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ひろしま郷土史譚《三原編》~潮風と祈りの物語~  作者: かつを
第3部:時代の物語 ~近代化と戦争の記憶~
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山陽本線開通と鉄道工夫の汗 第8話:枕木に眠る声(終)

作者のかつをです。

第十章の最終話です。

 

主人公・吾一が亡き友との約束を果たす旅。

そして彼が自らの仕事の本当の意味を見出す、再生の物語を描きました。

この物語のテーマである「過去と現代の繋がり」を、改めて感じていただけたら幸いです。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

鉄道が開通し、三原の町は活気に満ちあふれた。

人、物、情報がこれまでとは比べものにならない速さで行き交い、町は急速に発展していった。

 

工事が終わると、あの地獄のような飯場も解散となった。

人夫たちはわずかばかりの銭を手に、それぞれの故郷へと散っていった。

 

吾一も二度と見たくないと思っていた故郷の村へと帰った。

彼が手にした銭は、約束通り新しい畑を買うには十分な額だった。

 

父は涙を流して喜び、母は痩せて傷だらけになった息子の手を握りしめて泣いた。

一家の暮らしは救われた。

だが吾一の心に開いた大きな穴は、埋まることがなかった。

 

彼はその後、寡黙な青年となりただ黙々と畑を耕す日々を送った。

 

そして事故から一年が過ぎた、ある晴れた日のこと。

吾一は母を連れて三原の駅へと向かった。

 

「……本当にいいのかい、吾一」

 

母が心配そうに尋ねる。

 

「……ああ。約束だからな」

 

吾一は初めて汽車に乗った。

 

ガタン、ゴトンという規則的な振動。

車窓から流れていく見慣れた故郷の景色。

それは不思議な感覚だった。

自分たちが一年以上もの歳月をかけて、一歩一歩築き上げてきた道のりを、汽車はいとも簡単に走り抜けていく。

 

やがて汽車はあの鉄橋の上に差し掛かった。

眼下には沼田川が、きらきらと輝いている。

 

吾一はそっと目を閉じた。

耳に聞こえてくるのは機関車の音だけではない。

 

「エンヤラヤー、ソーレ!」

 

泥だらけの男たちの掛け声。

そしてあの日の源さんの、不器用で優しい声。

 

『坊主。いつか一番汽車で、江戸見物に連れてってやる』

 

「……源さん。……俺は今、あんたの夢と一緒に走ってるぜ」

 

吾一の頬を、一筋の涙が伝った。

 

彼はこの汽車が走る限り、源さんのような名もなき男たちの魂も共に走り続けるのだと、信じることができた。

この枕木に眠る彼らの声に耳を澄ませる人間がいる限り。

 

 

……現代。三原駅。

 

新幹線や在来線が轟音を立てて、ホームを滑り込んでくる。

 

もしあなたがその列車の窓から何気なく外の景色を眺めたなら。

ほんの少しだけ、想像力を働かせてみてほしい。

 

 

この当たり前のように続く鉄の路。

 

その一本一本の枕木の下には、日本の近代化という大きな夢のためにその命を捧げた、名もなき工夫たちの声にならない叫びとささやかな祈りが、今も静かに眠っているということを。

 

 

その声が聞こえた時、いつもの車窓の風景が、いつもより少しだけ尊く、そして愛おしく見えるかもしれない。

 

 

(第十章:鉄路は未来へ続く ~山陽本線開通と鉄道工夫の汗~ 了)

第十章「鉄路は未来へ続く」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

 

鉄道は日本の近代化を文字通り牽引してきました。

その輝かしい歴史の裏側には吾一や源さんのような、名もなき人々の無数のドラマがあったことでしょう。

 

さて、明治の陸の物語から、次回は舞台を大正、そして昭和の海へと移します。

三原が誇るもう一つの近代化の象徴がテーマです。

 

次回から、新章が始まります。

第十一章:煙と鉄の交響曲 ~造船所の男たち~

 

日本の海運を支え、やがて戦争の荒波へと飲み込まれていく巨大な船。

その船を造り上げた技師と職人たちの誇りと友情、そして哀しみの物語です。

 

引き続き、この壮大な郷土史の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。

ブックマークや評価で応援していただけると、第十一章の執筆も頑張れます!

 

それでは、また新たな物語でお会いしましょう。

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