復興のバラック、希望の味 第4話:ささやかな店の灯り
作者のかつをです。
第十三章の第4話をお届けします。
今回は戦後の復興と共に少しずつ変わっていく闇市と人々の暮らしを描きました。
そして、お富さんの蒔いた善意の種が思わぬ形で実を結びます。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
昭和二十年代も半ばを過ぎる頃。
日本の復興は、少しずつ軌道に乗り始めていた。
三原の町にも新しい建物が建ち始め、闇市もかつてのような混沌とした様相から少しずつ整理され、商店街へと姿を変えつつあった。
お富さんの店ももはや、筵の上に鍋を置いただけの店ではなかった。
健さんや正一たちがどこからか集めてきた材木で、小さなバラック建ての店が出来上がっていたのだ。
雨風をしのげる屋根と壁。そしてカウンター代わりの一枚板。
夜には裸電球のぼんやりとした温かい灯りがともる。
それはお富さんにとって空襲で失って以来、自分の「店」であり「城」だった。
メニューもあら汁だけでなく、少しずつ増えていった。
闇市で手に入る様々な食材を使い、お富さんはかつての食堂で出していた懐かしい味を再現しようと努めた。
「お富さん、今日のこの煮込みは絶品だな!」
「……そうかい。よかったよ」
客たちのそんな何気ない一言が、お富さんにとって何よりの喜びだった。
料理を作り、それを美味いと言って食べてくれる人がいる。
その当たり前の日常がどれほど尊いものか。
彼女は戦争で、それを骨身に染みて知っていた。
常連の顔ぶれも少しずつ変わっていった。
片腕の復員兵だった健さんは小さな運送会社を立ち上げ、今では数人の従業員を使う立派な社長になっていた。
戦災孤児だった正一は昼間は健さんの会社で働き、夜は夜学に通い法律の勉強をしているという。
いつか自分のような弱い立場の人々を守れる代書屋になるのが夢だと、彼は照れくさそうに語った。
あの若い母親も子供たちを立派に育て上げ、今は町の工場でパートとして働いている。
誰もがそれぞれの場所で、必死に前を向いて歩き始めていた。
お富さんの店はそんな彼らが一日の疲れを癒し、そして明日への活力を得るための変わらない帰る場所であり続けた。
ある冬の寒い夜。
珍しく客が途絶えお富さんが一人で店じまいをしていると、戸口に一人の見慣れない紳士が立っていた。
年の頃は三十代半ばか。
上等な背広を身にまとい、その顔には見覚えがあった。
「……あのう、おばちゃん。……もしかして昔、この辺りであら汁屋をやっとらんかったかい?」
男はおずおずと尋ねた。
お富さんはしばらく男の顔をじっと見つめていた。
そしてその瞳の奥に、かつての泣き虫の少年の面影を見つけ出した。
「……お前さん。……もしかしてあの時の坊やか……」
男は泣き出しそうな顔で、何度も何度も頷いた。
それは十数年前、お富さんの優しさに救われたあの若い強盗だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
闇市から商店街へ。
それは戦後の日本が混沌から秩序へと移行していく、象徴的なプロセスでした。
その一つ一つの店の灯りの下にはきっと、お富さんのような物語があったことでしょう。
さて、思いがけない再会を果たしたお富さん。
彼女の人生にも少しずつ変化の時が訪れます。
次回、「復興の槌音」。
物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!




