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『バレット・ファントム ~仮想銃姫の覚醒~』  作者: 蒼狐
第1部 新人狩り

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第11話 予選最終戦

 Collapsed Highwayの空は、まるで世界の終わりを予感させるように暗く垂れ込めていた。


 Rei Phantom——星野零は、高架橋の中央部に位置する広大な交差点で、息を殺していた。

 冷たい雨が銀髪をびしょ濡れにし、額から頰、首筋へと滑り落ちる。唇に触れる雨水は無味だが、湿ったコンクリート、錆びた鉄、硝煙の残り香が混じった空気が肺の奥まで染み込み、息苦しさを増幅させる。タクティカルスーツの生地が体にべっとりと張り付き、雨水が隙間から染み込んで肌を冷やし、仮想の神経を震わせる。


 左目に浮かぶ義眼の赤い十字が、激しく明滅を繰り返していた。

 0.3秒の先読みが、世界を極端にスローモーションに落とす。視界の端が歪み、現実の薄暗い自室——ベッドに横たわる自分の体、Neuro Linkerのヘッドギアが頭に食い込む圧迫感——が、重なるようにちらつく。右目の義眼が、現実世界でも熱を持っているような疼きが、脳の奥深くまで響く。


 予選最終戦は、大規模バトルロイヤル形式で進行していた。

 生き残り上位のみが本戦へ進む。参加者はすでに大幅に減少し、残るは強者ばかり。雨と崩壊した高架橋が視界を悪くし、足音を掻き消す。隠れる場所は無数にあるが、逆に敵も無数に潜んでいる。


 零は二挺のH&K USP「Phantom Edge」をホルスターからゆっくり抜き、構えた。

 背中にはVoid Railgunを固定し、いつでも遠距離戦に移行できる。銀髪が風に乱れ、雨水が滴り落ちるたび、視界がわずかにぼやける。


 心臓の鼓動が、雨音に混じって耳の奥で大きく響く。


 チーム「Storm Edge」はすでに散り散りになっていた。

 Tankは重傷を負い、Lilyは零を守るために離脱を余儀なくされた。零は再び一人になっていた。


 ——結局、一人か。


 その事実が、胸に冷たい痛みを呼び起こす。


 しかし、今はそれどころではなかった。


 前方と左右から、強大な気配が同時に迫っていた。


 一つは天才スナイパー・雪華。

 もう一つは巨漢タンク・ガルド。


 三つ巴の最終戦が、始まろうとしていた。


 零の義眼が激しく反応した。


 0.3秒の先読みが、雪華のスナイプ位置とガルドの突進ルートを同時に「視る」。


 まず、遠くの高架橋上層から、鋭い閃光が走った。


 ヴゥン……!


 Frostbiteの高周波射撃音。雪華の弾が雨を切り裂き、零の位置へ飛んでくる。


 零は即座に低く身を翻し、弾をかわした。コンクリートの破片が飛び散る。


 同時に、地面が震えた。


 ドン……ドン……ドン……


 ガルドの重い足音。巨体がシールドを構え、重機関銃「Gatling Crusher」を回転させながら突進してくる。


 ガガガガガガッ!!


 重機関銃の猛烈な連射音が雨を圧倒する。大型弾が零の周囲を蜂の巣にし、跳弾が耳元を鋭くかすめる。


 零の心臓が激しく鳴る。


 この状況。この三つ巴。


 恐怖と高揚が同時に胸を埋め尽くす。


 ——怖い。


 しかし、同時に——燃えている。


 現実では味わえなかった、極限の戦いの昂ぶり。

 零は歯を食いしばり、冷たい微笑を浮かべた。


 「来い……両方とも!」


 彼女は低くダッシュし、まずガルドの正面に飛び出した。


 二挺のUSPを構え、至近距離で猛烈な連射を開始した。


 パン! パン! パン! パン! パン! パン!


