ことと向き合っていくことになります。 ここまでお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございます。 零の弾は、まだ止まりません。 第2部でお会いしましょう。 次の戦場は、もっと苛烈です。

作者:由希丸

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