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ひろしま郷土史譚《三原編》~潮風と祈りの物語~  作者: かつを
第1部:礎の物語 ~城と人が町を創る~
7/16

蛸が引いた石 第7話:天主台、立つ

作者のかつをです。

第一章の第7話、クライマックスです。

 

幾多の困難を乗り越え、ついに、彼らの仕事が形となる瞬間。

名もなき職人たちが、最も輝いた時を、感動的に描きました。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

唄が、浜辺に響き始めてから、幾月が過ぎただろうか。

源蔵たちの顔は、潮と陽に焼かれ、精悍さを増していた。

そして、彼らの目の前の海には、信じられない光景が、広がっていた。

 

石垣が、ついに、海の上に、その姿を現したのだ。

最初は、満潮時には隠れてしまうほどの、小さな石の列。

しかし、それは、確実に、日を追うごとに、高く、そして雄々しくなっていった。

 

彼らは、成し遂げたのだ。

あの底なしの海に、決して沈むことのない、巨大な石の土台を、築き上げた。

 

そして、運命の日がやってくる。

城の中心、天主台の、最後の石が、積み上げられる日だ。

 

その日、浜辺には、再び、小早川隆景が姿を現した。

彼は、小舟に乗ると、完成したばかりの石垣へと、近づいていった。

水面に映る、見事な石垣。

その一つ一つに、職人たちの汗と、想いが染み込んでいる。

 

隆景は、船の上から、満足げに頷いた。

 

「見事だ……。これぞ、わしが夢見た、海の城の礎よ」

 

彼は、陸でその様子を見守る、源蔵たちの方を振り返り、高らかに、告げた。

 

「皆の者、大儀であった! この石垣は、未来永劫、この三原の地を守る、毛利の誇りとなるであろう! お前たちの働き、わしは、生涯、忘れぬ!」

 

その言葉に、どっと、歓声が上がった。

男たちは、皆、泥と汗にまみれた顔で、泣き、笑い、互いの肩を叩き合った。

 

源蔵も、込み上げてくる熱いものを、抑えることができなかった。

あの日の、絶望。

嵐の夜の、恐怖。

その全てが、報われた気がした。

 

自分は、ただの石工だ。

だが、この、日本のどこにもない、海に浮かぶ城の、一番下の石を、確かに、この手で積んだのだ。

その誇りが、彼の胸を、熱く満たしていた。

天主台の石垣は、まるで、彼らの勝利を讃えるかのように、西日に照らされ、黄金色に輝いていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

三原城の天主台は、日本城郭史上、最大級の規模を誇ったと言われています。

残念ながら、明治時代に取り壊されてしまいましたが、その巨大な石垣は、今も、新幹線のホームから、間近に見ることができます。

 

さて、ついに完成した、海の城の礎。

この物語も、いよいよ、最終話を迎えます。

 

次回、「潮風に響く鬨の声(終)」。

彼らが築いたものが、現代にどう繋がっていくのか。

 

物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。

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この物語の公式サイトを立ち上げました。


公式サイトでは、各話の更新と同時に、少しだけ大きな文字サイズで物語を掲載しています。

「なろうの文字は少し小さいな」と感じる方は、こちらが読みやすいかもしれません。


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