筆影の巨人、海を渡る 第2話:孤独な巨人
作者のかつをです。
第十五章の第2話をお届けします。
今回はこの物語の主人公である孤独な巨人の内面に、深く迫りました。
創造の喜びとその裏側にある深い孤独。
そして人間との出会いが彼にもたらした絶望を描いています。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
巨人は自らが創り上げた多島美の絶景を、一望できる最高の場所を探し求めた。
そして彼が選んだのは海岸線のすぐそば、穏やかな海を見下ろす小高い丘だった。
「……よし。ここに、わしの寝床を作ろう」
彼はまず遠くの山々から巨大な岩石をいくつも運んできて、それを積み上げ丘の高さを増していった。
空に手が届くほどの高さまで。
次に彼は海の底からすくい上げた肥沃な泥土を、その岩山の上にたっぷりと振りかけた。
そして風が運んできた木々の種を、そこに蒔いた。
何千年という時が流れると、不毛の岩山は緑豊かな美しい山へと姿を変えていた。
巨人はその山の頂に腰を下ろし、眼下に広がる自らが創り上げた庭を眺めるのが、何よりの楽しみとなった。
春には山桜が咲き乱れ、夏には蝉の声が賑やかに響き渡る。
秋には木々が燃えるように色づき、冬には時折雪が静かに山を白く染めた。
季節の移ろい。
永遠の時を生きてきた彼にとってそれは初めて感じる、新鮮な驚きであり喜びだった。
だがその喜びと同時に、彼の心にはこれまで感じたことのない新しい感情が芽生え始めていた。
「寂しさ」である。
この美しい景色を、誰かと分かち合いたい。
この感動を誰かに伝えたい。
彼は生まれて初めて、他者を求めていた。
そんなある日のこと。
巨人は山頂から麓の浜辺に、小さな動く点があるのに気づいた。
目を凝らしてみると、それは自分とは比べものにならないほど小さな生き物だった。
二本の足で立ち火を使い、粗末な小屋を建てて暮らしている。
「人間」だった。
巨人は興味を惹かれた。
彼は山を下り、その小さな生き物たちに近づいてみようとした。
だが彼の巨大な姿を見た人間たちは、恐怖に慄き蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うだけだった。
「……わしは何もしない。……ただ話がしたいだけだ」
巨人は悲しげに呟いた。
だがその声は人間たちには雷鳴のように聞こえ、ますます彼らを怯えさせるだけだった。
巨人は深く傷ついた。
そして悟った。
自分はこの世界に、受け入れられる存在ではないのだと。
この巨大な身体と力は、ただ他者を怯えさせ遠ざけるだけの呪いなのだと。
彼は愛する山へと戻ると、その頂に仰向けになった。
そして深い深い眠りについた。
もう何も創るまい。
もう誰とも関わるまい。
ただこのまま石のようになって、永遠の眠りにつこう。
巨人の心は深い孤独と絶望に閉ざされてしまった。
彼が愛した多島美の風景が、涙で滲んで見えた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
神話や伝説に登場する巨人や神々は、しばしば人間的な悩みや苦しみを抱えています。
それは古代の人々が偉大な存在の中に、自分たちと同じ心を見ていた証なのかもしれません。
さて、深い眠りについてしまった巨人。
彼の運命はこのまま終わってしまうのでしょうか。
次回、「一夜にして築かれた山」。
(※話数構成案のサブタイトルを、より内容に沿ったものに修正しました)
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