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ひろしま郷土史譚《三原編》~潮風と祈りの物語~  作者: かつを
第4部:悠久の物語 ~土地に眠る伝説と信仰~
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筆影の巨人、海を渡る 第1話:まだ何もない海

作者のかつをです。

 

新しい構成案に基づき、本日より第十五章「筆影の巨人、海を渡る」の連載を開始します。

 

これまでの史実を基にした物語とは趣を変え、今回はこの土地に伝わる創世神話をテーマにした幻想奇譚です。

三原の美しい風景がどのようにして生まれたのか。

その壮大な物語をお楽しみください。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

広島県三原市から尾道市にかけて、瀬戸内海に優美な姿を見せる筆影山ふでかげやま

その連なる峰々は見る角度によって、巨大な仏が仰向けに寝ているように見えることから「寝仏山ねぶつやま」とも呼ばれている。

 

このユニークな地形がどのようにして生まれたのか。

この土地には遠い神話の時代、一人の孤独な巨人がこの風景を創り上げたという壮大な伝説がひっそりと残されている。

 

これはまだ日本という国が形を成さない遥かな太古。

名もなき巨人の視点から、この故郷の原風景の誕生を描く創世の物語である。

 

 

まだ天と地が分かれて間もない頃。

 

世界はただ茫洋とした海と空と、そしていくつかの未分化な陸地が広がるだけの静かな場所だった。

 

その何もない世界を、一人の巨人があてもなくさまよい歩いていた。

 

彼の名はない。

彼がどこから来てどこへ行くのかも、彼自身知らない。

ただ物心ついた時から、彼は一人でこの世界に存在していた。

 

彼の身体は山よりも大きく、その足跡は谷を作った。

彼が退屈しのぎに投げた石は島となり、彼が流した涙は湖となった。

 

彼は孤独だった。

 

話し相手は空を気ままに流れる雲と、足元を寄せては返す波だけ。

時折小さな獣たちが彼の足元を駆け抜けていくが、彼らは皆巨人を恐れすぐに姿を隠してしまう。

 

ある日、巨人は西へ西へと歩き続けた果てに、一つの美しい内海へとたどり着いた。

 

そこは外の荒々しい海とは違い、まるで湖のように穏やかで水面は瑠璃色に輝いていた。

空には暖かな陽光が満ちあふれ、心地よい風が吹いている。

 

巨人はその風景が、一目で気に入った。

 

「……ここを、わしの住処にしよう」

 

彼は生まれて初めて、一つの場所に留まることを決意した。

 

だがそこはあまりにも平坦すぎた。

ただ穏やかな海が広がるだけで、風景に変化がない。

 

「……そうだ。わしがこの景色を、もっと美しいものにしてやろう」

 

巨人は退屈しのぎとそして生まれて初めて感じた創造の喜びのために、壮大な「庭造り」を始めることにした。

 

彼はまず海の底から巨大な岩を掴み上げると、それを一つ海の上に置いた。

次に遠くの陸地から大量の土砂をその巨大な両手ですくい上げ、岩の上に振りかけた。

 

一つの島が生まれた。

 

「……ほう。これは面白い」

 

巨人は夢中になった。

次々と岩を運び土を盛り、思いのままに島々を創り上げていく。

ある島は鯨のように長く。

ある島は亀のように丸く。

 

何百年いや何千年という時間が流れたのか。

彼自身にも分からなかった。

 

やがてその穏やかな内海には、大小様々な美しい島々が点在する多島美の風景が完成していた。

 

巨人はその光景を満足げに眺めていた。

もう孤独ではなかった。

自分が創り上げたこの美しい島々が、彼の話し相手であり家族でもあった。

 

だが彼の創造はまだ終わってはいなかった。

最後に彼はこの美しい庭を一望できる、最高の場所を創ろうと考えていた。

彼自身のための、安息の場所を。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

第十五章、第一話いかがでしたでしょうか。

 

日本各地には「だいだらぼっち」に代表されるような巨人伝説が数多く残されています。

それは古代の人々が理解の及ばない雄大な自然の地形を、神や巨人の仕業として解釈した想像力の産物なのでしょう。

 

さて、美しい庭を創り上げた巨人。

いよいよ彼は自らの安息の地を創り始めます。

それが、あの筆影山となるのです。

 

次回、「孤独な巨人」。

(※話数構成案のサブタイトルを、より内容に沿ったものに修正しました)

 

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