朝鮮通信使と港町の歓迎 第2話:港町の喧騒
作者のかつをです。
第八章の第2話をお届けします。
今回は朝鮮通信使が三原の港に上陸したその日の賑わいと喧騒を描きました。
主人公・太一が初めて異文化と触れ合った時の驚きと感動を、感じていただければ幸いです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
翌朝。
港は夜明け前から、これまで経験したことのない喧騒と熱気に包まれていた。
朝鮮通信使の船団が、ゆっくりと港に入ってきたのだ。
その巨大な船体が近づくにつれて、人々からどよめきが上がる。
船の舳先には龍や鳳凰と思われる極彩色の彫刻が施され、見たこともない文字が書かれた色とりどりの旗が潮風にはためいていた。
やがて船から桟橋へと板が渡される。
そして最初に降りてきたのは、鼓笛隊だった。
チャルメラのような甲高い音色の笛。腹の底に響く太鼓のリズム。
彼らが奏でる異国の音楽は、日本のどの祭囃子とも違う、どこか大陸的な雄大な響きを持っていた。
続いて現れたのは、色鮮やかな衣装を身にまとった使節団の一行だった。
絹のように光沢のある青や赤のゆったりとした服。頭には黒い独特の形の帽子を被っている。
顔つきも髪型も、日本人とはどこか違う。
だがその立ち居振る舞いは、堂々として気品に満ちていた。
太一も人垣の一番前で、目を皿のようにしてその光景を見つめていた。
まるで芝居の一場面を見ているかのようだった。
使節団の一行は安芸藩が用意した本陣、つまりこの地域で最も格式の高い宿舎へと向かっていく。
その道中、彼らは物珍しそうに日本の家並みや人々の様子を眺めている。
そして時折彼ら同士で、全く聞き慣れない言葉で何かを話し合っては笑っていた。
その笑顔を見た時、太一ははっとした。
怖い、得体の知れない異国の人。
そう思っていた。
だが彼らも自分たちと同じように笑い、驚き、好奇心に満ちた瞳をしている。
その日から数日間。
三原の港町は、まるで巨大な祭りのような賑わいとなった。
藩は通信使たちをもてなすため、能や狂言といった日本の伝統芸能を披露した。
通信使たちもまた自国の詩や書を披露し、藩の学者たちと交流を深めた。
太一のような子供たちにとっては、見るもの聞くもの全てが初めての体験だった。
言葉は通じない。
だが身振り手振りで何かを伝えようとすると、若い通信使の一人が面白そうに笑いながら応えてくれた。
そして懐から見たこともない甘い菓子を一つくれた。
松の実が入った蜜で固めたその菓子は、今まで食べたどんな駄菓子よりも美味しかった。
太一は思った。
世界は自分が思っていたよりもずっと広く、そして面白いのかもしれない。
筆影山の上から見える景色だけが、世界の全てではないのだ。
このほんの数日間の出来事が、太一の心の中に小さな、しかし確かな種を蒔いていた。
それはまだ見ぬ広い世界への、憧れという名の種だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
朝鮮通信使の行列は、まさに動く総合芸術団のようでした。
彼らがもたらした音楽、舞踊、書画といった大陸の最新の文化は、日本の各地に大きな影響を与えたと言われています。
さて、異文化との出会いに心をときめかせた太一。
彼は一人の通信使の役人と、特別な交流を持つことになります。
次回、「言葉の通じない出会い」。
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