 サイレンサー付きの小さな乾いた音が雨に紛れる。9mm弾がガルドの装甲の継ぎ目に集中する。装甲にヒビが入り、HPが少しずつ減少する。


 ガルドが怒りの咆哮を上げた。


「またお前か、小娘!」


 彼はシールドを振り回し、零を薙ぎ払おうとする。


 零は低く滑り込み、ガルドの死角へ回り込んだ。


 その瞬間、雪華の第二射が飛んできた。


 ヴゥン!


 精密な調整射撃。零の動きを予測した弾道。


 零は義眼の0.3秒先読みで弾道を「視」て、ギリギリでかわした。破片が肩をかすめ、痛みが走る。


 零は即座にVoid Railgunを構え直し、雪華の位置へ反撃した。


 ヴゥゥゥン……!


 重く低いエネルギーうなり。反物質弾が雨を貫き、雪華の遮蔽物を貫通する。


 雪華のHPが減少するエフェクトが遠くに見えた。


 三つ巴の乱戦は、ますます激しさを増していく。


 ガルドの重機関銃が零を狙い、雪華のスナイプが零の動きを制限し、零は二刀流と長距離の一撃を交互に使いながら両者を翻弄する。


 雨が激しく降り、跳弾がアスファルトを跳ね、硝煙の臭いが雨に混じる。


 零の息が荒くなる。銀髪が濡れて顔に張り付き、視界をわずかに邪魔する。左目に浮かぶ赤い十字が激しく明滅し、義眼の疼きが頭痛のように強くなる。


 現実の記憶が、何度もフラッシュバックする。


 事故の瞬間。血の匂い。右目の痛み。仲間たちの叫び。


 ここでは違う。


 ここでは、撃てる。勝てる。生きられる。


 しかし、戦いが長引くにつれ、義眼の異変が深刻になっていた。


 0.3秒の先読みが、時折0.7秒近くまで伸びる。視界が現実と仮想で激しく切り替わる。Neuro Linkerの接続が、脳の深部まで深く食い込んでいるような圧迫感。


 零は歯を食いしばった。


 ——まだ、持て。


 ガルドが再び突進してくる。


 ガガガガガガッ!!


 重機関銃の弾の嵐。


 零は低く身を翻し、ガルドの懐に飛び込んだ。


 二挺のUSPを同時に押しつけ、トリガーを引き続ける。


 パン! パン! パン! パン! パン! パン! パン!


 高速連射。9mm弾が装甲の隙間をえぐる。


 ガルドの巨体が大きくよろめく。


 その隙を、雪華が狙った。


 ヴゥン! ヴゥン!


 二連射の精密スナイプ。零の動きを完全に予測した弾道。


 零は義眼の先読みでギリギリで回避したが、片方の弾が左腕を直撃。HPが急激に減少する。


 痛みが脳を焼く。


 零の視界が一瞬、真っ白になった。


 ——痛い。


 この痛みさえ、今は生きている証。


 零は最後の力を振り絞り、Void Railgunを構え直した。


 ヴゥゥゥン……!


 反物質弾が雨を貫き、雪華の位置へ飛ぶ。


 雪華はかわしたが、弾は彼女の遮蔽物を貫通し、HPを大きく削った。


 三つ巴の戦いは、互いにHPを削り合いながら、極限まで続いた。


 零の心に、複雑な感情が渦巻く。


 孤独だったはずの戦いに、雪華というライバルと、ガルドという強敵、そしてわずかに芽生えたチームの影。


 すべてが、零を強くし、同時に脆くもしている。


 義眼の疼きが、限界を超える。


 視界が激しく歪み、現実の部屋が強く重なる。


 零は頭を抱えながらも、USPを構え直した。


 ——まだ、終わらない。


 雨は激しく降り続け、予選最終戦はクライマックスを迎えようとしていた。


 銀髪の銃姫は、激しい感情の渦の中で、静かに次の弾を装填した。


(第11話 終わり)

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