『ゲブラ・マグラ』抄
気が付くと、私は、真っ白に塗り固められた部屋の、真っ白なベッドの上に、座り込んでいた。
天井で、ゆっくりと旋廻するプロペラ。
鏡に映る私の姿は、やせ細り、頭もキレイに刈り込まれた、ミイラのような男だった。
ブツ、ブツ、ブツ。
何かを呟いているようであるが、此処からは聞き取れない。
口内で、舌を這わせてみた。
半分近くの歯が、どこかに出かけてしまったらしく、不在であった。
「やあ、ようやくお目覚めかい。24号君」
白が崩壊したこの部屋に、白衣を着た白髪の男が入ってきた。黄ばんだ白い歯を見せながら、私という白い容器に話しかけた。
「……ここは、どこでしょうか?」
「さて、どこだろうね?」
「私は、夢の中にでもいるのでしょうか。どうにも現実味がないのですが」
「ほぉ、夢の中ときたか……たしかに君の場合、夢と現実の境界があやふやになっている可能性もありそうではあるが」
「これが現実だというのなら、なんとも奇妙な現実ですね」
◇
その後も、また別の白衣の医師が、代わる代わるに現れ、私にいくつかの質問を重ねた。私は、そのひとつひとつに、丁寧に答え、その日を終えることとなった。
どうやら私は、なにか重大な罪を犯してしまったらしかった。だが、それと同時に、記憶に大きな欠損があった。自分自身の名すらも、思い出せずにいた。―― いや、これに関しては<24号>という新たな名が与えられたのだから、何の不自由もないわけであるが。
◇
―― その夜、私は夢を見た。
夢の中の夢。マイナスとマイナスを掛ければ、プラスになるというのであらば、あるいはそれが現実か?
夢の中の、見知らぬ私が、何人かの見知らぬ他人と歓談し、その後、そいつらを皆殺しにした。
◇
ぐぉーん、ぐぉん、ぐぉん……。
今日は、やけに天井のプロペラがうるさい。
いよいよ、寿命なのかもしれない。
何か、螺旋状のものが、頭の中でもグラグラと這いずり回っている。
「検査の結果、君は多重人格的で、また極めて衝動性の高い人物であると、我々は判断したよ」
「……そうですか」
「これなら無罪も勝ち取れるかもしれないね。一生ここにいることにはなるのだが」
「無罪とは、いったい何のことでしょうか。記憶といっしょに、その罪とやら自体も、共に消失しているはずでは?」
「たしかに君自身には、何の罪もないのかもしれない。しかし、また別の君が今回の犯行をしっかりと覚えていて、また認めてもいるからね」
「……なるほど」
「なーに、ここでの生活もそう悪いものではないさ。ここでは人権がない分、人間としても義務も発生しないのだから。君はまさにこの白い自由を白い絵の具で塗り替えることが許された、自由人というわけさ」
「人権がないのに、自由人とは、これまた奇妙な喩えですね」
「おっとこれは一本取られてしまったな。はっはっはっ」
「なるほど、それでは私はこの白い部屋で、白以外の絵具を調達するために、まずはひと仕事といったところですね」
私は、すっと立ち上がり、白衣を着た、青白い男の細い首を、とりあえず、コキっと一捻りした。さて、この白いチューブの中にある、赤の絵の具をどうやって取り出したものだろうか?
夢野久作の『ドグラ・マグラ』の「概要」だけを読み、想像だけで書いてみた模造短編。言語生成AIにオーダーして小説を書かせる行為のちょうど逆。AIから概要だけをもらい、想像だけで人間が書いてみるという実験だ。―― プロペラのぐぉんぐぉんの行は、それっぽい出だしだけ、何となく聞いたことがあるような記憶から。違う作品だったらスマン。
さて、実際に『ドグラ・マグラ』を読んだわけではないのだが、どれくらい、その雰囲気を再現出来ているのだろうか?―― 一割でも、かすっていれば、それはそれで大したものであるのだが。
以下、ChatGPTによる『ドグラ・マグラ』概要 ――
舞台と主人公
九州帝大の精神病科病棟で目覚めた「私」が主人公。記憶を失っており、自分が誰か、なぜここにいるのかも分からない。
展開
そこに登場する精神病学の権威・若林博士や正木博士によって、彼は「自分が殺人を犯した可能性がある」と知らされる。また、精神病や遺伝、夢の研究にまつわる膨大な資料(手記・学説・裁判記録)が提示され、「私」の正体や罪が解き明かされるかに見えるが、次々と入れ替わる証言や資料が矛盾し、真実は定まらない。
テーマ
・遺伝による犯罪性の有無
・精神医学と人間の自由意志
・記憶の正体と夢の境界
・人間存在の根本的不確かさ
結末
読者が期待する「謎解き」はついに与えられず、かえって読者自身が精神的迷宮に迷い込むような構造になっています。そのため本作は「探偵小説」であると同時に「精神病理学的実験小説」「前衛文学」とも位置づけられています。